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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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自分で言うだけあって、ダリアはこの街に詳しかった。もっと言えば、ファッションにも詳しかった。

聞けば住んでいる地域はもっと遠く──一般的な魔女の飛行速度で4時間は離れている──らしいのだが、趣味である服飾への欲求を満たすため、ちょくちょく来訪するのだそうだ。元の姿と大人バージョンの姿でコーディネートを変えるのが楽しいと、彼女は語っていた。


「魔女ならではの楽しみ方ですわね」


とはセラの感想だ。まったくもってその通りだと思う。


ちなみにラピスだが、本調子ではないものの歩ける程度には回復している。今も言葉少なにセラの腕を取り、本日の目的である服を見ていた。


そんなラピスは……こう言ってはなんだが、儚げな雰囲気が出て美少女度が増している。もっと言えば、声をかけやすい雰囲気を出してしまっていた。


ナンパ目的と思われる男が近寄って来る度に、ダリアが殺気を放って追い払う。殺気に気づかない鈍感な者には、別の方法で気絶してもらった。ダリア大忙しである。


そんなこんなでリリィへのプレゼントを見繕っていると、次第にラピスの調子も戻ってきた。それでもセラの腕は離さないが、口数は増えた。


「──…ダリアさんごめん。……わたし、感じ悪かったよね」

「気にしない気にしない! あたしだって怖くなったらそおなっちゃうしね♪」


ダリアはにははと笑う。癖らしい。


しかしラピスの気は治まらない。ずっと黙りこくっていたことの謝罪と、守ってくれたことのお礼をしっかりと伝えた。


話を切り上げて買い物に戻る。リリィのことをよく知る姉妹と、最近の流行に詳しいダリア。この3人が集まれば、リリィに似合う服を見つけることなど造作もなかった。


十数件の店を巡り、さまざまな服をマジックバッグに容れていく。給料の範囲なのでそこまで量はないが、不自然に見られないように普通のバッグも併用した。


「いやー、買ったねェ♪」

「いい買い物ができましたわ♪」

「満足してもらえたみたいでなによりだよん♪」


約2時間かけて買い物を終えた。

積極的に話を振ったおかげか、ダリアも退屈しないですんだように見える。その辺りの気遣いも、体調が万全なラピスならお手のものだった。


「ありがとね、ダリアさん。……それで……あと1個だけ買いたいものがあるんだけど……。できればセラと二人だけで……」


遠慮がちにラピスは頼む。今まで積極的に話していた彼女が言いよどむのは珍しい。というより不自然だ。

なにか理由があるのだろうと裏を探って──ダリアはなにかに気づいて優しげに微笑んだ。


「わかった♪ 確かに恥ずかしいもんね!」

「? 恥ずかしい?」

「え? えっちな服を買うんじゃないのん?」

「もう買ったし!」


ラピス、ツッコみを間違える。

叫んだあとに自分がなにを口走ったのか気づいて、ラピスは盛大に赤面した。隣では一緒に選んだセラも赤面していた。

……どうでもいいが、ダリアの前で平然とえっちな服を買うラピスの胆力と、それを気づかれないように行う彼女の隠密スキルはどうなっているんだろう? また1つ謎が増えた。


話を戻す。今のは忘れてほしい。


ダリアの了解を得て、ラピセラは近くの店に入った。ダリアから離れて危険──かと言えばそんなことはない。魔女にかかれば、視界に入ってさえいれば魔法を行使することは容易い。なので実質的な安全度は全く下がっていなかった。

もっとも、実力的な面で考えればリリィのそばが最も安全であることは言うまでもないだろう。


買い物を済ませてダリアの許へ戻る。これで本当に買い物は終了だ。


「本っ当にありがとね! ダリアさん」

「助かりましたわ。一時はどおなることかと……」

「いいよいいよっ。ララちゃんとフィーナちゃんが喜んでくれたみたいだしねん♪」


ダリアはにははと笑う。そんな彼女の癖も気にならなくなった。むしろ頼れるお姉さんのような雰囲気さえある。

護衛してくれたこととは関係なく、ラピセラはダリアのことが好きになっていた。


「よければお昼ごはん一緒に食べない? わたしの手料理振る舞っちゃうよ♪」

「姉さまの料理は絶品ですわよ♪」

「にはは、ありがと♪ ──でも残念ながらそれはできないの。ごめんね?」

「……できない(・・・・)?」

「おかしな言い方をしますわね?」

「あー……。……にはは」


あからさまにテンションが下がっている。快活さの欠片もない。

そこで門に到着した。門番はさっきの男とは別の男になっていた。こちらは好青年で、問題なく街を出られた。


5分程歩いて──


「──…さっきの続きだけどね?」


ダリアが口を開く。銀髪の姉妹は耳を傾けた。


「──…あたしにも、怖いものがあるの」

「?」

「?」


続き……なのだろうか? ダリアの話はいまいち要領を得ない。ラピスもセラも首をかしげた。


「…………リリィさん」

「え?」

「へ?」

「あたし、リリィさん怖い」


冗談で言っているわけではなさそうだ。顔からは若干血の気が引き、わずかに呼吸も荒くなっていた。

ダリアは続ける。


「……昔、リリィさんに挨拶しに行ったの。初めての訪問だったけど、堅苦しいのは好きじゃないって話を聞いてたから軽い感じで接したの。リリィさんもフランクで、怒る様子は微塵もない。だからあたしは調子に乗って、リリィさんをあだ名で呼んじゃったの。『リーりん』って」

「(可愛い)」

「(可愛いですわ)」


本音を隠して姉妹は頷く。


「そしたら『そんな可愛らしいあだ名、あたしには合わないわ』って拒絶されてね? で、よせばいいのに何度もリーりんリーりんって呼んでたら……。……キレられました」

「あー」

「うわー」


ラピセラはこれ以上ないくらいの苦笑を浮かべる。ザ・苦笑だ。


「だからもうリリィさんには怒られたくないの。リリィさんのいないところでそのお嫁さんと食事? ……絶対怒られる。てゆうか半殺しにされる」


その程度では怒らないと思うが、ラピスがなにを言ったところでダリアのトラウマを払拭することはできないだろう。食事はまた今度、リリィもいるときにでもと約束した。


ラピスは飛行機。ダリアは髪に差していた花を巨大化させる。彼女の乗り物は花なのだ。

花びらに腰かけ、ダリアは手を振る。


「じゃ、またねん♪ ララちゃん。フィーナちゃん」

「あ、待って待って、ダリアさん」

「これ、わたくしたちからお礼ですわ」


今にも飛び立ちそうなダリアに、ラピセラは慌ててさっきの店で買ったものを渡す。ダリアはファッションが趣味と聞いたので、姉妹基準で似合いそうなものを見繕ったのだ。

ダリアは嬉しそうにそれを受け取る。


「ありがとねん♪ ……でもリリィさんにはゆわないでね」


そしてすぐに表情を一転させた。


「わかってるって」

「安心してくださいまし」

「ん! 信じてるよん♪ じゃーまたいつかねー♪」


そう言い残し、ダリアを乗せた花は空へと飛んでいった。


賑やかで朗らかで明るい。新たにできた友達を見送るラピスとセラの表情は、一様に輝いていた。

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