348
個室というわけではないので、当然他のお客さんにも見られていた。リリィとセラは我に返り、なにやってんだろう、と反省したという。
そそくさと逃げるように会計をする。ヴィオラから「また来てくださいね」と言われた。恥ずかしいし気まずいが、これらを堪えてまた来ようと思った。
ミルフィーユをマジックバッグにしまって帰途につく。これならどんなに振ろうが崩れないし、落としても潰れる心配はない。リリィさまさまである。
さっき散々恥ずかしい目にあったくせに手を繋いだまま門を通りすぎ、5分程歩く。いつものように飛行機を取り出して乗り込み、愛しの我が家を目指して飛んだ。
道中。
「──ダメよ、セラ。つまみ食いなんかしちゃ」
「し、しませんわ。しようともしてませんわ……」
「その泳ぎまくってる目と伸ばした右手はなによ? まったく子供なんだから」
と、そんな普段とは逆転したような光景が見られた。非常に珍しい。それ程に、ミルフィーユがセラの好みにマッチしたのだろう。
「ラピスに喜んでもらうんでしょ? セラが食べたらラピスの分が減るわよ」
「ぬ」
『ぬ』って……。
「………………仕方ありませんわね」
「えらく長いこと黙考したわね」
「はい。…………スイーツの中では1番かもしれませんわ。ミルフィーユ」
「あたし、ラピスが作ってくれたチョコレートテリーヌ」
「! それはズルいですわ!」
やいのやいのと言い合いながらも飛行機は飛び続ける。あっという間に家に帰り着いた。
しかし、いつもなら出迎えに来るはずのラピスの姿が見えない。家の中にいるのは感覚でわかるのだが、なぜ出てこないのかがわからなかった。
飛行機をしまって玄関の扉を開ける。
「──…すー……すー……」
目に飛び込んできたのは和メイド服を着てリビングで昼寝をするラピス。脚だけ炬燵に突っ込んで、うつぶせになって寝ている。
その背中にはフローラが乗っていて、仲よく一緒に昼寝をしていた。
「「──…可愛い……♡」」
リリィとセラの心は1つになる。
ラピスを起こさないように音を消し、ゆっくり歩く。そして彼女の近くに到達すると、マジックバッグから写実機を取り出して激写した。
「──…んゅ……う」
ラピスが寝返りを打つ。フローラが背中から落ちた。しかし起きなかった。
一瞬、目が覚めたのかと思ったがそうではないようだ。
炬燵で寝るのはさすがに暑いらしく、脚を曲げて炬燵から出す。
「「!」」
ラピス大好きな義姉妹は目の前の絶景に息を呑む。
繰り返しになるが、ラピスは今和メイド服を着ている。当然、スカート丈は短い。
つまり脚を曲げたことにより、その可愛らしいぱんつとお尻を二人の前に晒してしまったのだ。
リリィもセラも、全く目を逸らせない。まるで強大な引力でも発しているかのように、ラピスのぱんつに目は釘付けだった。
「……セラ。目ェ逸らしなさいよ。可哀想でしょ?」
「……リリィ義姉さまこそ。目ェ逸らしてくださいまし」
無防備な相手に不躾な視線を向ける。それが失礼なことは重々承知だが、目を逸らすことができない。まァ自分のお嫁さんだし、という免罪符のもと、リリィとセラはラピスのぱんつをガン見し続けた。
しばらくして、ラピスが大きく身動ぎする。「ん……」と小さく声を出して、ゆっくり目を開いた。
寝ぼけ眼をこすり、近くにいたフローラを抱える。可愛い。
くあ、とあくびを洩らして、そこで初めてリリィたちを視界に収めた。しかしその目はまだ半開き。寝惚けているように見える。
「──…リリィだァ♡ ……おはよー♡」
「ええ、おはよ♡」
ラピスはフローラを下ろしてリリィに抱きつく。更には唇を重ねた。
……と、ここまではいつも通り。
しかし今のラピスは寝惚けている。夢現なままリリィを押し倒し、ちゅぱちゅぱと何度もキスを落とした。
「ラ、ラピス……!?」
これにはリリィも戸惑う。ラピスはリリィより早起きなので、そもそも寝起きの彼女を見ることが極端に少ない。それにラピスは寝起きはいいほうなので、滅多に寝惚けることはなかった。
なので、こんなラピスを見るのは初めて。対処法が全くわからなかった。
「…………こんな姉さま、初めて見ますわ」
そしてそれはセラも同じこと。セラにわからないならリリィにもわかるはずはない。
「リリィすきィ♡ にゅふふ♡」
こうして甘えまくるラピスを、ただただ受け入れる。
愛くるしすぎて欲望をぶつけたくなるが、今のラピスが正気でないのは明らか。そんな禍根を残すようなことをするつもりは、愛妻家のリリィにはなかった。
たっぷり5分間、ラピスはリリィの身体を好きにした。ラピスは満足げ。リリィは頬を赤らめ荒い息を吐いている。体力と理性をごっそり持っていかれた。
続いてターゲットになったのはセラ。妹がいることにも気づいたラピスはほにゃっと微笑む。未だに寝惚けているのだ。
「セラもいるゥ♡ やったァ♡」
間延びした声で言うと、今度はセラにキスをして押し倒す。そのあとはリリィのときの再現のようになった。
ラピスが与えてくれるぬくもりと優しさに腰砕けになり、セラは全身がとろけてしまう。一切身体に力が入らなかった。
やがて情事──情事って言っちゃった!?──が終わると、ラピスはパチパチとまばたきする。完全に意識が覚醒したようだ。
そして目の前の光景に絶句する。
そこには衣服を乱しに乱した状態で色っぽい息を吐くリリィとセラ。寝惚けていたとはいえ、酔っていたわけではないので記憶はある。ラピスは自分の行為を思い出して罪悪感に駆られた。
「……ご、ごめん。リリィ。セラ。……あとおかえり。そしておはよう」
忙しい挨拶だった。
「た、ただいま……ラピス……♡」
「た、ただいまですわ……姉さま……♡」
自由が効かない身体を懸命に動かして、リリィとセラは笑顔を作る。
自分で生み出した惨状ではあるが、お嫁さんたちが色っぽすぎる。ラピスは我慢ができなくなってもう一度、リリィとセラ、それぞれと唇を重ねた。




