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しばし呆然としていたラピスだったが、ほどなくして正気を取り戻した。
「……本当?」
「ええ。魔法でも使ってみせましょうか?」
ラピスはコクリと頷く。
リリィは微笑んで、水差しに左手をかざした。
するとその手から不思議な光が飛び出し、水差しの周りを包んだ。その光が徐々に形を変え、なにやら文字のようなものを刻み、そして一際強く発光した。
「きゃっ!」
思わず目を瞑り、ラピスは悲鳴をあげてしまう。
「ふふ、ごめんなさい。でも魔法は成功したわよ。飲んでみて」
水差しを差し出されたので言われるがままに口にふくむ。
と、すぐに変化に気づいた。
「甘い!」
「でしょう? どお? あたしが魔女だって信じてくれた?」
「……はい。疑ってすみません」
「ふふ、いいのよ。それとこの水、甘いだけじゃなくて自己治癒力も高めてくれるから、たくさん飲んでね」
「はい。なにからなにまでありがとうございます」
礼を言って目礼する。自己治癒力を高めると聞いたので試しに身体を揺すってみると、先程より痛みが引いた気がした。
これなら自分で飲めそうだと水差しに手を伸ばす。
──そこで気づいた。
「……あの、リリィさん」
「ん? なにかしら?」
「わ、わたしの服は……?」
「ああ、それだったら申し訳ないけど捨てさせてもらったわ。とても衣服としての役割を果たせそうになかったし」
「う、うん。それはいいんですけど、その……今、わたし……」
「ああ! ご、ごめんなさい! すぐに持ってくるわ! そのままじゃ恥ずかしいものね」
「うう……。お、お願いします」
リリィが足早に去っていく。そこでようやくラピスはホッと息をついた。
一度気づいてしまうと気になって仕方がない。肌に直接毛布が当たって擽ったかった。
少ししてリリィが戻ってきた。だが何故かその表情は浮かない。
「……お待たせ」
「いえ、だいじょうぶです。……どおしたんですか? 浮かない表情ですけど」
問うと彼女は表情を更に歪めて、深く頭を下げた。
「ごめん、ラピスちゃん! サイズが合うのがメイド服しかなかった!」
「メイド服を着れるんですか!?」
「……ふえ?」
思い切り謝るリリィに、しかしラピスは予想外の反応を返した。
思わずリリィは変な声が洩れる。
「わたし、以前からメイド服着てみたいなって思ってたんです! でもそれは従者が着るものだから着ちゃダメって言われちゃって」
「へ、へぇ、誰に言われたの?」
「それは………………思い出せません」
「あー、そう都合よくはいかないわね。でもラピスちゃん、それなりに身分の高いほうみたいね」
「そう……かもしれませんね」
テンションの躁鬱が激しいが、それでも一歩前進した。そう思って気分を変える。
「じゃ、じゃあ着替えますので」
「ええ、手伝うわよ」
「うぅ、ですよね……。恥ずかしいですけど、お願いします」
リリィに手伝ってもらって、ラピスはなんとかメイド服を着た。
その際、色々なところを見られたり触られたりして、ラピスは顔を真っ赤に染めるのだった。