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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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ラピスたちと他のグループが帰るタイミングは、偶然にもほぼ同じだった。

アイリスとホルンは表情といい仕種(しぐさ)といい、今朝よりも格段に明るくなっていた。デートは大成功だったのだろう。


一方リリィは朝と()して変わらない。

ただ、恋人と離れて寂しかったのか、帰ってくるなりラピスに抱きついてキスをしていた。


夕飯までの時間をそれぞれ本を読んで過ごす。

ラピスとホルンは料理本。アイリスは植物図鑑。リリィは最近流行りの小説。セラは古今東西の美術品の一覧。

ここでもよく個性が出る結果になった。


時間がいい具合に潰れ、夕飯の準備を始める頃になって、ラピスとホルンはパタンと本を閉じた。


「よし、ピザを作ろう」

「うし、グラタンを作るッス」


二人の意見が割れる。

ラピスは困ったように笑って言う。


「えっと。お昼がスパゲティだったから、またパスタはちょっと……」

「うっ、マジッスか」


今度はホルンが気まずそうに口を開く。


「実はウチら、お昼ピザだったんスよ。なんでピザは遠慮したいところッス」

「あちゃー、そっかァ……」


なんとも言えない空気が満ちる。

ラピスは他の3人にもリクエストを訊くことにした。


「リリィはなんか食べたいものある?」

「んー、あたしはご飯ものが食べたいわ」

「ご飯ね。──セラは?」

「姉さまの作ったものならなんでも! と言いたいところですが、それだと困りますわよね? んー、野菜が食べたいですわね」

「野菜ね」


そこまで聞いて、ホルンが恋人に訊く。


「アイリスさんはなんか食べたいものないッスか?」

「そうだな。……卵料理が食べたいな」

「卵ッスね」


それぞれのリクエストを踏まえて考えると──


「……オムライスとサラダかな?」

「そッスね。スープもつければ完璧ッス」


メニューが決まったので調理に取りかかる。


ラピスは米を研いで炊飯器にセットする。人数が多いし、魔女勢がよく食べるので一升だ。炊きすぎかもしれないが、余ったら余ったで活用法があるので問題ない。


ホルンは玉ねぎと人参をみじん切りにして、鶏肉も細かく刻む。

それから圧力鍋に、適当にちぎったキャベツと水と塩胡椒、それから鶏皮とコンソメを容れて蓋をした。


「この圧力鍋ってやつ、便利すぎッスね」

「でしょ? リリィにお願いして作ってもらったの」


美味しいもの作ってあげるって言ったら一発だったよ、と笑って言うラピス。

話しながら作業を進めていき、直に米が炊ける。


先程刻んだ野菜と鶏肉を先に炒め、そこにご飯を投入した。鶏の脂が馴染んだら、塩胡椒を適量、ケチャップをどばどばと入れる。経験と勘からくる目分量だ。更に炒めて皿に移し、チキンライスの完成だ。


