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昼食はスパゲティが美味しいとリリィから聞いていたお店で摂った。ラピスは和風ツナスパゲティ、セラはボロネーゼだ。
本当はセラは、ペペロンチーノを食べたかったのだが、デート中にニンニクは……という極めて乙女チックな理由で注文を見送ったのだった。
ちなみにスパゲティは非常に美味だった。
更にちなみに、当然のようにあーんをしたことは、わざわざ語るまでもないだろう。
昼食の後、午後のデートは続く。
セラが彫刻に使う木材や、色づけ用の絵の具が欲しいと言ったので買いにいったり、ラピスが皆で遊べるゲームが欲しいと言ったので、カードやボードゲームを買いにいったり、充実したデートを満喫していた。
歩き疲れたので広場にあるベンチで休憩する。
特にセラはラピス程活動的ではないので、かなりお疲れモードだ。
この気候なので少し汗をかいており、顔も赤い。
「セラ。これ飲んで」
ラピスがマジックバッグから水筒を取り出し、セラに差し出す。彼女は「ありがとうですわ」と言って受け取った。
「少し休んだら今日はもう帰ろうか。家でもスキンシップはできるしね」
「はい、そうですわね。……膝を借りてもよろしいですか?」
「うん、いいよ。おいで♡」
セラはコテンとラピスの膝に頭を預ける。ラピスはにへへと笑って妹の髪を撫でた。
セラの疲れが取れるまではこうしていようと、頭を撫で続ける。
その目には最早セラしか映っていない。シスコン大爆発だった。
だからだろうか。すぐ近くに人が寄ってきても気づかなかった。
「──ねェ、あなた」
セラに夢中だったため、一瞬反応が遅れる。声のほうを見ると、つり目の所為でキツい印象を受ける、30歳くらいの美人がこちらを睨んでいた。
声をかけられる心当たりも睨まれる謂れもないラピスは、ただただ困惑する。セラとアイコンタクトしても、フルフルと首を振られた。
「えっと──」
「あなた、リリィちゃんの彼女でしょ? ……浮気?」
突如かけられた予想外の言葉に、ラピスの頭は真っ白になる。
が、意味を理解して慌てて反論した。
「ち、違うし! この子は妹です! わたし、リリィ一筋だから浮気とかしないもん!」
セラも起き上がる。
「そおですわ! おかしなことを言わないでください!」
真っ赤になってまくし立てる。こんなところで変な噂を立てられては、堪ったものではなかった。
女性はまだ疑わしげに続ける。
「本当に? とても姉妹の距離感にはみえないわよ?」
「ほら! 髪の色!」
「瞳の色もですわ!」
色々と言葉を尽くして、ようやく納得してもらう。その頃にはラピスもセラも、休憩する前より疲れていた。
「つまり、あなたたちはただのシスコンだと」
「……うん。その理解でいいです」
「そお。ごめんなさいね、早とちりだったわ」
「……わかってくだされば構いませんわ」
女性はつかつかと去っていく。それを見送って、ラピスとセラはぐでー、と互いに凭れかかった。
「……まさか、あんな勘違いをされるとはね。そりゃ、セラのことは大好きだけど」
「……ほんとですわね。そりゃ姉さまのことは愛していますが」
疲れて動く気にならない。
ボーっとしていると、不意にセラがラピスの手を握った。
「──でも、不謹慎ですが、嬉しかったですわ。……姉さまと恋人同士と言われたみたいで……」
セラは頬を染めて言う。
そのいじらしさにラピスは我慢できなくなり、空いている手でセラを抱き寄せて頬にキスをした。
驚くセラに、はにかむラピス。
一段と空気が甘くなった気がした。
「──…やっぱり浮気なんじゃないの?」
「なんでまだいるの!?」
「いい加減にしてくださいまし!」
姉妹の叫び声が木霊した。
休憩終わり、帰り道。
ロッゾに片言で「マタキマス」と挨拶をし、今は空の上だ。
相も変わらずラピスはセラに抱きつき、目を瞑っている。
「姉さま。少々よろしいですか?」
「…………なに?」
「いえ、今日のお礼を、と思いまして」
セラは少し畏まって言葉を紡ぐ。
「デートに誘ってくださって、嬉しかったです。また、こうしたいですわね」
「…………セラがのぞむなら、なんかいだってデートするよ」
「うふふ。ありがとうですわ。わたくしも、また姉さまとデートしたいです」
ぎゅっと抱く力を強める。
「姉さま。わたくしは姉さまが大好きです。愛してます」
「…………わたしもだよ。…………セラだいすき」
「……恋人じゃなくて構いません。ですので、一生、そばにいさせてください」
「…………あたりまえじゃん。…………かってにどっかいったらおこるからね?」
「……ありがとうございますわ」
関係性は姉妹。言い回しも違う。
だが紛れもなく、これは一つのプロポーズだった。
斯くしてプロポーズは実を結び、彼女たちは誓う。
一生を姉と──妹と過ごすと。
「…………あいしてるよ、セラ」
「……愛しております、姉さま」
妹の唇が、姉の唇に重なる。
──誓いのキスだった。