330
「──わたしたちの結婚式に来てくれてありがとう。
「リリィ、ホルン。
「まァ来るもなにも、リリィは一緒に住んでるわけだけど。
「だから正確には、ホルンだけありがとうだね。
「……あ、ごめんごめん、拗ねないで。
「ふふ、相変わらず可愛いんだから。
「…………動きが止まったね。
「あはは、可愛いって言われなれてないだけだから、心配しなくていいよ。
「じゃ、改めて簡単にお話させて。
「スピーチって程じゃないから……その……期待しないでね?
「わたしがセラを好きになったのは、多分物心がついてすぐ。
「気がついたら好きだったね。
「だって、すぐ隣にめちゃくちゃ可愛い女の子がいるんだよ?
「しかもわたしのこと慕ってくれてるし。
「そりゃ好きになるよね。
「だから来る日も来る日も、わたしはセラを構い続けたの。
「甘やかしたともゆうね。
「意外に思うかもしれないけど、最初はわたしのほうがシスコンだったんだよ?
「……あっという間に抜かされちゃったけどね。
「そんな大好きな妹なんだけど、わたしは最初、セラを恋愛対象として見られなかったの。
「だから子供の頃、『大人になったらお姉ちゃんと結婚するのー♡』ってゆうセラに曖昧に笑って──
「え?
「……うん、ゆってたよ。
「……うん、こんな口調だった。
「可愛いでしょ?
「あはは、ほらセラ、照れないの。
「まァ、ね、曖昧に笑ってはぐらかしてたんだよ。
「その頃はまだ、自分が女の子を好きになるってわかってなかったしね。
「でもね。
「とある出来事がきっかけで見方が変わったの。
「あれは……わたしが12歳のときだね。
「ちょっと重めの風邪を引いちゃって、10日くらい寝込んでたの。
「そのときに看病してくれたのが……まァホルンなんだけど。
「いやいや、まだ本題じゃないから。
「最後まで聴いて。
「ん。
「でね、途中でホルンにも風邪が伝染っちゃって、揃ってダウンしちゃったの。
「そこで登場するのがセラだよ。
「でも、セラってば全然看病の心得がないんだよ。
「ちょっと笑っちゃうくらいに。
「それでも一生懸命なのは伝わってくるもんなんだよね。
「びちょびちょのタオルを頭に乗せられたときはどおしようかと思ったけど。
「……ごめんごめん、意地悪な言い方だったね。
「でもまァ、そのおかげかどおかはわかんないけど、なんとか風邪が治ったの。
「それで1番喜んでくれたのがセラなんだよ。「『よかったですわ……よかったですわ』って泣きながら繰り返して。
「こんなに心配してくれてたんだ、って思うと……ふふ♡
「多分そこからだね。
「わたしの初恋はリリィだけど、結婚してもいいかなって思ったのはセラが最初。
「妹だしね。
「…………なんか今、すっごいツッコみを入れられた気がした。
「気のせいだよね?
「ん、んん。
「で、なにが言いたいかってゆうと、この日を待ってたのはわたしも同じってこと。
「大好きだよ、セラ♡
「リリィもホルンも、祝福してくれてありがとね♡
「じゃあ次はセラにバトンタッチ。
「わたしより要領いいから、きっと物凄く素晴らしい話をしてくれるよ。
「ではセラ。
「どおぞ♪」
「──…えー、たった今、姉さまからキラーパスをされたセラですわ。
「びっくりですわよね。
「本当に打ち合わせもしてないんですのよ?
「まったく、そんな意地悪な姉さまも素敵だと思ってしまうわたくしは、いよいよ末期なのかもしれません。
「姉さまを好きすぎて色々とヤバいですわ。
「……リリィ義姉さまの目が『なにを今更』と語ってるような気がしますので、とっとと本題に入りますわ。
「といっても、本題と呼べる程の話でもないんですけどね。
「普通ならば馴れ初めとかを語るべきなんでしょうけど……ご存知の通りわたくしたちは姉妹ですからね。
「馴れ初めもなにもありませんわ。
「それに好きになったきっかけもわたくしにはありませんし。
「姉さま同様、気がついたら好きで、気がついたら恋愛対象でしたわ。
「なのに法律で姉妹での結婚はおろか、女性同士での結婚も禁じられていると知ったときは絶望しましたわね。
「同時に奮起もしたのですけど。
「まァその辺は面白くもない話なので省略しますわ。
「寄り道が長くなりましたが、馴れ初めがない話に戻ります。
「ですので姉さまに惚れ直した話をしましょうか。
「リリィ義姉さまもホルンも、聴きたいですわよね?
「え?
「姉さまは聴きたくない?
「ふふ、駄々をこねてもダメですわよ?
「観念してくださいまし。
「……恥ずかしがる姉さまもかわ──いえ、話が進まなくなりますわね。
「今は先にお話をしますわ。
「──あれはちょうど2年前ですわね。
「あの痛ましい事件の直前です。
「政務をあらかた終わらせたわたくしは、姉さまに構ってもらおうと城を散策してましたの。
「あの頃の姉さまは神出鬼没でしたからね。
「どこで会えるかはわかりませんでしたの。
「勘を頼りに歩き続けて、見つけたのは30分後くらいでしたわ。
「今よりも体力がなかったわたくしは、それだけで息を切らしていました。
「姉さまがいたのは中庭。
「そこでハンモックを作ってるところでしたわね。
「信じられないかもしれませんが、王女だった頃はハンモックすらも危ないとゆう理由で禁止でしたのよ?
「結構憧れもあったんですけどね、ハンモック。
「本当に、息がつまる生活でしたわ。
「で、そのハンモックを作っていた姉さまが振り返って、わたくしを見てこお言いましたの。
「『あ。セラおつかれ。以前にゆってたハンモック作ってみたよ。一緒に寝よ?』と。
「……なんてゆうんでしょうね……。
「相応しい言葉かどおかはわかりませんが、あのときわたくしは『愛らしい』と思いました。
「わたくしのゆったことを憶えていてくれたことも嬉しいですし、実行に移してくれたことも嬉しいですし。
「──…好きだなァ、って思いましたわ。
「…………まァ、ハンモックを支えるコテージの柱が折れて、二人揃って骨を折ったことはいい思い出ですわ。
「一応ゆっておきますけど、姉さまのハンモックは完璧でしたのよ?
「悪いのはあのコテージの製作者ですわ。
「さて、オチもついたことですし、この辺でわたくしの語りは終わりにしますわ。
「最後に──リリィ義姉さま。
「何度も言いましたが、わたくしたちの結婚を許してくれてありがとうございますわ。
「本当に感謝しております。
「でもお礼はこれを最後にいたしますね。
「これからは同じ、姉さまのお嫁さんですわ。
「そしてホルン。
「わざわざ来てくれてありがとうですわ。
「ホルンはわたくしの自慢の妹です。
「わたくしは今、とっても幸せですの。
「今まで応援、ありがとうですわ。
「そして姉さま。
「これから1000年、10000年と、末永くよろしくですの。
「一緒に幸せになりましょうね。
「お姉ちゃん♡」




