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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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ポカンとした顔でラピスを見るリリィ。

そこに戸惑った感じのセラの声が響く。


「あの、姉さま? お気持ちは嬉しいのですが、今はわたくしの寿命を伸ばす方法を模索しておりますの」

「知ってるよ。だからわたしと結婚すればいいじゃん」

「? ……?」


首をひねり、少し考え、やはり首をひねるセラ。

その様子を見て言葉が足りないことに気づいたのか、ラピスが説明を始める。


「あのね。まず、わたしとリリィが結婚するでしょ? そしたら命がシェアされる」

「はい」

「それってさ、魂がシェア、つまりは同一になるってことでしょ?」

「…………どおなんですの? リリィ義姉(ねえ)さま」

「……わからないわ。考えたこともなかったから」


煮え切らない面持ちのリリィ。少なくとも可能性はゼロではないようだと判断したラピスは話を続ける。


「仮にそうだったとして続けるね。リリィと魂が同一になったわたしと、セラが結婚する。すると……こう、なんかうまいこといくんじゃない?」

「急に曖昧ね! 根拠も微妙なとこだし」


リリィがツッコむも、ラピスはどこ吹く風だ。それどころか、まるでとっておきの宝物を見せる子供のようなドヤ顔を浮かべる。


「ふふん、根拠はもう一個あってね。実はこっちが本命なんだけど」

「なに? 聞かせて」


リリィの催促に笑みを深める。

たっぷりと間を取り、渾身のドヤ顔でラピスは言った。


「──ご都合主義が発動することを期待してる!」

「本命がうっすい!」

「根拠が薄弱ですわ!」


大不評だった。基本、姉の言うことは全肯定するセラでさえ激しいツッコみをいれる程だ。


「えー、そんなにダメかなァ? 都合よくリリィに拾われたり、都合よくキスで記憶戻ったりしてるじゃん」

「う」

「それに、リスクがあるわけでもないし、試して──ってゆうとセラに失礼だけど、考えてくれてもいいんじゃない?」

「え、ええ」

「ダメだったら、リリィが新しい魔法を作ればいいし。肉体の最適化魔法を突き詰めていけば、できるんじゃない?」

「あ」


とっても不穏な、あ、だった。

どうした? と、声の主──リリィを見る二人。


「えっと……」

「……リリィ」

「……リリィ義姉(ねえ)さま」


姉妹の圧に耐えきれず、リリィは口を割った。


「…………肉体の最適化魔法って、その名の通り、身体のコンディションを最適化する魔法なのね。……これには体調、栄養、ボディバランス、肌ツヤ、髪の潤いなど様々なものが」

