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昼ごはんはベロニカを頼ることにした。
事情をしたためた手紙を送って、なるべくハイカロリーなものをリクエストする。そして送られてきたものは、今彼女がはまっているというクレープだった。
数えるのも億劫になる量のクレープ生地。それにトッピングする大量の生クリーム、チョコレートソース、キャラメルソース、シナモンシュガー、バナナ、イチゴ、ミカン、リンゴ、ブドウ、バニラアイス、チョコアイス、コーンフレーク。甘いもののオンパレードだ。
門手鏡の向こうで、ベロニカがドヤ顔をしているのが目に浮かぶよう。3人は心から感謝した。
「お昼ごはんを甘いもので賄うのって、なんか変な感じですわね♪」
「ちょっといけないことをしてる気分になるよね♪」
「背徳的ってやつね♪ 気持ちはわかるわ」
喋りながらもラピスは次々とクレープを作成していく。料理と呼べる程の作業でもないが、こうでもしないと家事をやらせてもらえないのだ。まったく、過保護なんだからと、ラピスは満更でもない笑顔を見せた。
リリィは早速全部乗せにチャレンジしている。1枚では足りないので生地を3枚使った大作だ。
とても食べづらそうなのだが器用なもので、リリィはチョコの1滴、生地の一欠片さえも溢すことなく完食した。無駄な器用さである。
セラは生クリームとバナナとチョコレートソースのオーソドックスなもの。
ラピスに合わせたメニューなので、カロリーが心配になりこれでやめようとも思っていた。
ラピスは頑張って3枚は食べるつもりでいる。自分で作るので3種類とも味を変え、最後まで美味しくいただく予定だ。
食べながら楽しくおしゃべりに興じる。食べているものも手伝って、キャピキャピという効果音が似合いそうな光景になっていた。
「姉さま。さっきから率先して作ってますけど、ちゃんと食べてます?」
「食べてるよ。これ2個目」
「もっと食べなさい。あたしの一口食べる?」
「あー……それはシナモン入ってるからいいや」
「あ、そおだったわね……」
「姉さまが食べられないものは、納豆と椎茸とシナモンですわよね?」
「うん。……匂いがダメなのかな?」
「そおいえばセラの好き嫌いってあんま聞かないわね。なんかないの?」
「ありますわよ。基本的には苦いものと、魚卵とナスが苦手ですわ」
「子供舌ね」
「子供舌だよ」
「子供扱いしないでくださいまし!」
「あ、でも魚卵はわかる。わたしもあんまり得意じゃない」
「そおなの? あたしは好きよ。鮭といくらで親子丼とか食べたいわ」
「リリィ義姉さまは納豆とチーズでしたっけ?」
「ええ。あとレバーも好きじゃないわ」
「肉じゃねェやつだね!」
「肉じゃねェやつですわ!」
「忘れてちょうだい! 噛んだだけなのよ!」
「レバー美味しいのにね」
「……すみません。わたくしもちょっと苦手で」
「仲間がいたわ。あれは肉じゃないわよね」
「はい。肉じゃねェですわ」
「だから──もういいわ」
「それでいくと二人ともホルモンもダメなのかな? わたしも好んで食べようとは思わないんだけど」
「あたしははっきりと嫌いね。いつ飲み込めばいいかわからないんだもの」
「わたくしは食べたことないですわ。そのうち挑戦してみたいです」
「まァ苦手なものはうちでは出さないからね。残して無駄にするのも嫌だし」
「じゃあセラのホルモンチャレンジは焼き肉屋さんでやることになるわね」
「それでしたらいいお店がありますわよ。ホルンに教えてもらいましたの」
内容があるようなないような、そんな話を続ける。
気づけばラピスも3枚目に突入していた。トッピングはイチゴと生クリームとアイスとコーンフレーク。作るときも楽しいのが、クレープのいいところだと思う。
それを一旦セラに渡して、リリィの10個目を作る。トッピングはラピスにお任せだそうだ。
「ありがと♡」
「んーん」
軽くやり取りを済ませてクレープにかぶりつく。甘くて美味しい。いくらでも食べられそうだ。
「こんな食事を繰り返していれば、姉さまの体型もすぐに戻りますわよね」
「うん。そおなると嬉しいんだけど……」
ラピスは右手でクレープを持ちつつ、左手で自らのお腹を摘まんだ。……殆ど摘まめなかった。はァ、とため息をつく。
「だいじょうぶよ。家事をお休みして、ごはんをいっぱい食べればすぐに元通りになるわ」
「……うん。……すぐに綺麗な身体に戻すからね。リリィとセラのために♡」
「はう♡」
「ひう♡」
リリセラは突発的に胸を押さえた。心臓が高鳴りすぎて、押さえないと胸が張り裂けそうだった。ラピスが健気で可愛すぎる。
最後のクレープも食べ終わって、お楽しみのティータイム。──とその前に。
「姉さま姉さま」
「なに──んゥ!?」
お茶を淹れようと席を立つ間際、セラに呼び止められて唇を塞がれるラピス。それだけに収まらず、セラは舌を使って丹念にラピスの口腔内を舐め回した。
1分程してようやく唇が離れる。つーっと唾液の橋がかかって切れた。
「クリームがついてましたわよ♡」
「♡ 取ってくれてありがとね♡」
「あら? ラピス。まだついてるわよ」
「ふふ♡ じゃあ取ってくれる?」
リリィの意図を察して、ラピスは目を瞑って唇を差し出す。リリィはラピスの両肩に手を置き、優しくその唇を奪った。
セラと同じように、ラピスの口腔内を蹂躙するリリィ。本日2度目の濃厚なキスに、ラピスの頭はもうふらふらだった。
「──…ふゥ。ごちそうさま♡」
「…………♡」
二人はうっとりとした笑顔を作る。
これがあるから生クリームはやめられない。
先程話に出た嫌いな食べ物とは裏腹に、好きな食べ物にクレープがランクインした瞬間であった。




