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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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6

外に出て広がる景色はまず森、そして川、滝、遠くには山。

田舎と呼ぶのも烏滸(おこ)がましい、完全なる僻地だった。

初めて外を見たときは驚いたラピスだったが、どこからともなくリリィが惣菜を買ってくる(持ってくる?)ので、思っているより近くに街があるのだろうと勝手に納得していた。


「ねェリリィさん。街までどのくらいなの? あとどっちに歩くの?」


ラピスの問いかけにリリィはこてんと首を傾げる。


「街はあっちだけど……歩くと多分、2日くらいかかるわよ?」

「うぇ?」


予想外の数字に思わずおかしな声を出す。精々1時間半、かかっても2時間くらいだと思っていたのだ。

だがそうすると計算が合わない。リリィはフラッと出ていったと思ったら、4~5時間で戻ってきていたのだ。

つまり、彼女には歩き以外の移動手段があると考えられる。

ここでラピスはリリィの職業を思い出した。普段がぐうたらな所為ですっかり忘れていたが、彼女は魔女だった。ということはつまり──


「わかった! 箒で飛んで行くんでしょ! 魔女だもんね!」


自信満々なドヤ顔で答えるラピス。リリィはそれを可愛いと思ったが、やんわりと否定した。


「違うわよ。6000年くらい以前(まえ)までは箒で飛んでたけど、あれって結構お尻が痛くなって嫌だったのよ。だからあたしは“これ”を作ってね、以来ずっとこの子に乗ってるわ」


そう言うと、リリィは懐から掌大のカードを取り出し、中空に投げた。

するとどうだろう、カードが淡く輝きだし、光が収まると、そこには宙に浮く絨毯が出現しているではないか。


「どお? 驚いた? あたしの傑作、空飛ぶ絨毯よ」

「凄い! 魔法のランプが出てくる物語みたい!」

「ああ、あれ、この子がモデルなのよ。作者の子、あたしの友達だったの」

「おお、長生きっぽい台詞だ!」


ウキウキと早く乗りたそうにするラピスに、リリィは微笑み、先に絨毯に乗り込むと、ラピスを引っ張りあげた。


「2時間くらいで着くから、しっかり掴まっててね」


ラピスはコクリと頷き、悩んだ末にリリィの左腕にしっかりと抱きついた。


「じゃ、行くわよ」

「うん!」


二人を乗せた絨毯はゆっくりと高度を上げていき、森の木を越える高さに達すると、街へ向かって飛んで行った。

気温はぽかぽかと暖かく、風も少ない。絶好のフライト日和だった。


「どお? ラピスちゃん。気持ちいいでしょ?」

「………」

「ふふ、声も出ないのね。無理もないわ。綺麗な景色だもの」

「………」

「あ、あそこに洞窟があるの見える? あそこね、漆雷獣(ベヒーモス)が住んでるのよ」

「………」

「2000年くらい以前(まえ)だったかしら。生意気にもあたしに喧嘩を吹っ掛けてきてね」

「………」

「まァあっさり返り討ちにしたんだけど、それ以来懐かれちゃって。今ではうちの番犬をしてくれてるのよ」

「………」

「お礼に虹色孔雀の卵とかをあげてるんだけど──ラピスちゃん聞いてる? ……ラピスちゃん!?」


反応がなかったラピスを(いぶか)しみ、顔を覗き込んでみると、びっくりするくらいに血の気が引いた彼女がそこにいた。


「……リ……リリリリ……リリ、ィさん……わ、わた、わたし……」

「もしかして、高い所ダメだった?」

「そ……そそそそそう、みたい。……………………しぬかも」


ラピスの顔色は蒼白を通り越し、紙のように真っ白だった。最早誰の目にも余裕がないことは明白だ。


「しょうがないわねェ。──よい……しょっと」

「あ、うぅ……」


リリィはラピスを持ち上げると、自分の膝の上に抱き合うように座らせた。


「これなら多少は安心感が増すと思うんだけど……どおかしら?」

「…………うん、ありがとう。…………これならだいじょうぶ」

「どうしても無理そうなら言うのよ? 適当な所に降りるから。襲ってくる獣は焼き払うし」

「…………だいじょうぶ。…………リリィさんのにおいがしてあんしんするから。…………つくまでこのままでいい?」

「ええ、もちろん」


さりげに怖いことを言っていたリリィだったが、ラピスにはまだツッコむだけの余裕がなかった。




およそ2時間後。


「ラピスちゃん、着いたわよ。もう足もつくから目を開けて」

「…………ん」


結局、フライトの間は目を瞑って、リリィに両手両脚でしがみついていたラピスだったが、地面に自分の脚で立って一安心。

おもいっきり深呼吸をしていた。


「……地面が揺れないって素晴らしい」

「航海中に船酔いで苦しんだ人みたいな感想ね」


隣に降りて歩き出したリリィにクスクスと笑われる。

その反応にラピスは唇を尖らせて追いかけた。


「もう! 本当に怖かったんだからね!」

「ごめんごめん。もう笑わないから赦して」

「むゥ、いいけど……。…………帰りもあれに乗るんだよね」

「まァ……そこは我慢してもらうしかないわね」


リリィは申し訳なさそうに言い、ラピスは憂鬱そうに嘆息する。


「…………帰りも、ぎゅっとしてくれる?」

「ええ、もちろんよ」

「……それなら、頑張る」

「ごめんね」


ラピスの雰囲気が少し明るくなる。

それを見てリリィは、よかったと微笑むのだった。

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