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ピクニック先からおよそ1時間。いつもの街のいつもの門に着いた。
ちなみにリリィ、いつもの魔女ルックに着替えている。ラピスが「その可愛い格好、他の人に見せるのはイヤ」と、強弁に主張したのだ。
「や、ロッゾくん。よく働くわね」
「よお、リリィさんとラピス嬢。そおゆうあんたらはよく来るな。いっそこの街に住んだらどおだ?」
「ふふ、魅力的な提案だけどお断りするわ。今住んでる家に愛着もあるし」
「そっか。まァ言ってみただけだ。通っていいぜ」
「ええ、おつかれ」
「……おつかれさまです」
門番を労って街の中に入る。
いつもの食材通りとは違う方向に、二人は手を恋人繋ぎにして歩いていった。
「男の人、まだ苦手?」
「……うん。ロッゾさんはギリギリ話せるんだけど、他の人はちょっと……」
「そお。ま、気長にいきましょ」
気持ちを切り替えて前を向く。
ラピスはリリィとの距離を少しつめた。
そんな二人を見る街人たちの目は、非常に温かい。それには理由があった。
リリィは既に、この街を贔屓にして10年以上経つ。長寿且つ、見た目がいつまでも若い魔女なので、一所に長く留まることはできない。街人に不審に思われてしまうからだ。
そのことを考えると10年、長くても15年が一所に留まる限界だ。
この10年という歳月は魔女からすれば短いが、一般人にしてみれば結構な時間だ。10年もの長期に渡って街に通い続ければ、顔見知りも増えるし、リリィを娘、孫のように思う者が出ても不思議はない。
そのリリィを娘のように思っている彼らは心配していた。
リリィはいつ見ても独り。誰かと会話しているところは見るが、連れ添って歩く姿はまず見られない。
食事に誘ってもやんわりと断られ、買い物に誘っても用事があると避けられる。
まるで人と深く係わることを避けているかのようだった。
そんな彼女が、誰かと寄り添って歩いている。それも、見たことがないような輝く笑顔で。
街人たちは悟った。
ああ、ようやく彼女にも一緒に歩けるパートナーが見つかったのか、と。
女同士であるにもかかわらず、二人の距離感はどう見ても恋人のそれ。
しかし街人たちは歓迎する。
リリィが幸せならばそれで構わない。
リリィに対する優しい気持ちと、ラピスに対する感謝の念で、この街は溢れていた。
「なんか最近、街の人たちの視線をよく感じる気がする」
「あたしも。……生暖かい視線をよく」
「悪い感じじゃないんだよね?」
「ええ、それは間違いないわ。でもなんか……むずむずするわね」
そわそわしながらも繋いだ手は離さない。そのまま歩き続け、目的の店に到着した。
そこはこの街に一件しかない店。
──ブライダルショップだった。
「時間はだいじょうぶ?」
「えっと……5分前ね。ちょうどいいわ」
「うん。じゃあ入ろっか」
手を繋いだまま足並みを揃えて店内に入る。
店内には大きなカウンターが一つあったので、そこに向かう。
「こんにちは。予約していたオブシディアンよ」
「はい。お待ちしておりました。ただいま係の者が案内致しますので、おかけになってお待ちください」
軽く一礼して、促されたソファーに座る。
飲み物を用意すると言われたのでラピスはアイスティーを、リリィはアイスコーヒーを頼んだ。
「リリィ、コーヒー飲めるんだ。大人だね」
「ラピスは苦手なの?」
「…………カフェオレなら飲める」
あまりにも可愛らしい婚約者にリリィがうっとりしていると、飲み物が運ばれてきた。それを飲んで待つことしばし。
準備が済んだようで、案内係がやってきた。別部屋にて打ち合わせをするというので付いていく。