次はオムレツを焼いていく。

ほんの少しの牛乳を混ぜた卵を器用に焼いていき、ふんわりと仕上げる。それをチキンライスの上に乗せて、包丁で真ん中を切ればオムライスの完成だ。


「はい、できたよォ。ケチャップとデミグラスソース、好きなほうをかけてね」


サラダとスープも並べて、食卓につく。ラピスとセラ姉妹はデミグラス、他の3名はケチャップだ。

……尤も魔女勢は、まずは(・・・)ケチャップ、だが。

いただきます、と言って食事が始まった。


「美味しい! ラピス、これ美味しいわ!」

「ふふ、ありがとう。おかわりも作るからどんどん食べてね♪」

「リリィ義姉(ねえ)さま。口元にケチャップがついてますわよ」


ラピスたちがわいわいと食を進めるのに対して、アイリスは無言でスプーンを動かし続ける。どうやら彼女は、美味しいものは無駄口叩かずに食べるタイプらしい。

その様子を眺めるホルンも自然と無言になる。一言も喋らずに甘い雰囲気を作り上げていた。


リリィとアイリスが3回ずつおかわりして食事が終わる。余ったご飯はドリアか炒飯にでもなるだろう。


リリィの希望で食後にアイスコーヒーが振る舞われる。ラピスとホルンはカフェオレ、セラに至ってはコーヒー牛乳だった。


ほっこりしていると、アイリスがなにかを思い出したらしい。(おもむろ)にマジックバッグに手を突っ込んだ。


「なにしてるんスか? アイリス

さん」

「いや、東の島国(むこう)で酒を買ったことを思い出してな。せっかくだしリリィ先輩と呑もうかと」

「ヘェ、お酒? いいわね」


出てきた瓶を見ながらリリィが言う。

次いで、傍らのラピスと触れ合いながら「ラピスとセラちゃんもどお?」と誘った。

それに姉妹は首を横に振る。


「遠慮しとくよ。わたしびっくりするくらいお酒弱いし」

「そおなの? どのくらい?」

「匂いだけで酔う。一舐めしたら寝る」

「…………相当ね」


苦笑いで一筋汗を流すリリィだった。


「わたくしもお酒は結構ですわ」

「セラちゃんも弱いの?」

「姉さま程ではありませんが、かなり弱いです。あと、信じられないくらいに酒癖が悪いですわ」

「そおなの? どのくらい?」

「姉さまを褒めちぎって、それ以外をひたすら罵倒します。以前(まえ)はホルンさんに罵詈雑言を吐いたらしいですわ」

「………」


視線がホルンに集まる。彼女は遠い目をして答えた。


「──…あれは辛かったッスねェ……。人格を否定されたのは初めての経験でした……」

「……誠に申し訳ありませんでしたわ」


掘り下げても誰も得をしなさそうだったので、話を切り上げる。


「えっと、じゃああたしはいただくけど、ホルンちゃんはどおする?」

「ウチも呑むッス。興味あるんで」


呑むグループと呑まないグループに別れる。

呑まないグループの姉妹、特にラピスは酒の匂いもダメなので、風呂に避難して、そのまま寝ることにした。


彼女たちを見送って、アイリスは栓を開けた。芳醇な香りが辺りに満ちる。


「いい香りね。なんてゆうお酒なの?」

「それが、この酒には名前がないんです。いずれは東の島国の名を冠する酒になるそうなのですが……」


ホルンが用意したグラスに注ぎながら、アイリスが説明する。それに追加するのはホルンだ。


「ラピスさまから聞いたんスけど、東の島国はまだ国のトップが決まってないらしいんス。決まり次第国の名前も決めるらしいんスけど、候補がありすぎて憶えてないんで、その辺はラピスさまに訊いてください」


説明を聞いていると、いつの間にかテーブルの上にチーズと炙ったベーコンが置いてあった。ホルンが用意してくれたらしい。

リリィは目で謝意を伝えてグラスを持った。


「じゃあ、アイリスに恋人ができたことを祝って──」

「え!? あ、いや、リリィ先輩!?」

「──乾杯」


リリィの突き出したグラスに、ホルンが恥ずかしそうに自分のグラスをコツンと当てる。

アイリスが真っ赤になって慌てるとともに、晩酌は始まった。




程よく酔いも回ってきたところで、ラピスとセラが風呂から上がってきた。

色っぽく火照った肌にリリィは衝動のまま抱きつこうとしたが、ラピスは酒の匂いもダメだということを思い出して自重した。

離れたところから魔法をかけて姉妹の髪を乾かす。そのまま手を振って、寝室に行く彼女たちを見送るつもりだった。


「──ねェリリィ」


しかし図らずもお呼びがかかる。

「近づいても平気?」と問いかけるとゆっくり頷かれたので、手の届く距離まで近づいた。


「どおしたの?」

「うっ。……やっぱりリリィお酒くさいね」

「…………ちょっと傷つくわ」


こんなことを言うために呼んだのかと、リリィは肩を落とす。


「あ、ごめんごめん。そうじゃなくてね──」


そこで言葉を切って、ラピスはセラにアイコンタクトを送る。それに対してセラは任せろと言わんばかりに頷いた。


「ねェリリィ。ちょっと下向いて」

「? こお?」


リリィが首を傾けた瞬間、ラピスは距離を詰めてその唇を奪った。

突然のことに動揺するリリィ。咄嗟に唇を離そうとするも、しっかりと頭を固定されていて叶わない。

それどころか、舌を入れて口の中を蹂躙(じゅうりん)される。

ラピスの舌がリリィの口腔内で暴れまわり、歯といい舌といい、あらゆる場所を舐め回した。

たっぷり1分間、ディープなキスを交わして、ラピスは離れる。その顔は火が出そうな程に真っ赤だった。


「……き、今日はあんまり構ってあげられらかったかられ。これはそろ埋め合わせらよ」


リリィの口に残る僅かなアルコールを舐めてしまったのだろう。ラピスはふらふらに酔っぱらって、その場に倒れる。それを絶妙なタイミングでセラが支えた。


「ではリリィ義姉(ねえ)さま。わたくしたちは先に休ませてもらいます。おやすみなさいませ」

「…………ええ。…………おやすみ」


呆然と、ラピスを背負って階段を上るセラを見送る。

ふらふらと覚束ない足取りで席に戻り、そっと唇を押さえた。


「いいものを見させてもらいました」

「ラピスさま可愛いッス。リリィさまは幸せ者ッスね」


(はや)し立てる二人の声など全く耳に入らず、魂を抜かれたかのようにボーっとする。


──気持ちよかった──


さっきのキスは酔った自分の視た夢なんじゃないかと、馬鹿な考えが頭をよぎる。だが夢ではない証拠に、リリィの唇は未だに熱を保っていた。

酔いはすっかり醒めていた。

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