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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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自分目掛けて放たれた矢をぼんやりと見て、リリィは思った。


「(……面倒くさいわね……)」


と。


リリィにとって──と言うより魔女にとって、この程度の矢を防ぐことなどなんでもない。取れる手段が多すぎて、どれで防ごうか考える余裕さえある。


防ぐのは簡単だが、風壁で防ぐとなにが起こったかわからず、無駄な矢を射続けてくると思われる。燃やしてもいいが、魔女は攻撃的な魔法を使えない、ということになっている。それを自分が覆してしまうのも憚られた。


面倒が少なく、自分のことを脅威と認識してもらって、尚且つ攻撃的な魔法を使わない手段。それが理想だ。


「……あー、面倒くさっ」


今度は声に出してぼやく。この間1秒強。

リリィは頬杖をつくのをやめると、バレないように風を操り矢の軌道を制御して、左手を素早く動かして10本の矢を全て掴み取った。


「!」


集団のリーダーと思しき男が怯む。

リリィはすぐに「返すわ」と言って矢を投げ返した。

ここでもバレないように風を操る。10本の矢はその全てが射った主のほうへと飛んでいき、彼らの持つ弓の弦を切り裂いた。


彼らは驚愕する。

10本まとめて矢を掴み取る。恐怖心を押し殺し、鏃に触れることなく全てを掴む。それだけでも神業だ。

だがそれだけでは飽き足らず、それらを正確に投げ返して弓弦を切る。

不可能だ、と彼らは断じる。


ナイフのような幅の広いものならまだしも、矢で弓弦を切る。一体どれだけの技量があればそれを可能とするのだろう。

しかも光源も覚束ないこんな薄闇で。10人まとめて。


先程まで勝利を確信していた彼らだが、急に勝てるビジョンが──否、生き残るビジョンが浮かばなくなった。


リリィは微笑む。彼らは戦いた。


「で? おとなしく退いてくれないかしら? あたしとしても、無益な殺生はしたくないのよ。……血の匂いって落ちにくいし」

「!!!?」


最後の付け足すような台詞を聞いた瞬間、30人から成る集団は矢も盾もたまらず逃げ出した。脇目も振らず、一目散に。これ以上ない程の遁走だった。


「──…さって、脅しは充分かしらね。慣れないことすると疲れるわ」


んー、と伸びをして、邪魔な杖をマジックバッグにしまう。結局、活躍の機会もないままだった。

集団が完全に逃げ出したことを見届けて、リリィは対策を考える。彼らはもう来なくなるかもしれないが、馬鹿は彼らだけではない。一角馬(ユニコーン)狩りにやって来る馬鹿はあとを絶たないだろう。


リンドブルムのような守護者がいれば万事解決なのだが、そう都合よく漆雷獣(ベヒーモス)がいるはずもない。

そこまで考えたところで、リリィは一人心当たりを思い出した。


魔女の中でも幻獣の保護に力を入れていて、本人は魔女一の動物好きを自称している。

ラピセラの前ではミステリアスな女性を演じているのかそんな素振りは見せないが、長い付き合いであるリリィはよく知っていた。


「──そおいえば話手鏡(トークミラー)を渡したままだったわね。あたしってば冴えてる♪」


完全に偶然の賜物なのだが、リリィは自分に先見の明があったかのように振る舞う。独りしかいないので好きにすればいいと思う。


話手鏡(トークミラー)を取り出し、鏡面を2回叩く。すると鏡面がぼんやりと光り出し、相手の顔を映し出した。


「こんばんは、カンナ。今だいじょうぶかしら?」

『こんばんは、リリィさま。はい、だいじょうぶでございます。つきましてはこの鏡をお返ししそびれたことを謝罪いたします』

「いいのいいの。敢えて渡したままにしたんだから」


見栄を張るリリィ。いい格好しいだ。


「でね、お願いがあるのよ」

『なんなりと』

「えっとね……!? ぶっ!」

『! いかが致しましたか!? リリィさま!』


急に咳き込むリリィを心配し、カンナは食い気味に声をかける。

リリィは話手鏡(トークミラー)を取り落としそうになったがなんとか堪えて、目を逸らして指摘した。


「…………なんであなた、裸なのよ……」

『? 自宅では基本的に全裸では?』

「そおゆう人もいることは否定しないわ! でもほら! これってあたしから丸見えなのよ!?」

『同性でしたら構いません。男性の場合は目を潰させていただきますが』

「……とりあえず服を着てちょうだい。落ち着かないわ」

『かしこまりました』


カンナは渋々、といった様子で下着だけ身につける。黒くてレースでスケスケのやつだ。着たほうがいやらしくなるやつだった。


「………」


リリィは諦めてこれ以上言うことをやめた。本題に戻る。


リリィは話手鏡(トークミラー)に地図を映して現在地の説明と、ことのあらましをそれとなく伝える。1度で過不足なく理解してくれて、頼みまで察してくれた。


『──…なるほど。つまり番犬的な存在が必要、とゆうことでございますね?』

「ええ。話が早くて助かるわ」

『それでしたらお任せくださいませ。わたくしめのお友だちの中でも、適任な子にお願いしておきます』

「ありがとう。あとはお願いしていいのよね」

『はい。わざわざご連絡ありがとうございます』

「いいのよ。あ、あとその話手鏡(トークミラー)はあげるわ。困ったことがあればいつでも連絡してちょうだい」

『重ね重ねありがとうございます。それでは失礼致します』


通話が切れて、話手鏡(トークミラー)はただの手鏡と化す。

カンナに任せれば安心ね、とリリィは先程までの心配が嘘のように明るく振る舞う。


心配事がなくなったので早くラピセラの許に帰らなくては。その一心でリリィは絨毯の速度を早める。


「(あたし頑張ったわよね? いっぱい甘やかしてもらお♡)」


怪しい集団を前にした剣呑なリリィはどこへやら。今の彼女は、一人の恋する乙女に過ぎなかった。

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