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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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いよいよこの日がやってきた。3の月の3日。ラピスとセラの結婚式当日である。


昨晩は楽しみすぎて碌に寝られなかった。にもかかわらず、今朝はやたら早くに目が覚めた。それでいて眠気はない。不思議な感覚だった。


式の開始は正午を予定している。予定もなにも彼女たちの匙加減なので、予定が狂うことはないのだが。

ともあれ、それまでは普通の服装で、普通に過ごせるわけだ。


ラピスは山吹色の和メイド服。セラは藤色の和メイド服。

簡単に家事をこなした二人は、ソファーに座ってスキンシップを楽しんでいた。


このあと結婚式が控えているので、姉妹のテンションはかなり高い。

キスをすれば5分くらい離れなかったり、ハグをすれば頬擦りもセットになったりと、やりたい放題であった。


いつもであればその輪にまざるリリィだが、今日ばかりは気を遣って対面のソファーに一人で座っている。ちなみに彼女の服装は気合いが入っていた。

肩から手首までがシースルーになっている黒いチュニック。その上に白くふわふわしたカーディガン。下は黒いマキシスカートで、更にストッキングも着用している。

そのサラサラヘア故に髪飾りは着けていないが、ネックレスとブレスレットは着用している。どちらも品のある金色で、彼女の髪との相乗効果で綺麗度が10割増しだった。


一体どこのパーティーに出るのだろう? といった出で立ち。まァ、結婚式もパーティーの一種には違いないので、この上なく相応しい服装とも言えた。


「リリィ気合い入ってるね♪」

「めっちゃ綺麗ですわ♡ リリィ義姉(ねえ)さま」

「ふふ、ありがと♡ 二人の結婚式だもの。気合いを入れるのは当然よ♡」


リリィは微笑む。誰もが見蕩(みと)れてしまうような笑顔だ。

ラピスは何度目かもわからないが惚れ直す。そして他の人には見せられないと、心に誓った。


ほのぼのとした時間を謳歌していると、ラピセラはホルンの気配を感じた。同じタイミングで立ち上がり、手を繋いで玄関に向かう。

リリィも慣れたもので、「あ、ホルンちゃんが来たのね」と、姉妹の後に続いた。


外に出るとギリギリ見えるか見えないか、といった距離に空飛ぶ絨毯が舞っているのが確認できた。その上には小柄な人影。間違いなくラピセラの妹、ホルンだ。


絨毯は一定の速度を保ったまま家に近づき、そして止まる。ホルンはすぐに降りて、絨毯をカード大の大きさに圧縮した。


ホルンの格好もリリィに負けず劣らず気合いが入っている。

青と白のボーダーシャツに青いカーディガン。デニムのホットパンツに紫のストッキングという、一見ラフな服装。しかし上に羽織った室内用のグレーのコートで、その印象は一変。見事なパーティー仕様の服装になっていた。

いつもより5割増しで可愛いホルンに、ラピセラは力いっぱい抱きついた。


「いらっしゃい、ホルン♡」

「ようこそですわ、ホルン♡」

「はい、お祝いに来たッス。ラピスお姉ちゃん♡ セラフィお姉ちゃん♡」


一頻(ひとしき)り抱き合ってから家に招待する。靴を脱いでホルンは中に入った。

勝手知ったる姉たちの家なので、ホルンにも定位置というものがある。普段であればそこに座るのだが、今日はラピセラがそこに居座っている。

彼女たちの記念日に、横槍を入れる趣味はない。ホルンはおとなしくリリィの隣に座った。


ラピスとセラは終始、幸せオーラを放出し続けている。常人であればあまりの甘さに砂糖を吐いたり気持ち悪くなったりしそうだが、ラピセラを大好きな二人には関係ない。というより、むしろ調子がよくなる程だ。

ラピスとセラを大好き、という一点において、リリィとホルンは非常に気が合うのだ。


「いやァ……目の保養になるッスね♡」

「本当ね♡ いつまでも見ていたいわ♡」

「いやいや。リリィ義姉(ねえ)さまは見るだけじゃなくてまざるでしょう?」

「まァね。ホルンちゃんも、欲を言えばまざりたいんでしょ?」

「…………まァ、アイリスが怒らない範囲内で、ッスけど」

「? 今のアイリスなら、そんなことじゃ怒らないでしょ?」

「限度があるんスよ。リリィ義姉(ねえ)さまと一緒ッス」

「?」

「例えばお姉ちゃんたちが、ずーっとウチに構い倒しだったら、リリィ義姉(ねえ)さまも面白くないッスよね? それと一緒ッス」

「あー、なるほどね」

「……一時期、お姉ちゃんたちの話をしすぎて『お姉ちゃん禁止令』が出たこともあったッス……」

「それはシスコンが過ぎるわ」


さすがに、リリィでさえも『ホルン禁止令』を出したことはない。ホルンの場合、愛情の向かう先が二人分ということもあるかもしれないが、アイリスが少し不憫だった。

と、このように、意外と仲のいい二人なのだ。


特別な日だからこそ、いつも通りに過ごす。いつしか話の輪は拡がり、4人で楽しく談笑するに至っていた。


「この4人で過ごすのって久しぶりだよね」

「そおね。去年の6の月以来かしら?」

「そのくらいですわ。あの頃はまだ、ホルンは妹じゃありませんでしたわね」

「親友止まりだったッスねェ……。懐かしいッス」

「今思えば、だけど、ホルンってとっくに家族だったよね?」

「はい。あの頃は上手く言葉にできずに“親友”という表現に収まっていましたが」

「! ……へへ、嬉しいッスね♡」

「……和むわねェ……」


語ることなどいくらでもある。

そのあとも取るに足らない話をしたり、思い出話に花を咲かせたり、取って置きの惚気(のろけ)話を披露したり、リリィの知らない昔のエピソードを語ったりと、牧歌的に過ごした。


──そして時刻は正午の1時間前。

本来であれば遅すぎるが、ラピスとセラは着替えるべく、各々の部屋へと足を向けた。ラピスにはリリィが、セラにはホルンがついていく。


「──またあとでね♡」

「──はい、また♡」


短くそれだけを交わして、銀髪の姉妹は部屋に入った。

リリィとホルンもまたあとでと言い合い、部屋へと姿を消した。

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