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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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「で、DVじゃ! 酷いDVもあったもんじゃ! ラピスが鬼嫁になってしもうた! そおは思わんか? リリィよ」

「……師匠。それ以上あたしのラピスを馬鹿にするなら今度はあたしが殴りますよ? 魔法使って全力で」


リリィが拳を構える。口元は笑みの形をとっていたが、目は全く笑っていなかった。

サクラは冷や汗を垂らして必死に弁解した。


「……あ、いや、すまんかった。冗談だったんじゃ。まさかここまで怒るとは」


ラピスとリリィは、はァー、と長いため息をついて仕切り直した。


「とりあえず話の続きは中でしよ。リリィ案内してあげて」

「そおね。師匠。こちらへどおぞ」

「うむ。すまんな」


リリィはサクラを我が家へと案内する。土足禁止だと伝えると、サクラは嬉しそうに微笑んだ。

ラピスは2本の枝を器用に使って残りの焼き芋を引っ張り出す。全部出したところでそれを籠に入れ、軽くメイド服をはたいてから家に入った。


畳の上ではサクラがごろんと寝転がってくつろいでいる。リリィは隣で正座していた。一応相手は師匠なので、最低限の礼儀は尽くすのだ。


珍しいものを見た、と口角を上げるラピス。籠を置いてからキッチンへ移動した。


「今お茶淹れるね」

「おお、お構いなく、じゃ」


サクラはひらひらと手を振る。完全に脱力モードだった。

お茶を淹れてテーブルの上に置く。サクラはのそのそと起き上がり、お茶を一口。続いて籠に手を伸ばすと、中の焼き芋を取って食べ出した。


「…………うむ」

「『うむ』じゃないし! なんか大事な話があるんじゃないの!?」

「焼き芋と緑茶の組み合わせに比べれば些細な話じゃよ」


ラピスは呆れてもう一度ため息をつく。リリィに目線を移すと彼女も籠に手を伸ばしていたので、しばらく話を聞くのは諦めようと思った。


リリィの髪をいじって遊ぶことしばらく。焼き芋を5個くらい平らげ、ようやくサクラは話し始める気になったらしい。


「では話すとするかの。一応そなたらにも関係の深い話じゃ」

「んー」


しかし今度はラピスに聞く気がなかった。リリィの髪をいじるのに夢中で、上の空に相槌を打つ。

だがサクラは特に気にすることなく話を始めた。最悪、知らなくても問題ないことだからだ。


「まず第1に、スランク王国が滅んだのじゃがこれはどおでもいいとして。リリィたちに似合いそうな服を見つけたのじゃ。受け取ってくれ」

「んー、ありがとう」

「ありがとうございます、師匠」


そこそこ重要そうな話がしれっとスルーされたが、今は誰も気にしない。

この事実をラピスたちが知るのは、翌日のことになる。


「よいよい。──で、本題に入るのじゃが、今日の夕餉(ゆうげ)(わらわ)に任せてほしい。名誉挽回したいのじゃ」

「え? 桜さん料理できるの?」

「……あたしも知らなかったわ」

「できるに決まっておろう。普段は面倒くさくてしないだけじゃ。まァ今みたいに、(わらわ)のイメージが『家事の苦手な女』で定着しそうじゃったからな。今のうちに払拭しておきたいのじゃよ」

「まァいいけど。じゃあ夕飯はお願いね」

「あたし、天ぷらが食べたいです」

「あいわかった。楽しみにしておれ」


サクラは胸の前で拳を握り、むんとやる気を入れるポーズを取る。その風貌も相まって、大人ぶりたい子供のようで、ラピスとリリィは笑ってしまった。

なぜ笑われたのかわからないサクラは、(しき)りに首をかしげていたという。




その日の夕方。

ドレスの続きに取りかかっていたラピスは、不意に手を止めて玄関を──より正確にはその向こうの空を見た。一瞬遅れて、リリィとサクラも気づく。

作りかけのドレスを傍らに置いて、ラピスは玄関を開けて外に出た。


「のうラピス」

「ん?」


ついてきたサクラが声をかける。


「今、探知魔法を使っている(わらわ)より先に気づいたよな? なぜじゃ?」

「へ? そんなの、妹が近づいてくればわかるに決まってんじゃん。姉妹なんだから」

「いや、その姉妹観はおかしい」


サクラが冷静にツッコむが、ラピスはどこ吹く風。というより聞いていない。既に意識は遠くの空に見えるセラに釘付けだった。


「ねェラピス。勝負しない?」

「ん?」


リリィもセラが近づいてきているのを眺めながら、そんな話を切り出す。


「セラの作品がいくらになったか、それを当てるの。負けたら罰ゲームね」

「いいけど……わたし勝っちゃうよ?」

「自信あるわね。いいわよ。先に予想して」

「ゼロ」

「は?」

「だからゼロ。現状では充分な対価が用意できないって言われて、後日必ず支払うって言われて、誓約書的なやつ渡されて帰ってきたと見たよ」

「…………もしその予想が当たってたらあたし、猫耳和メイド服で奉仕してもいいわ」

「ゆったね? 奉仕してもらうからね♡」


談笑しているとセラはもう目の前。地上に下り立つところだった。

セラは絨毯から下りてすぐに駆け出し、一目散にラピスに抱きついた。


「ただいまですわ。姉さま」

「おかえり、セラ」

「おかえり」

「おかえりじゃ」


キスをして、匂いを吸い込んで、たっぷり3分。姉から離れたセラは、そこでようやくサクラの存在に気がついた。


「サクラさま。お久しぶりですわ」

「久しぶり──かのう? ついこないだ会ったばかりじゃよ?」

「2ヶ月前はついこないだじゃありませんわ」


こんなところで、魔女の時間感覚のずれが(あらわ)になった。


家へと戻り、各々自分のスペースを見つけてくつろぐ。ラピスは紅茶を淹れるためにキッチンへ行った。

たまにリリィから「働きすぎ!」と言われるのだが、家事は趣味でもあるため全く苦にならない。むしろ家事をしないと落ち着かないくらいだ。


紅茶を淹れてリビングに戻る。今日は温かいミルクティーだ。目標は陽出地(ひづち)で飲んだロイヤルミルクティーなのだが、あれにはまだまだ及ばないとラピスは思っていた。


セラの隣にぴったりと座って、先程リリィに挑まれた勝負の結果を訊ねることにする。


「ねェセラ。絵とかフィギュアとか、いくらくらいで売れた?」


リリィとサクラは耳を(そばだ)てて、セラは渋面を浮かべた。


「それがなんか、偉い人を呼んで正確な価値を計りたいとかで、今日は誓約書だけ渡されましたの。まったく、二束三文でいいとゆってますのに」


セラは大きくため息をつき、ラピスはそんなセラを強く抱きしめ、サクラは感心したように頷く。

唯一人リリィだけが、「……なんであんなことゆっちゃったのかしら……?」と頭を抱えていた。

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