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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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食事を終えてまったりとした時間。


「じゃあ作戦会議を始めようか」


毛糸でコースターを編みながら、ラピスがのほほんと言う。

リリィはラピスの膝を枕に「……ええ」と頷き、セラは、以前ラピスが作った編みぐるみを興味深そうにふにふにしながら「……はい」と空返事をした。

それでも気にすることなく、ラピスは議題を発表する。


「わたしが行方不明のままだと、セラの手間が増えたり、勝手に国葬とかされちゃったりしそうだから、正面から正々堂々王女を辞めにいきたいの。だから二人に手を貸してほしいんだけど」

「よろしいですか? 姉さま」


セラが手を挙げる。


「なに? セラ」

「国葬って、そんなに不都合なことですの? 姉さまが死んだことになれば追っ手も来ませんし、王子との結婚もなくなりますし、万々歳じゃありませんの?」

「…………あれ?」

「あと、わたくしに迷惑がかかることを危惧してらっしゃるようですけど、それは杞憂ですわよ? だって、わたくしも王女辞めますし」

「「ええっ!?」」


ラピスとリリィの驚愕がかさなった。


「? そんなに驚くことですの?」

「そりゃ驚くよ! セラってば、法律を変えるってゆって頑張ってたじゃん! 諦めちゃうの!?」

「えっと、それはもういいんですの。姉さまがご隠居なさるなら、法を変える意味がありませんもの」

「……以前(まえ)から気になってたんだけど、セラはなんで法律を変えたいの?」

「………………秘密ですわ」

「むう……」


不満げに唸るラピス。だがセラは頑として理由を話さない。

ため息を吐いて気持ちを切り替えると、ラピスはリリィに向き直った。


「あのさ、リリィ。今日、セラを泊めてもいいかな?」

「いいわよ。とゆうか、最初からそのつもりだったし」

「ありがと。じゃあわたし、お庭の手入れしてくるね」


一度リリィをぎゅっとしてから、二人に手を振って外に出た。

小屋には二人が残される。先に口を開いたのはセラだった。


「……姉さまに気を遣わせてしまいましたわ」

「そうね。でも、ラピスにはどうしても話せない内容なんでしょ?」

「はい。……リリィさまにでしたら話してもいいと思うのですが、聞いてくれますか?」

「聞くわよ。ラピスもそのつもりだったでしょう──あ」

「? どおしましたの?」

「……ふと思ったんだけど、あたしとラピスが結婚したら、セラちゃんあたしの義妹(いもうと)?」

「ふふ、今は関係ありませんが、確かにその通りですわね。リリィ義姉(ねえ)さまとお呼びしても?」

「! 是非、お願いするわ!」

「ではリリィ義姉(ねえ)さま。聞いてくださいまし」

「……ラピスがシスコンになる理由もわかるわね」


恍惚とした表情のリリィ。

セラは話し始めた。


「わたくしが法を変えようとした理由、それは──」

「それは?」

「それは──姉さまと結婚するためですわ!」

「ラピスはあげないわよ!」


一瞬で血相を変えるリリィ。いくらシスコンに目覚めかけた彼女とはいえ、許せる範囲を超えていたようだ。


「最後まで聞いてくださいまし。わたくしは、姉さまのことが好きです。大好きです。親愛、友愛、恋愛、情愛、敬愛、家族愛、姉妹愛、どの候補も一番は姉さまですの」

「…………セラちゃんも女の子が好きで、その対象がたまたま血の繋がったお姉ちゃんだったってこと?」

「違いますわ。わたくしは別に百合というわけではありません」

「ゆり?」

「東の島国で女性同士の恋愛、または同性を好きになる女性を指す言葉ですわ」

「ヘェ……。あ、ごめんなさい、水をさして。続けて?」

「はい。わたくしは男性を好きになったこともなければ、女性を好きになったこともありません。わたくしが好きなのは、姉さまと、姉さまが好きな人だけですの」

「………」

「だから漠然と、将来は姉さまと家庭を築くものだと思っていたのです。ですが、そこで思わぬ障壁が立ち塞がるのですわ」

「………」

「そう、法律です。我が国──失礼。わたくし、もう王女ではありませんでしたわ。この国では、女性同士の婚姻はおろか、姉妹の結婚すらできませんの。まったく、この法律を作った人は確実に頭がおかしいですわね」


おかしいのはおまえだ、とツッコむ者は、当然ながらここにはいない。


「ですので法律を変えてやろうと、遮二無二努力してきたんですわ。ですがそんな中、姉さまの婚約が決まり、姉さまは逃げ出しました」

「………」

「わたくしを共に連れていってくれなかったことは悲しいですし、行方不明と聞かされたときは目の前が真っ白になりましたけど、その辺は割愛しますわ」

「………」

「今日姉さまと再会して、チャンスだと思いましたの。この森は実質、法の届かない治外法権。しかも最強の魔女、リリィ義姉(ねえ)さまの庇護下ですわ。こんなにも安全な場所はございません。このままここに住んでいれば煩わしい政務や、疎ましい部下とも、金輪際無関係でいられますし」

「………」

「どおでしょう? リリィ義姉(ねえ)さま。わたくしの提案は、『第一王女、第二王女共に死亡したことにする』。且つ、『わたくしを姉さまの傍に置く』。以上ですわ。もちろん、妹として姉さまに接し、逸脱した行為はいたしません」


キスは逸脱した行為じゃねェのかよ、とツッコむ者は以下略。


「…………二つ、訊きたいんだけど──」

「わたくしは姉さまと結婚できないけどそれはいいのか、それと、リリィ義姉(ねえ)さまにどんな利点があるか、ですわね?」


先回りして言うセラの言葉に、リリィはしかし、首を横に振った。

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