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「改めまして。
「──わたしはラピスラズリ・D・アレキサンドライト。
「一応、この国の第一王女だよ。
「今までずっと話せなくてごめんね。
「あ、うん。
「記憶喪失はしょうがないと思うけど、一応けじめとしてね。
「ごめん、リリィ。
「うん、じゃあこれで終わりってことで。
「で、なんの話だっけ?
「ん? そうそう、王女さまだよ、わたし。
「え? やだよ、敬語なんて。
「もし使ったら、わたし号泣するからね?
「それは置いといて、リリィが疑問に思ってそうなことに順番に答えていくね。
「まずはなんだろ?
「わたしが一人で死にかけてた理由からかな?
「あ、セラ、泣かないで!
「2ヶ月も以前の話だから!
「うん、今はもう元気だよ。
「え? メイド服を着てる理由?
「それ、今じゃなきゃダメ?
「もう、セラの所為で話進まないじゃん。
「あとで相手してあげるからちょっと黙ってて。
「ほら、膝枕してあげるから。
「……あ、寝ちゃった。
「結構疲れてたんだね。
「ん、えっと、一人で死にかけてた理由なんだけどね、城から脱走したの。
「結婚がいやで。
「うん、いつだったかリリィが話してた妄想、まんま大当たり。
「隣の国の王子と政略結婚させられそうになったんだよ、わたし。
「父親も母親も乗り気だし、断ったら相手の面子を潰すことになるし。
「ほんっとに嫌だったんだけど、仕方ないかなって諦めてたの。
「その頃はまだ、女の子が好きだって自覚がなかったからね。
「でもそんなときにね、ホルンが脱走の手配をしてくれたの。
「あ、ホルンっていうのはわたしの専属メイドだよ。
「わたし的には友達のつもりだったんだけど、あの子、畏れ多いとかなんとか言っちゃって、結局友達とは呼んでくれなかったな。
「あー、うん、脱走することにしたんだけど、1つ問題があったの。
「そのまま逃げたら、ホルンに全責任が被せられるんじゃないかな、って思ったんだよ。
「だからわたしはホルンの飲み物に睡眠薬を入れて、彼女を眠らせて、お世話を他の衛士に代わってもらったの。
「衛士だったら責任をおっ被せても良心は痛まないからね。
「あ、その理由はまたあとで話すよ。
「今はこの話をさせて。
「でね、わたしは逃げ出したの。
「でもダメだね、すぐに見つかって、追いかけられちゃった。
「機転を利かして森に逃げ込んだまではよかったんだけど、もう息も絶え絶えで……。
「川の水を飲んで休憩してたら後ろから急に、いたぞっ、って声が聞こえて。
「びっくりして川に落ちちゃった。
「で、流れ流れてリリィの許まで、だよ。
「……今思えばわたし、滝から落ちてるよね?
「よく生きてたなァ、わたし……。
「………。
「まァ、こんな感じだね。
「あ、そうそう。
「衛士にだったら責任をおっ被せてもいいって思ってるわけは、一言で言えば仲が悪かったから。
「衛士だけじゃないよ。
「執事もメイドも他の貴族も、セラとホルン以外は基本的に敵だったね。
「なぜかって?
「わたしが問題児だったからだよ。
「うん、そうなの。
「あはは、いくらリリィでも、この話をするのは恥ずかしいね……。
「んーん、嫌なわけじゃないから全部聞いて。
「問題児っていうのはね、わたし、社交界のマナーとか、全然勉強しなかったの。
「王家に生まれたから、貴族に生まれたから、そんな理由で人生を決められるってアホらしくない?
「物心ついたときからそお思ってたから、わたしは徹底的に別の勉強をしたの。
「うん、家事の勉強、っていうか練習だね。
「幸い肌に合ってたみたいで、特に料理にははまったね。
「東の島国料理、美味しいし。
「今度そば打ってあげるからね♪
「じゃなくて、そんなんだから王女失格、姫失格。
「正直、知らねェよ、って感じだよね。
「マナー勉強してないから社交界出れないんだけど、その所為で至るところから陰口の嵐だよ。
「『姫さまはまたお身体の調子が優れないのですか?』
「『姫さまは給仕の真似事をするのがお好きなようで』
「はァ……うざ。
「あ、ごめんごめん、ついつい本音が。
「姫失格らしいから、開き直って好きな料理をしようとするんだけど、それすらも禁止。
「一応身分は王女だから、怪我でもしたら一大事なんだって。
「都合のいいときだけ姫扱いして、ほんと嫌になるよ。
「まァ、料理は隠れて練習してたけどね。
「そのおかげでリリィに美味しいご飯を食べてもらえるんだから、そこはわたしの先見の明が光るとこだね。
「え? 違う?
「ん、んん、さておきだよ。
「今までの話でわかるように、城の人とは折り合いが悪かったの。
「だからぶっちゃけ、あの人たちがどうなろうとわたしには関係ないなァ、って思う程度には冷めてるね。
「まァ、こんなとこかな。
「他になんか訊きたいことある?
「え? 喋り方?
「セラみたいなのが普通だって?
「あー、確かに。
「お嬢様ってそんなイメージだよね。
「なんでだろ? 無意識の反抗心の現れ、なのかな?
「わたしも、ですわ、とかゆったほうがいい?
「ちょ、なんで笑うの!?
「もう、リリィのいじわる。
「……むゥ。
「あ、そうだ、セラのことも話しておかないとね。
「わたしとリリィが結婚するってゆったとき、セラが普通に祝福してくれたの、おかしいと思わなかった?
「? シスコンだからそんなものだと思った?
「いや、シスコンをそんな便利な言葉みたいに使われても……。
「ほら、女同士なのに、とか言いそうじゃない?
「? ラピスの妹だし?
「…………そうだね、疑問に思わないんならいいんだ。
「話すことなくなっちゃった。
「せっかくだからセラの可愛い話でも聞いて。
「セラはね、わたしと違って凄く出来がいいの。
「社交界のマナーも完璧だし、有力な貴族や商人の名前もすらすら言えるし。
「なのに全然それを鼻にかけないで、料理を作れる姉さまのほうがずっと凄いですわ、ってゆってくれるの!
「もうほんと、わたしの妹、世界一可愛いんだよ♡
「? セラも似たようなことをゆってた?
「あはは、相変わらずだね、この子は。
「ん? なに? あと1個だけ?
「魔法とか魔女の存在を知らなかったのか?
「あー、言われてみれば思い当たる節はあるよ。
「王家に代々伝わる秘密がうんちゃらかんちゃら。
「あんま覚えてないけど、それがそおだったんじゃない?
「なにせわたし、問題児だったから!
「……威張ってゆうことじゃないね。
「……ヘェ、セラは魔女のこと知ってたんだ。
「流石セラだね、勉強熱心なだけあるよ。
「この子はめちゃくちゃ頭の回転が早くてね、舌先三寸で丸め込むのが超上手いの。
「リリィもやられた?
「…………こう言っちゃなんだけどさ。
「18歳の女の子に、口で負けるなよ、6332歳。
「うわっ、落ち込まないでよ。
「これから色々やることがあるんだから。
「…………ひっじょーに気は進まないんだけど、一旦城に戻らなきゃかな。
「うん、めんどくさいけど、わたしとリリィが幸せに暮らすために必要なの。
「リリィの魔法と、セラの知恵があればすぐに終わるからさ。
「ね、手伝って♪
「──ありがとう♪
「愛してるよ、リリィ♡」