表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
33/433

33

「いいッスよ」


ホルンもまた、満面の笑みで返した。一切の逡巡がない、まさに即答である。

しかしそこに意義を挟むものがいる。

──リリィだ。


「ちょ、ちょっと待って! ホルンちゃんがうちで働く? なんで?」


彼女としては納得できる話ではない。

彼女の家で働くとなると、惑いの森という危険地帯に住んでいる都合から、どうしても通いではなく住み込みとなる。

だが、リリィとしてはそれは避けたかった。


なにせあの家は、ラピスとの愛の巣なのだ。セラは妹という特例で入っただけで、他の人間、ましてや他人を住まわせる気はなかった。

いくらホルンが自分とラピスの関係を祝福してくれて、さっぱりした裏表のない性格で、更にはラピスの信用も厚いとはいっても、それとこれとは話が別だった。


不満を(あらわ)にするリリィだが、ラピスは反論する。


「だってリリィ。あの広さの家だと、わたし一人じゃ掃除しきれないよ?」

「そ、それはあたしも手伝うし……」

「手伝う? これまでずっと家事をしてこなかったずぼらなリリィが?」

「が、頑張るから」

「いや、リリィの家事のできなさは、頑張ってどおにかできるレベルじゃないんだよ。最初こそわたしも手伝ってもらおうと思ったけど、早々に諦めたもん」

「……う」

「掃除をすればする程散らかるってなんなの? そんなの、物語に出てくるキャラクターだけだと思ってたよ」

「……うぅ」

「リリィは家事できないし、さっきから黙ってるセラも実は壊滅的だし、ホルンの手は是非欲しいところなんだよ」

「ちょ、姉さま! なんでバラすんですの!?」


セラが慌ててツッコむも、スルーされる。


「ね、リリィ。わたしの空いた時間も増えるし、ホルンも次の職場が見つかる。ウィンウィンだよ。メイドを雇うと思って」

「……うううう……」


それでも煮え切らないリリィ。

そこにホルンが助け船を出す。


「ちょっといいッスか? リリィさま。リリィさまは、尊敬する人とかいないッスか?」

「? そりゃいるわよ」

「じゃあ、その人に恋愛感情はあるッスか?」

「ないわよ、そんなの。あたし、ラピスしか愛せないし」

「はう!」


ラピスの顔が真っ赤に染まったが、ここは流す。


「ウチとラピスさまの関係はそれと一緒ッス。尊敬も感謝もしてるッスけど、付き合いたいとかはないッス」

「……そう」

「だからリリィさまが心配してる浮気とかなら、正直杞憂ッスよ。それにウチ、好きな人いるッス」

「「ええっ!?」」


ラピスとセラの驚きの声が重なった。

姉妹はホルンに詰め寄って、矢継ぎ早に質問する。


「好きな人いるの? いつから?」

「相手はどんなかたですの?」

「年上? 年下?」

「身長は? 髪の色は?」

「わたしも知ってる人?」

「告白はするつもりですの? 待つつもりですの?」

「あァあああ!! そんな一遍に訊かれても答えらんないッス!」


ぐいぐい来る姉妹を押し戻し、ホルンは叫ぶ。

しかし、答えないとリリィを安心させることはできないので、順番に答え始めた。


「まず、好きになったのはついこないだッス。5日くらい以前(まえ)ッスね。一目惚れでした。異国の──あー、東の島国ッスか? あそこの装束を身につけた、格好いい人だったッス。歳は22~23くらいに見えたんで、多分歳上ッスね。背はリリィさまより高くて、薄紫色の髪でした。あ、あと肌の色が、えーと……褐色? て言うんスか? それだったッス。ラピスさまは知らないんじゃないんスか? 城に出入りするような人っぽいッスし。それとウチ、次彼女に会ったら告白するッス!」


律儀に全ての質問に答え、最後にはガッツポーズを取る。

彼女の本気さが(うかが)えた。

セラはおおォと拍手をしている。

だがラピスとリリィはどうにも曖昧な表情だった。ホルンの話した情報が、知っている人物を彷彿とさせたのだ。


特に、リリィの表情はラピスの倍くらい苦々しげだった。

もし自分の思い描いている人物且つ、失恋を吹っ切れていないなら、ホルンがフラレることは想像に難くない。それを予想しての表情だった。


「おろ? ラピスさまとリリィさま。なにか言いたげッスね。もしかして知ってる人ッスか?」

「あ、うん、多分。ね? リリィ」

「……ええ。あたしの友達だと思うわ」

「マジッスか!? な、名前を教えてほしいッス!」


リリィはやはり、苦々しげに答える。


「……アイリス」

「アイリスさんッスか! 綺麗な名前ッス! ちなみにご職業とかは?」

「……その辺は道々話すわ。とりあえずあたしん()に行きましょ」

「あ、じゃあリリィ。ホルン雇ってくれるの?」

「しょうがないわね。滅多に言わないラピスのわがままだし、聞いてあげるわ」

「わ、ありがとうリリィ。愛してるよ♡」

「感謝するッス、リリィさま!」


リリィはため息を噛み殺し、窓を開けてカードを放り投げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