「前置き長いよ」

「…………この魔法を毎日かければ、実質不老です」

「「………」」


自分の使える魔法の効果すら憶えていない、リリィのあまりのうっかりさに、開いた口が塞がらないラピスとセラだった。

だが、当初考えていたより遥かに簡単に問題が解決したのは間違いない。その点は素直に喜ぶ。


「はァ、なんだか気が抜けてしまいましたわ……」

「ね。セラともずっと一緒なんて、本当にご都合主義だね」

「それは言わない約束ですわ」

「あとはホルンを解放してあげれば憂いがなくなるんだけど……だいじょうぶかな?」

「……確かに。心配ですわね」


姉妹にしかわからない話をされて、当然リリィは面白くない。彼女は頬を膨らませて二人にまとめて抱きついた。


「ちょっとォ。あたしにわからない話しないでよォ。何が心配なの?」

「あはは、ごめんごめん。自分でゆうのもなんだけど、ホルンって凄くわたしを慕ってくれてるの。だからわたしと離れたがらないんじゃないかな、って心配してたんだよ」

「…………恋敵?」

「違うってば。あくまで慕われてただけだよ」


不安そうなリリィをラピスは慰める。

納得はいかないようだが、ひとまずは矛を納めるリリィ。


「そんなことより、せっかく家が大きくなったんだから部屋割り決めようよ」

「でしたらわたくし、姉さまと同じ部屋がいいですわ」

「却下よ」

「ですわよね。ゆってみただけです。隣の部屋でお願いしますわ」

「じゃあわたし、2階の角部屋!」

「ならあたしは、その向かいにするわ」


無事に部屋割りも決まったところで、時刻はまだ夕方。夕飯の準備をしようにも、ガーデニングの続きをしようにも、中途半端な時間だった。


「いっそもうお風呂に入る? 少し大きめに拡張しておいたから、3人で入れるわよ?」

「そだね、そおしよっか。土いじってたから気分的に入りたいし」

「姉さま。寝間着を貸してくださいまし」


連れだって脱衣場に行き、服を脱ぐ。女子特有の、肌が綺麗トークを済ませて浴室に入った。

浴室はリリィの言う通り、広くなっていた。シャワーは全部で3つあるし、湯船は詰めれば20人は入れそうな程に巨大化していた。


「広いですわ! それにこの湯船! おそらく(ひのき)を使っていますわね! オンセンってやつでしょうか?」

「温泉じゃないよ。でも気持ちいいから、身体を洗ってから入ろうね」

「わかりましたわ!」


初めての東の島国風の風呂に興奮冷めやらないセラ。ラピスはそれを温かく見守っていた。

そわそわしながらセラは風呂椅子に座る。その後ろにラピスが控えて、なんの打ち合わせもなくセラの緑がかった銀髪を洗いだした。

この姉妹、昔から時間さえ合えば必ず一緒に風呂に入っていて、洗いっこする順番も決まっていた。会話を交わさずともわかる、阿吽の呼吸である。


「相変わらず仲いいわね。じゃああたしは、ラピスの髪を洗おうかしら」

「では流し終わったらわたくし、リリィ義姉(ねえ)さまの髪を洗いますわ。……リリィ義姉(ねえ)さまの髪、長くて大変じゃありませんの?」

「大変よ。でも切ろうとしたら、ラピスがダメだって」

「ダメだよ。せっかく綺麗な金髪なんだから」

「……だそうよ」

「ふぅん、そおなんですの。……とゆうより、肉体の最適化魔法なんて便利なものがあるなら、洗わなくてもいいんじゃ……」

「そこは気分の問題ね」


女3人寄れば(かしま)しいとはよく言ったもので、会話は途切れることなく、全員の髪と身体を洗い終えた。

ここでセラ待望の湯船につかる。ここでも彼女はラピスの脚の間に座ろうとしたが、さすがに今度は自分の番と、リリィがラピスの横に並んだ。


「ふあァ……きもちいいですわァ……」

「でしょ? でも油断してのぼせないようにね」

「はァい……」


妹の間延びした返事に苦笑すると、ラピスは恋人との距離を縮めた。


「あら? 素肌で触れ合ってだいじょうぶなの?」

「ホントはメチャクチャ恥ずかしい……」


顔を真っ赤にしながらも、恋人の腕を取って更に密着する。これにはリリィも耐えきれず、頬に朱が差していた。


「ど、どおしたのよ、いきなり。お風呂場でスキンシップなんて……」

「あ、あはは。恥ずかしいんだけど、これからずっと一緒に生きていけるんだなァって思ったら、幸せが抑えきれなくて。……嫌だったら離れるよ?」

「嫌なわけないでしょ」


リリィは体勢を入れ替え、ラピスを正面から抱き締めた。


「──あ」


声が詰まるラピス。いつぞやの、空飛ぶ絨毯の上での姿勢とまったく同じだった。


「嫌なわけないわ。あたしも、ラピスとこおしていたい」

「……え、えへへ。照れるね……」

「……幸せだわ」

「……わたしも」


お互い気持ちを確認し合い、ゆっくりと唇が重なる。互いに一糸(いっし)まとわぬ姿で交わすキスは、いつもより濃厚で、背徳的だった。

たっぷり10秒後、唇が離れる。二人は同じタイミングではにかんだ。


「好きだよ、リリィ」

「好きよ、ラピス」


体勢はいつぞやの空飛ぶ絨毯の上と同じ。だが決定的に違うものが3つあった。

1つ目は二人を隔てるものがなにもないこと。

2つ目に、不可抗力ではなく自らの意思で、彼女たちは抱き合っていること。

3つ目は、彼女たちの関係性。二人はどこから見ても、お似合いの恋人同士だった。




ああ、もう1つあった。それは──


「ふふふ、お熱いですわね、お二人とも。ひゅーひゅー、ですわ♪」

「「………」」


──それは、ギャラリーの存在だ。

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