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1時間の長風呂の後。
風呂から上がって広間に戻る。セラはラピスの寝間着を着て「ああっ! 姉さまの匂いに包まれていますわァ!」と興奮していたが、ラピスは慣れた様子でスルーし、リリィはシスコンならしょうがないのかしらと、無視を決め込んでいた。
夕飯はリリィの強い希望で蕎麦になった。箸をマスターした彼女ではあったが、麺をすするのは上手くできないようで、美味しそうに麺をすする姉妹を見て悔しそうにしていた。
ちなみに、食後のほうじ茶を飲んでいたときに、セラがうっかり洩らした「次回は天ぷら蕎麦にしましょう」の一言にリリィが耳敏く反応し、ひと悶着あったことを追記しておく。
夜、寝る段になって。
それぞれの部屋で寝るつもり満々だったラピスだが、当たり前のような顔でリリィとセラに却下された。
恋人曰く──婚約者なんだから、同じベッドで寝るのは当然でしょ?
妹曰く──わたくし、姉さまに抱きついてないと安眠できませんの。
──だそうだ。
結果として、それぞれ自分の部屋は、私室や趣味部屋として使うことにし、2階で唯一余っている一部屋を、共用の寝室として使うことで落ち着いた。
全員の寝顔が健やかだったことから考えて、ラピスも満更でもないのだろう。
明くる日の朝。
誰よりも早く目が覚めたラピスは、身体の自由が利かないことに気がついた。腕も脚も、まったく動かせない。
「(え? な、なに? 金縛り?)」
力を込めるもやはり動かない。
首から上はかろうじて動くので、自分に落ち着けと言い聞かせながら右を向いた。
すると、視界が金で覆われた。
──いや、違った。それは金糸のように細く綺麗な、リリィの髪の毛であった。
よく見ればリリィ、全身でラピスに抱きついている。くっつく面積を可能な限り増やそうと言わんばかりの密着度だ。
この2ヶ月、殆ど毎日一緒に寝てきたが、ここまでくっつかれたのは初めてだったので、ラピスは面食らった。
右半身が動かない理由はわかったので、今度は左を向いてみる。
すると案の定、全身を使って抱きつくセラの姿があった。
今まで会えなかった時間を埋めるかのように、セラは姉に甘えているのだ。
左右を見て、仕方ないなァと苦笑したラピスは、起きることを諦めた。
代わりに、微睡みながらこの幸せな空間を満喫するのだった。
朝食は、ご飯と味噌汁と焼き魚、そしてだし巻き玉子と海苔。多少のメニューの変化はあるが、ラピスがこれは譲れないと言って聞かないのだ。
「姉さま。納豆はないんですの?」
「…………あれはにがてだからつくってない」
「美味しいですのに……」
「あたしも、あれはちょっと苦手だわ」
現地でも好き嫌いが分かれる食材について話しながら、朝食を食べ進めていった。
食べ終えて食器を片付ける。食後のお茶を淹れて、お馴染みのまったりタイム──
「えへへェ、リリィの匂い好き……♡」
「ふふ、あたしもラピスの匂い好きよ♡」
──もとい、イチャイチャタイムに移行する。妹が見ていようとお構い無しだった。
その妹はというと──
「あァ、姉さま♡ 幸せそうですわァ♡ 可愛いですわァ……♡」
こちらも幸せそうだった。
これぞシスコンの面目躍如といったところだろう。…………嫌な面目躍如だ。
そんなこんなでお茶も飲み終え、すっくとセラが立ち上がった。
「では姉さま、リリィ義姉さま。わたくしは一旦城に戻ります。父と母に、王女を辞めるとキッチリ言ってきますわ」
「ならあたし、送っていくわよ。遠いしね」
「ありがとうございますわ」
ラピスとイチャついていたリリィも立ち上がる。
そして二人揃って外に出ようとしたところで、ラピスに手を掴まれた。
「ラピス?」
「姉さま?」
「…………わたしも行く」
てっきり彼女は留守番するものだと思っていた二人は呆気に取られ、しばし固まる。
「やっぱりわたしも、王女辞めるって啖呵切りたい。てゆうか適当に仕返ししたい」
ラピスの本音を聞いて、二人はプッと吹き出した。
そして柔らかく微笑む。
「仕方ありませんわね。一緒に参りましょう、姉さま」
「ちゃんと変装するのよ? ラピスがいるとバレたら面倒なことになるから。謁見の間あたりで変装を解きましょ」
「わかった!」
返事をしてラピスは自分の部屋に戻るのだった。




