22
ほんの一瞬触れ合うだけのソフトキス。それを見せつけられたリリィは驚嘆していた。
「(へェ。姉妹でもキスってするのね)」
魔女は兄弟姉妹を持たない。なので言葉の意味は知っていても、実際の関係性を知る者は殆どいなかった。
それはリリィも例外ではない。
本来であれば嫉妬するタイミングで、姉妹というフィルターがかかってしまい、目の前で展開された初めての光景に、姉妹はスキンシップでキスをするもの、という強い刷り込みができた。
唇を奪われたラピスはというと、目の焦点があっていない。
妹にいきなりキスをされ頭が混乱している。──というわけではない。
驚くべきことに、セラの唇が彼女に触れた瞬間、凄まじい量の情報が脳に流れ込んできたのだ。失われた彼女の記憶である。
それの処理に追われ、セラを抱いたまま棒立ちになるラピス。
1分程経ち、彼女の瞳が焦点を結んだ。
ラピスは優しく微笑んで、言った。
「……久しぶりだね、セラ」
「!」
先程も言った言葉。だがその意味合いは大きく違っていた。
一度は止まった涙を再度溢れさせ、セラはより強く姉に抱きついた。
「姉さまっ、姉さまァ! 心配しましたわァ!」
「うん。ごめんね」
似たような会話を繰り返す。
それは姉妹が関係を取り戻すために、必要な儀式だった。
「あと、リリィはありがと。セラを連れてきてくれて」
「ふふ、当然のことをしただけよ」
「あ、それから、姉妹でキスするのは普通だから浮気とかじゃ……」
「わかってるわよ。安心して」
もちろんこの世界でも姉妹──兄弟姉妹でキスをするのは一般的ではない。この姉妹のシスコンレベルがブッ飛んでいるだけだ。
シスコンの自覚はあっても、キスがおかしいとは思わないところが始末が悪い。
幸か不幸か、この場にごく普通の感性の持ち主はいなかったので、ツッコみは入らなかった。
だが、セラから別のツッコみが入る。
「浮気? どうゆうことですの?」
あ、という顔をする二人。先に立ち直ったのはラピスで、まァいっか、みたいな感じで説明を始めた。
「ゆってなかったね。わたしとリリィ、結婚を前提に付き合ってるんだよ」
「まあ、そうでしたの! リリィさまでしたら安心ですわね。わたくし、結婚式でスピーチしたいですわ」
「うん。わたしもセラなら安心だよ。リリィもそれでいい?」
「え、ええ。構わないけど……その前に1ついいかしら?」
困惑した様子で前置きするリリィに、ラピスは妹を抱いたまま頷いた。どうでもいいがこの姉妹、離れる様子が1ミリもない。
「えーと、まずわからないことが多すぎるのよ。記憶戻ったついでにラピス、一から順を追って説明してくれないかしら?」
「あ、そうだね。話せてないことも大分あるし。ここらで一気に解決しておこうか」
皆でソファーに並んで座り、咳払いを1つ。ラピスは話し始めた。
「改めまして。──わたしはラピスラズリ・D・アレキサンドライト。一応、この国の第一王女だよ」