部屋に入ると、5名のスタッフが整列して待っていた。中央の女性が一歩前に出る。歳は40手前くらいだろうか。
「ようこそいらっしゃいました、リリィさま、ラピスさま。当店をお選びいただき誠にありがとうございます。担当はわたくし、レイシア・アスタノートが務めさせていただきます。よろしくお願い申し上げます」
「ふふ、よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
完璧な接客対応に、リリィは余裕を持って、ラピスは余裕なく返す。
性格の差が如実に出ていた。
返事を聞いてレイシアは満足そうに頷く。するとそのお堅い雰囲気を一変させた。
「じゃ、お堅い感じはこのくらいにしてっ。おめでとうリリィちゃん! ついに結婚するのね! 相手が女の子ってゆうのは驚いたけどっ」
早口でまくし立てるレイシアに、ラピスは呆気に取られる。だがリリィは動じていない。
「ふふ、ありがとうレイシアちゃん。偏見を持たないで祝福してくれるのが一番嬉しいわ」
「驚きはしたけど意外って程じゃないからね! 私の周りにも何人かいるわよっ」
「そおなの? ちなみにその子たちは?」
「全員、無事に結婚まで辿り着いたわっ。この店でねっ」
誇らしげに言うレイシア。ラピスは可愛い人だな、と思った。
「雑談はこのくらいにして、式の詳細を詰めていきましょ? なにか希望があれば全力でお応えするわよ!」
「そおねェ……。まず季節は秋がいいわ」
「了解よっ。9の月を抑えておくわっ」
「あ、あと、小高い丘の上とかでやりたいです」
「オッケー! 丁度いいところがあるわっ」
「それからスタッフに男性がいるようなら外してほしいの。あたしの彼女、男の人苦手だから」
「女同士の結婚に男の人は無粋だものねっ。それも了解よっ」
「最後にドレスなんだけど、わたしたちの髪の色に合わせたいんです」
「それはむしろウチから提案しようと思ってたわ! 綺麗な金と青みがかった銀ねっ」
トントン拍子に話は進み、色々なことが決まっていく。ラピスは当事者でありながら、どこか夢見心地だった。
「さて、こんなものかしらねっ。最後に採寸だけしたいから、二人とも服を脱いで」
「わかったわ」
「……はい」
リリィは堂々と、ラピスは恥ずかしそうに服を脱ぐ。ここでも対照的な性格が顕になった。
下着姿になったラピスとリリィに、残りのスタッフ4人が分かれ、それぞれ2人ずつ付く。
お決まりの肌綺麗ですね、やら、腰細ォい、やらを済まして採寸を終える。
リリィはやはり堂々としていたが、ラピスの顔は真っ赤だった。
服を着ながら、声を潜めてリリィが訊く。
「ラピス顔赤すぎ。王女って着替えとか侍女に手伝ってもらうんじゃないの?」
ラピスもまた、服を着ながら答える。
「……普通はそうするらしいけど、わたしはしてないよ。恥ずかしいじゃん」
「一人じゃ着られない服とかは?」
「滅多に着なかったけど……そのときはホルンに手伝ってもらった。他の侍女はお断りだね」
つまりラピス、他人に肌を晒すことに慣れていないのだ。元王族のクセに。
彼女が裸を見られても恥ずかしくないのは極少数に限られる。
リリィ、セラ、ホルン、のみだ。
服を着たところで、今までなにかを書き込んでいたレイシアが顔をあげる。
「リリィちゃんもラピスちゃんも、お疲れさまっ。ウェディングドレスの作成には2ヶ月弱かかるわっ。それとお金なんだけど……本当にだいじょうぶ?」
「ええ。糸目はつけないから可能な限り綺麗に作ってちょうだい」
「……そこまで言うなら了解したわ! 今日はもう帰ってもらっていいわよっ。次は…………8の月の18日に来てくれる?」
「わかったわ。ありがとう」
「ありがとうございました」
丁寧に頭を下げて、恋人たちはブライダルショップを後にした。




