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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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ラピスとセラが仲(むつ)まじく歩いていると、後ろからリリィが小走りに追いかけてきた。


「お待たせ♪」


言って、セラとは反対の腕に自身の腕と指を絡める。ほわァ、と感嘆の息が洩れた。


「おつかれだね、リリィ」

「まァね。やっぱり、あのての人間を相手にするのは精神が参るわね」

「ごめんね。あとありがとう」

「ふふ、ラピスのためならお安い御用よ」


3人でイチャイチャしながら更に少し歩く。程なくして、ホルンを保護している部屋に到着した。

組んでいた腕をほどいて、ラピスはドアノブに手をやる。そこでなにかを思い出し、リリィのほうを向いた。


「リリィ。言い忘れてたけど、ホルンは先祖返り(・・・・)なの。だけど驚かないでね」

「先祖返り? 珍しいわね。わかったわ」




先祖返り。

数千年、あるいは数万年前に実在していた種族の特徴をその身に宿す者の総称。


主に、常人よりも耳が長く尖っている、背が小さい代わりに筋肉がつきやすい、獣の耳やしっぽが生えている、などがあげられる。


今でこそ珍しい程度で済んでいるが、ほんの200年程以前(まえ)まで、彼らは迫害されていた。


(いわ)く、悪魔の子だ。

曰く、人間に(あら)ず。

曰く、神罰でそんな醜い姿になった。

人間は自分と違うものを差別する、いい例であった。


しかし、彼らの扱いを一変させる出来事が起こる。

一人の魔女が、先祖返りという説を発見したのだ。


彼女はその膨大な寿命を、魔法の研究だけでなく、生物の研究にも充てた。そして辿り着いたのが、所謂(いわゆる)隔世遺伝、あるいは突然変異と呼ばれる現象だ。彼女はそれを先祖返りという言葉に変えて、最も信頼できる王族に伝え、世間に広めさせた。


瞬く間に、とはさすがにいかなかったが、彼らの待遇は改善された。

今では(ほとん)どの国で、先祖返りを冷遇すると厳しい罰則がある。


ちなみに先祖返りを発見した魔女は、リリィの師匠にあたる。




リリィが頷くのを確認してからラピスは扉を開けた。

そこは控えめに言って豪華絢爛な部屋だった。


ベッドは天蓋(てんがい)つき、照明はシャンデリア、鏡は三面鏡、床には絨毯、壁には絵画と鹿の剥製。

およそ豪華と聞いて想像するもの全てが、この部屋に凝縮されていた。


その部屋の片隅。ティータイムに使いそうな、これまた豪華なテーブルセット。そこに肩身が狭そうに座っている少女がいた。

歳の頃は10代後半くらい。燃えるような(あか)い髪と瞳を持っていて、丈の短い、改造されたメイド服に身を包んでいた。


そしてなにより特徴的なのは、服の上からでもわかる大きな膨らみ──ではなく、彼女の頭に聳え立つ耳だろう。髪と同じく緋色の毛で覆われたその耳は猫のものだろうか? 不安げにピョコピョコと動いていた。


扉が開いた音を聞いて、猫耳の少女がこちらを見る。そして、両の瞳からぶわっと涙を溢れさせた。


「ラ、ラ、ラピスさまァ!! ごぶ、ご無事で! あ、ご無沙汰、うぅ……とにかくよかったッスゥうう!!」


椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がり、全速力で走って彼女はラピスを抱きしめた。

そこには主の無事を知った安堵と、また戻ってきてくれたという感謝だけがあった。

なのに──


「あたしの彼女に手を出さないでくれる?」


リリィが大人げなく、二人を引き離した。もう一度言う。大人げない。

困惑顔の猫耳メイドと、嫉妬してくれて嬉しいような空気を読んでほしいような複雑な表情のラピス。彼女たちを置き去りにしてリリィは口を開く。


「あなたがホルンちゃん?」

「あ、はい、そうッス。ホルンと申しまッス。えっと、ラピスさまの……彼女さん……ッスか?」

「ええ。リリィよ。よろしく」


どことなくリリィの口調が冷たい。

ラピスに抱きついたホルンを、要注意人物と認識したようだった。


ホルンはなにを思ったか、1度セラを見た。セラが無言で頷くと頬をゆるめ、リリィに向き直って弾んだ口調で言う。


「おお! 彼女さんッスか! いやァ、よかったッス。隣の国の王子ごとき、比べるべくもない美人さんじゃないッスか」

「え? あ、いや」

「ラピスさまも笑顔ッスし。さてはリリィさまのおかげッスね?」

「そ、そうかも?」

「感謝するッス。あの頃の沈んだラピスさまは、正直見てらんなかったんで」


邪気など一切ない笑顔でまくし立てられ、リリィは毒気を抜かれた。

鼻白みつつ会話を切り上げ、一歩下がって傍観していたセラに耳打ちする。


「……セラちゃん。あの子、なんなの? 嫉妬したあたしが馬鹿みたいなんだけど」

「ホルンさんは姉さまの信者です」

「は?」

「ホルンさんは姉さまの信者です」

「あ、いや、聞こえなかったわけじゃなくてね」


これ以上訊いても情報は増えないと悟ったリリィは、諦めてため息をついた。


「それでラピスさま。お帰りいただいたのはいいッスけど、正直もう(ここ)にはいないほうがいいと思うッス。婚約の話、多分まだ生きてるッスよ」

「あ、だいじょぶだいじょぶ。わたし、王女辞めてきたから」


その発言にホルンは一瞬、きょとんとする。が、1秒後に復活した。


「そおなんスか。じゃあウチもメイド辞めるッス。ラピスさまがいないんじゃやる意味がないんで」

「じゃあさ、ホルン──」


ラピスは満面の笑みで言った。


「──うちで働かない?」

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