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絨毯から下りて、ラピスはふゥーと長いため息を吐く。その表情は深い安心感に溢れている。
一方セラは、少し名残惜しげだ。
それに気づいたラピスが彼女の手を取って、腕と指を絡める。一瞬でセラに笑顔が咲いた。
5分程歩いて街に着く。そこで早くも問題に直面した。
「………」
門番、ロッゾ、男。
ラピス、男の人苦手。
「………」
「……あの、姉さま?」
「だ、だいじょうぶだよ! お姉ちゃんに任せなさい!」
決心して、ラピスはセラの腕を引いて歩き出す。
──気づいたロッゾがこちらを見た。
「おう、ラピス嬢。2日連続だな」
「オ、オハヨウゴザイマス」
「固てェなァ。リリィさんがいねェが……そっちは妹か?」
「リリィ、オ仕事。妹、セラ」
「そっか。まァ入れ」
「アリガトウゴザイマス」
ロッゾに促されてラピスとセラは街に入った。
しばらく歩いて、ラピスは緊張を解く。
「はァ……。ど、どおよ、セラ。わたしだって、男の人相手に話せるんだからね」
「あ、はい。凄いですわね」
「でしょ? 頑張ったんだよ、わたし」
「偉いですわねェ、姉さま。偉い偉い」
セラはまるで子供をあやすかのように、ラピスの頭を撫でた。ラピスはにゅふふと笑う。どちらが姉かわかったもんじゃなかった。
イチャイチャと仲睦まじく歩く。いつもはリリィと歩く道をセラと歩くことに、少しおかしな気分になった。
「なに笑ってますの? 姉さま」
「んーん、なんでもないよ。そおいえばセラとデートって初めてだよね」
「そおですわね。王女時代は自由があまりありませんでしたもの」
「だね。だから今日はわたしがエスコートするよ。この街、大分詳しくなったからね」
「お願いしますわ♪」
水着を買いに行く前に、ラピスはファンシーショップに行くことにした。
素敵な雰囲気の店構えで、以前寄ったときにセラも連れてこようときめていたのだ。
少し歩いてその店に到着した。
「着いたよセラ。可愛いお店でしょ?」
「素敵ですわね。ファンシーショップですの?」
「うん。なんかお揃いの買お?」
「いいですわね! 是非買いましょう!」
意気揚々と店に入り、店内を眺める。中は女の子が好きそうなもので溢れ、ツボを押さえた商品がたくさんあった。
可愛いケースに入った香水、猫をデフォルメしたマグカップ、革張りのキラキラした手帳、ピンクのルームシューズ。
見てるだけでも楽しかった。
「姉さま! これ着けてみてください!」
「……昨日も着けたんだけど。──可愛いかにゃ?」
猫耳ラピスリターンズ。
セラはラピスを抱きしめて撫で回して、耳元で愛を囁いてから舌を入れてキスをした──い衝動に駆られたが、出先なので自重した。自宅ならば間違いなくしていただろう。
「姉さま。それ買いましょう!」
「じゃあセラもお揃いね」
「あとこのマグカップとブレスレットと──」
「ルームシューズも欲しいよね。このシュシュも可愛い♪」
目につく可愛いものを色々と買っていく。それをマジックバッグに入れて店を出た。
いい買い物をしたとご機嫌で姉妹は歩く。当たり前のように腕も組み直してある。
しかし、その距離感に問題がないわけではなかった。
「……暑いね」
「……暑いですわね」
「腕離せばマシだよ」
「……それはイヤですわ」
「うん、わたしもやだ」
汗ばみながらも手は離さない。
せっかくのデート、できるだけ相手を感じていたかった。
「あ、じゃあさ、こないだ気になるカフェを見つけたの。入ったことはないんだけど、行ってみない?」
「カフェですの? 行ったことがないので楽しみですわ♪」
意見が揃ったので、ラピスはカフェへと足を向けてセラを引っ張った。
暑いのを我慢して歩く。しかし彼女たちは、腕を組んで歩くだけで幸せだった。
カフェに到着。
ウッドデッキの席もあったが、暑いので店内の席を選んだ。
二人用の席に案内される。さすがに横並びの席ではなかったので、手を離して向かい合って座った。
頃合いを見計らって店員が注文を取りに来る。ラピスはリンゴとカスタードのタルトとカフェオレ、セラはパンケーキとレモンティーを頼んだ。
注文の品が届いたので食べ始める。飲み物はよく冷えていて、食べ物もすぐに出てきた。この店は当たりだと思った。
「美味しい! このタルト凄い美味しいよ!」
「このパンケーキも絶品ですわ! 美味しいです!」
「ねェセラ。一口ちょうだい」
「いいですわよ。はい、あーん♡」
「あーん♡」
「どおですか?」
「──うん、美味しい♪ セラも一口どうぞ。あーん♡」
「あーん♡」
「美味しい?」
「──美味しいですわ♪」
ラピスは気づいた。あーんの真髄は、別々のものを食べてるときの食べさせ合いにあると。
今度はリリィと一緒に来て、やってみようと誓った。
飲み物をおかわりして、しばらくおしゃべりに興じる。
気づけば殆どの席が埋まっていたので、気を遣って店を出ることにした。
「人気の店ですのね」
「みたいだね。……常連になりたい」
「『いつもの』って注文するの、憧れますものね」
すっかりカフェを気に入った姉妹は、その話で持ちきりだ。
次の目的地はメインの水着ショップ。そこに着くまでカフェの話は続いた。
飲み物で身体が冷えたので、先程よりかは幾分楽だった。
水着ショップに着いて、中を見る。
ラピスは昨日も来た店だが、セラは初めての店だ。目に入るもの全てが珍しく映り、キョロキョロしていた。
可愛いもの、気になったもの、似合いそうなものを手に取っていく。手を繋いでいるので、お互い片手ずつしか使えない。だがそんなことはものともせず、彼女たちは水着を手に取る。あたかも一人の人間かの如く、ラピスの右手とセラの左手が動く。
見ている者がいれば、いや手ェ離せよ、と思ったことだろう。
「セラはどんなのがいい?」
「んー……。姉さまともリリィ義姉さまとも被らないやつがいいですわね」
「肌の露出は?」
「控え目でお願いしますわ」
セラのリクエストに添うものを探す。
何点か見繕ってセラに判断を委ねると、フリルの付いたビキニと、オフショルダーを希望された。
薄緑色のビキニは胸元にフリルが付いていて、スレンダーなセラによく似合いそうだった。
真っ白なオフショルダーは、肩紐のない水着で、二の腕も一緒に覆う構造をしている。こちらもセラに似合いそうだった。
そのどちらも購入することに決める。
セラは可愛い水着が見つかって、ラピスはセラの可愛い姿が見られると思って、それぞれご機嫌だった。
会計をしているとセラがなにかを見つけて、手を離して駆けていく。小首をかしげて見送っていると、一つ水着を持って戻ってきた。
「姉さま! これ、絶対姉さまに似合います!」
そう言って差し出してきたのは、所謂ビスチェタイプの水着だった。
ワンピースとツーピースの間のような形をしていて、お臍が見える作りになっている。フリルもふんだんに使われていて、ラピスも可愛いと思った。
苦笑して水着を受け取る。
「すみません。これもお願いします」
結局1つ多目に水着を購入して、ラピスとセラは店を後にした。




