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お昼休憩を終えて、また更に2時間飛ぶ。
するとようやく海が見えてきた。
「姉さま。海が見えましたわ。もう少しですので頑張ってくださいまし」
「…………ん」
返事とともに、少し伸びてきたセラの髪に顔を埋めるラピス。
セラは位置の関係上誰にも見られないのをいいことに、思いきり頬をゆるめてだらしない顔をしていた。
「到着したらまず宿を取らないとね。ご飯が美味しいところがいいわね」
「わたくし、蟹が食べたいですわ」
「…………えび」
「あたしは貝ね。もちろんお魚も」
そんな話をしていると、間もなく港街が見えてきた。街の近くの目立たない場所に着陸する。
ラピスはすぐさま絨毯から降りて、んーと伸びをした。
「…………大地は偉大だね。素晴らしい」
「思考がちょっと危ない方向に行ってるわよ?」
リリィは絨毯をしまいながら軽くラピスを窘める。
「それに絨毯だって捨てたもんじゃないでしょ? あたしとセラちゃんにくっつけるんだから」
「それは地上でもできるじゃん。こんなふうに」
そう言ってラピスは、リリィにぎゅうっと抱きつく。
リリィは慣れた手つきで、恋人の頭を撫でた。
しばらくそうして満足したので、港街へ歩き出す。今度は自分の番とばかりに、セラがラピスと腕を組んだ。
初めて行く街で3人くっついて歩くのはさすがに不自然なので、リリィは自重して前を歩く。内心では、宿に着いたら手加減なしのスキンシップをしようと決めていた。
5分程歩いて到着。
門番はおらずあるのは簡単な柵だけで、誰でも入れる造りになっていた。おおらかな気風の住人が多いのだろう。
大通りを歩いて宿屋を探す。
姉妹はキョロキョロと目線──と、ひくひくと鼻を動かしている。磯の香りが珍しいのだろう。
そんな様子も目敏く観察していたリリィは、スキンシップを少し長めにしようと決めた。
「宿って大通りじゃなくて、海岸のほうに多いんじゃないかな? わかんないけど」
「かもしれませんわね。部屋から海が見えれば、セールスポイントになりますし」
姉妹の提案を受けて、「じゃあそっち行ってみましょう」と歩く方向を変える。
海岸沿いの道に着く。そこにはズラリと宿屋が並んでいた。
「ラピス。ビンゴね」
「えへへ♪」
照れ笑いをするラピスは、殺人的に可愛かった。
どの宿屋がいいのかわからないので、地元の人に海鮮の美味しい宿を教えてもらうことにする。結果、どの宿も海鮮は美味しいよという答えが返ってきた。考えてみれば当然だと思った。
フィーリングで選んだ宿屋は、『かもめの揺りかご』といった。
名前で選んだだけだが、掃除が行き届いていて気に入った。
3人部屋を2泊分借りて、その分のお金を払う。鍵を受け取って2階の部屋に向かった。
部屋にはベッドが3つと、鏡が置いてあった。そして嬉しいことに、備え付けのお風呂までついている。
早速とばかりに、リリィは部屋に適温化の魔法陣を刻んだ。暑いのは嫌いだし、こう暑いとスキンシップもままならなくなる。
もちろん部屋を引き払うときには戻すつもりだ。
マジックバッグを置きながらリリィが訊く。
「大浴場もあるらしいけど……どおする?」
少し悩んでから姉妹は答える。
「わたしはここのでいいよ。他の人に裸見られるの嫌だし」
「わたくしもですわ」
「そお? じゃああたしは今から行ってこようかしら。今なら誰もいないでしょうし」
悪戯っぽく笑って準備をするリリィに、慌ててラピスとセラは追従する。
「それならわたしも行く!」
「今から行くならそおゆってくださいまし!」
結局全員で行くことにして、鍵をかけて部屋を出た。
大浴場は1階にあるので、階段を降りて向かう。
女湯のドアを開いて中に入った。
案の定、中には誰もいなかった。安心して3人は服を脱ぐ。
引き戸を開けて浴室に入ると、驚くことに檜の湯船が広がっていた。
「わァ! 広ォい! ──ってゆうところなんだよね、普通は」
「家のお風呂と同じくらいですわね」
「ま、まァいいじゃない。雰囲気を楽しむのよ、雰囲気を」
苦笑いしながらラピスの髪をまとめるリリィ。「ありがと」と言って、ラピスもリリィの髪をまとめた。
かけ湯をして、汗を流してから湯に浸かる。そしてすかさずリリィはラピスに抱きついた。
「きゃっ! な、なに?」
「スキンシップよ。さっきは散々セラちゃんとイチャイチャしてたんだから、今度はあたしの番でしょ?」
その台詞を聞いてそれもそうだと思ったセラは、そっと距離を取る。
ラピスもそう思ったので、恥ずかしいのを我慢して恋人を受け入れた。
「もう、しょうがないなァ。リリィは甘えん坊なんだから♡」
「にゅふふゥ。ラピス大好きィ♡」
リリィは恋人にキスの雨を降らせる。
確かに今日の彼女は甘えん坊だ。旅行のテンションがそうさせているのだろう。
「ひう! く、くすぐったいよ、リリィ」
「ふふ。可愛いわよ、ラピス♡ 世界一可愛いわ♡」
いつもより過激なスキンシップに、顔を赤らめるラピスと、恍惚とした表情のリリィ。
大きな幸せオーラで、恋人たちはピンクの雰囲気を出していた。
そしてそれを見守る者が一人。
「そおですわ♡ 姉さまは世界一可愛いですわ♡」
一段と可愛い姉を見れて、満足げなセラだった。
こうして彼女たちは、逆上せる間際まで蜜月を続けるのだった。