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翌朝。
焼き魚とご飯と味噌汁といういつもの朝食の席で、ラピスが言った。
「ねェリリィ。今日、セラとホルンの水着買いに行かない?」
朝起きてから、昨日は話せなかったデートの話になって、そこに水着が出てきたのだ。当然セラが自分も欲しいと言い、なら買いに行こうかとラピスは考えたのだ。
「あー、ごめん。今日は公国の依頼を片づけなきゃいけないの」
「そうなんだ……」
ラピスはシュンとして黙りこむ。
仕事も大切だとわかっているので、わがままを言ってリリィを困らせるつもりはなかった。
街に行けないなら普段できない箇所の掃除でもしようかと考えていると、リリィが思いもよらない発言をする。
「あ、ならあたしは箒で行くから、絨毯を貸してあげるわ。それで皆で行ってらっしゃい」
「え? いいの? てゆうか、リリィいなくてもあの絨毯使えるの?」
「使えるわよ? 街まで飛んでってゆえば飛んでくれるわ。あの子賢いから」
「……リリィ義姉さま、なんでもありですわね」
呆れたように言って、セラは味噌汁を飲む。美味しい。
対面で並んで座るホルンとアイリスがなにかを小声で話し、アイリスがラピスの方を向いた。
「すまんが我々は別行動してもいいか? デートをしてみたいんだ」
「あ、ごめんアイリスさん。気が利かなくて。そおゆうことなら全然いいよ」
ラピスが許可を出すと、彼女たちはふんわりと微笑んだ。
「へへ、今日はアイリスさんとデートッスかァ……。楽しみッス」
「いつか呼び捨てで呼んでくれよ? ホルン」
「うっ! ……善処するッス」
温かいやり取りに、他の3人は目を細めた。初々しくて可愛いなァ、と思ったのだ。
「じゃあわたくしは姉さまとデートですわね♪ 楽しみですわ♪」
「そおだね。わたしも楽しみだよ♪」
そのやり取りを見たアイリスが小首をかしげる。
「? ……姉妹でもデートするのか?」
その発言に彼女以外の全員が、なに言ってんだこいつ、的な視線を向けた。
「デートするよ」
「するわよ」
「しますわよ」
「するッスよ」
「そ、そうか……」
自分がおかしいのか? と更に首をひねるアイリス。だいじょうぶだ。おまえはなにも間違っちゃいないぞ。
食事が終わり、それぞれが出かける準備をして、玄関に集合した。
リリィはいつもの魔女ルック。仕事に行くのだから当然だ。
ラピスは、ピンクのニットにグレーのチェックのスカート。セラは白いカットソーにベージュのパンツ。
アイリスは余程気に入っているのか、昨日とは違う和装だった。そして驚くべきことに、ホルンも似たような和装に身を包んでいる。
まさかのペアルックだった。
「すごいわね。まだあたしたちもやってないペアルックに手を出すとは」
「ね。しかも和装だよ。めちゃくちゃ注目浴びるんじゃないかな?」
リリィとラピスのカップルはそう言うも、ホルンとアイリスのカップルは目の前の恋人しか目に入ってないらしく、聞こえていない。
完全に二人の世界に入っていた。
しばらくして、注目を浴びていることに気づいたアイリスとホルンが頬を染めて視線を逸らす。
相変わらず初々しいカップルだ。
いつまでも眺めていたいが、リリィは仕事なので時間があるわけでわない。
咳払いをして空気を変えてから、ラピスにカードを渡した。
「はいラピス。使い方はわかるわよね?」
「うん、だいじょうぶだよ。移動中はセラにしがみつくし」
「任せてくださいまし。姉さまに怖い思いなんてさせませんわ!」
セラの言に嬉しくなったラピスは、その場で妹と唇を重ねる。回りはほっこりした雰囲気に包まれた。
だが一人、空気についていけていない者がいる。──アイリスだ。
「!? ……な、なァ……姉妹でもキスするのか?」
その発言に彼女以外の全員が、なに言ってんだこいつ、的な視線を向けた。
「キスするよ」
「するわよ」
「しますわよ」
「するッスよ」
「…………そ、そうか……」
自分がおかしいのか、と限界まで首をひねるアイリス。頑張れアイリス。おまえはなにも間違っちゃいないぞ。
「じゃあそろそろ行くわね」
「うん。あ、リリィこれ」
ラピスはリリィになにか包みを渡す。
「? なにこれ?」
「お弁当。急いで作ったから簡単なものしか入ってないけど、お昼に食べて」
感極まって、リリィはラピスを抱きしめてキスをした。1度といわず2度3度、繰り返しキスを降らせる。
その度にラピスが擽ったそうに身を捩らせた。
満足したのかキスをやめて、リリィは口を開く。
「ありがとう。大事に食べるわ。じゃあ改めて、行ってくるわね」
「うん。行ってらっしゃい」
今度はラピスからリリィにキスをして、愛しい恋人を見送った。
「では自分たちも行こうか」
「そうッスね」
今度はホルンとアイリスが、箒に二人乗りする。
「行ってくる」
「行ってくるッス」
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃいませ」
和装のカップルが飛んでいくのを見届けて、ラピスはカードを放り投げた。
それは発光し、光が収まると絨毯へと姿を変えている。
リリィ謹製、お馴染みの空飛ぶ絨毯だ。セラがそれに飛び乗る。
「行きましょう、姉さま」
「………………よし」
覚悟を決めて、ラピスも飛び乗った。そしてすかさずセラに思いっきり抱きつく。
「…………いいよ」
「はい。──では街までお願いしますわ」
セラが言うと、絨毯はどんどん高度を上げ、街の方向へ飛び出した。
上空にて。
セラは景色のよさと空を飛ぶ興奮、さらには姉が自分を求めてくれる快感から、恍惚の息を洩らしていた。
「はァ……。何度乗ってもいいですわね、絨毯での移動は」
「…………できればのりたくない」
「あ、では姉さま。思いきって寝転がってはいかがです?」
「…………なんで?」
「いつもベッドでするような姿勢なら落ち着くのではないですか?」
「…………やってみる」
ラピスはセラを抱きしめたまま、ゆっくりと身体を横たえる。絨毯との接地面が増えて安定性が増した。──気がした。
「…………ちょっとマシかも」
「それはよかったです」
「…………つくまで、このままでいい?」
「もちろんですわ♪」
セラは上機嫌に答える。ラピスの抱きつく力が増したからだ。
幸せを噛みしめていると、再度ラピスが口を開く。
「…………セラ。…………いまのせいかつにふまんとかない?」
「1つもありませんわね。城にいた頃より、姉さまとの時間も増えましたし」
「…………なんかあったらゆってね」
「わかりましたわ」
セラは頷いた。
「ところで姉さま。今日は随分おしゃべりですわね。以前は絨毯の上では無言だったと思うのですが」
「…………きょうは、デートだから」
「……う、嬉しいですが、無理はよくありませんわよ。わたくしたち、別に沈黙が気まずい関係でもないのですから」
「…………だいじょうぶ。…………セラとおはなしする」
姉のあまりの可愛さに、セラは気絶しそうになった。可愛い姉を堪能するために根性で耐えたが。
空での会話は、口数の少ないラピスよりも更に喋らないセラという、珍しい光景を生み出した。




