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風呂から上がって部屋にて。
これからどうしようかと、彼女たちは話し込んでいた。
ベッドに座るリリィの膝枕にラピスが仰向けに寝て、そのラピスのお腹に胸を乗せる形でセラが寝ている。
くんずほぐれつ、を体現しているかのような体勢だ。
「海で遊ぶのは明日でいいわよね?」
「うん。……リリィの水着、楽しみ♪」
「姉さまの水着も楽しみですわ♪」
好きな人の水着姿を想像して、全員がによによと笑う。
それはともかくとして今日の予定だ、と頭を振った。
「食べ歩きとかしたいわね」
「夕飯入らなくなる──ならないか、リリィなら」
「わたくしは釣りをしてみたいです」
「あ、わたしも!」
無邪気に笑うラピスの頭を撫でるリリィ。
話し合った結果、屋台で適当に食べ物を買って、釣竿を借りて釣りに行くことにした。
部屋を出て、フロントに鍵を預ける。
行ってらっしゃいませという言葉を背中で聞いて、彼女たちは宿を出た。
海鮮を使った料理を求めて練り歩く。それは探すまでもなくすぐに見つかった。
イカ焼き、サザエのつぼ焼き、車エビの串焼き、子持ちシシャモの串焼き。
変わり種として、たこ焼きなんてものもあった。……だがその形状が──
「あはは、見て見てセラ。このたこ焼き、串に刺さってる。変なの」
「あの……すみません姉さま。不勉強なもので、本来のタコヤキがどんなものかわかりません」
「本当はね、“舟”ってゆう独特な器に8個か10個入ってるんだよ」
それでも一応買うラピス。ソースしかかかっていないが、マジックバッグに常に入っているマイ調味料で、後で味つけをして食べるつもりだ。
他にもリリィが食べる分をたくさん買い込み、海岸へ向かった。
幸い貸し釣竿はすぐに見つかり、3本受け取る。更に小舟の貸し出しも行っているというので、せっかくだから借りることにした。
あのブイより沖には出ないようにという注意を聞き、舟を漕ぎ出す。漕ぎ手は、やってみたいと買って出たラピスだ。
初めてとは思えない巧みな櫂捌きで、ラピスはブイぎりぎりまで舟を寄せた。
そこで買ってきたものをマジックバッグから出し、リリィが魔法で温める。
いただきますと言って、簡単な食事、所謂おやつタイムが始まった。
リリィはひたすらもぐもぐ食べているが、ラピスとセラは串焼き片手に釣竿も構えている。王女時代からは想像もできない行儀の悪さだった。
「ラピスとセラちゃん、行儀悪いわよ」
「んゅ? ……もぐもぐ、ごくん。──でもこのほうが、『釣り人』って感じしない?」
「しない」
「しないかァ……」
益体もない話をしていると、ラピスの竿が震えた。
「! 姉さま! 引いてますわ!」
「わわっ! ど、どおすればいいの?」
「落ち着いてラピス! とりあえず糸を巻くのよ!」
リリィの指示に従い、糸を巻き上げる。かなり引きが強く、大物を予感させた。
3分程巻き上げていると、うっすらと魚影が見えた。大体40センチくらいだろうか。
「これおっきくない? これおっきくない?」
「なんで2回ゆうの? なんで2回ゆうの?」
「リリィ義姉さまも2回ゆってますわ! 2回ゆってますわ!」
なんだかおかしなテンションにはなったが、その後無事に魚を釣り上げた。
ラピスが左手で掴む。
「わァ! 鯛だよね、これ! 高いやつだ!」
「ご飯と一緒に炊くと美味しいやつですわね」
「…………ごくり」
宿で調理してもらうか、ダメなら使ってない時間に厨房を貸してもらおうと決めて、専用のボックス──魚籠に鯛を入れた。
幸先のいいスタートに、ラピスの頬がほころぶ。楽しそうな彼女を見て、リリィもセラも嬉しそうだ。
だが──
「お、また釣れた!」
「あー、今度はちっちゃいや。20センチしかない」
「あれ? これってヒラメだっけ? カレイだっけ?」
……なぜかラピスだけが釣れる釣れる。
好きな人が楽しそうなのはもちろんいいことだが、いい加減自分の竿にも当たりが来てほしい。
そんなことを考えていた矢先──
「! 来ましたわ!」
「!?」
先にヒットしたのはセラだった。
リリィは信じられないとばかりに目を丸くする。
セラは必死に糸を巻き上げ、やがて釣り上げた。
「大きいですわ! ……でもこれなんでしょう?」
セラが釣り上げた魚は80センチはあるだろうか。今日の釣果でダントツの大きさだ。
魚籠にも入らないので、ラピスが手際よく絞めて、舟の隅に放置する。
「セラ凄い! これ鮭だよ!」
「鮭!? あの毎朝お世話になってるあれですの!?」
「うん、あれ。これだけあれば、当分の間は困らないね♪」
リリィこれ凍らせて持って帰ろう、と言いかけたところでラピスは気づいた。リリィがしょんぼりと肩を落としていることに。
「………」
「あーっと、リリィ? 人には向き不向きがあって──」
「ラピス。場所を交換しましょう」
「…………うん」
リリィのなかでは場所が悪いという結論になったらしい。精々1メートルしか変わらないのに。
場所を交換したあとも釣れるのはラピスばかり。たまにセラ、といった具合だった。
リリィの顔が更に悔しげに歪む。
「………………」
「……えっと」
「ラピス。竿を交換しましょう」
「…………はい」
今度は竿が悪いという結論になったらしい。
リリィはもとより、ラピスもセラも、お願いだから釣れてと祈った。
だが現実は無情である。
その後もラピスは釣り続け、リリィには全くヒットしない。魚籠がいっぱいになったので、ラピスは既にキャッチアンドリリースに切り替えている程だ。
「………………………」
「………………………」
「………………………」
なんとも気まずい雰囲気が訪れる。
そのまま時間が切れ、彼女たちは海岸に戻った。
釣竿と舟を返す際に店員の男が、「おォ、大分釣ったなァ! やっぱ3人もいると違うなァ! がっはっは!」などと空気を読まない笑い声をあげていた。
セラと、男性が苦手なラピスでさえ、こいつぶん殴ってやろうかと考えた程だ。
「……リ、リリィ。機嫌直してよ。美味しいもの食べさせてあげるから」
「……すみませんリリィ義姉さま。わたくしが釣りをしてみたいと言ったばかりに。……美味しいものでも食べに行きましょう」
「…………二人とも、あたしが不機嫌なときは、美味しいものを与えておけばだいじょうぶだと思ってない?」
姉妹は揃って首をかしげる。
「違うの?」
「違いますの?」
「よし、二人ともお説教よ。そこに座りなさい」
二人は冗談だったのに、と思いながらも、粛々と正座して説教を受けた。
これでリリィの気が紛れるなら安いもんだ、と。




