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リリィの膝の上でラピスは目覚めた。こちらを見て微笑んでいるリリィの顔を見て、がばっと起き上がる。
「わたし、どれくらい寝てた?」
「5分くらいよ。……もっと寝ててくれてもよかったのに」
リリィはすっかりいつもの調子だ。まるでさっきのことは全て夢だったかのよう。
そんなことを考えて、ラピスの視線は無意識にリリィのスカートに集中した。
「──あんまりじっと見ないで。恥ずかしいわ」
「あ、ごめん」
しかし恥ずかしがるということは、夢ではないのだろう。なおさらスカートの中が気になってくるラピスだった。
「…………穿き替えた……んだよね?」
「ええ。今は普通のよ。見る?」
「いいです」
「あら、残念」
リリィはうふふとお姉さんのような笑い方をする。さっきまでの赤い顔が嘘のように余裕の態度だ。
「開き直ったの?」
「ええ。バレちゃったものは仕方ないものね。今ならなんでも答えるわよ?」
「じゃあさ、なにを考えてあんなぱんつ買ったの?」
「? そんなの、ラピスに喜んでもらうために決まってるじゃない」
「………………」
「嬉しいでしょ?」
「……嬉しいです♡」
照れくさそうにラピスははにかむ。気がついたらリリィは、衝動的にラピスを抱きしめていた。
「むぎゅ! ……リリィ?」
「──あ。あまりの可愛さについ」
「もお♡」
なんだか今日のイチャイチャ度は高い。二人とも甘えん坊の日みたいだ。
抱き合ったまま、リリィは「そお言えば」と話題を振る。
「ラピスってば、あたしになんか用があったんじゃないの?」
「あ、そおだった。あのね、毛糸がなくなっちゃったから買いに行きたいの」
「あー、だからもう編み物してないのね。あと1時間は誰も来ないと思ってたのに」
「……まァ、わたし的にはラッキーだったけど♡」
抱擁を解いて立ち上がる。出かける準備をするのだ。
窓を開けて、庭を見下ろす。ベンチに座って真剣な表情をするセラが見えた。まだ着色作業の途中らしい。
集中しているときに話しかけるのは心苦しいが、声をかけなかったらもっと怒られる。なのでラピスは大声で「セラァ!」と呼びかけた。
「? なんですの? 姉さま」
「これからお出かけするんだけど、一緒に行く?」
「もちろん行きますわ!」
元気よく返事をすると、セラは筆とフィギュアを置いて家の中に入っていった。
ラピスも着替えるべく、リリィを部屋から追い出す。しれっと居座っていたが、ここはラピスの部屋だ。
黒いシャツの上にモコモコした白いカーディガン、濃いグレーのスカートといった格好に着替えて、リビングで二人を待つ。
程なくして、リリィとセラはやって来た。
リリィは真っ白いニットに薄手の黒いコート、それに黒いパンツ。可愛いより格好いい寄りの装いだ。
セラは白いシャツの上にモコモコした黒いカーディガン、ブラウンのスカート。ラピスと色違いのお揃いだった。
「はうあ! お揃いの格好で二人並ぶと可愛すぎ♡」
リリィが姉妹をまとめて抱きしめるという思わぬ副次効果もあったが、とにかくお出かけの準備は完了した。
外に出て飛行機を展開。それに乗り込む。
「今日は動物園がある街のほうでお願い」
「構わないけど……どおして?」
「毛糸はそっちのほうが安くて質がいいの♪」
「しっかり主婦してますわねェ、姉さま……」
そんな会話を交わして、一行は飛び立っていった。
約40分のフライトの末、ラピスたちは街に到着。いつしかリリィとセラがデートした、『ラング・ド・シャ動物園』がある街だ。女性が多い街なのでラピスも安心して独り歩きできる。まァしないが。
目的の店で買い物をする。マフラーはかなり多くの毛糸が必要なので、様々な色を多めに買い込む。
「なんで一色じゃダメなんですの?」
「ダメじゃないけど、どおせなら何色か使ったほうがお洒落じゃない?」
「え? マフラーって1本の毛糸を編んでくんじゃないの? 色変えたら切れちゃわない?」
「リリィは本当に素人だね。色くらい簡単に変えられるし、模様だってつけられるよ」
ラピスは簡単そうに言うが、そこまで簡単ではないことにセラは気づいていた。あくまで、ラピス基準の話なのだ。
会計を済ませて店を出る。他に買うものはないかとラピス訊くと、特にないと返ってきた。自分の買い物に付き合わせただけと知って、彼女は少し申し訳なかった。
帰り道、美味しそうなメンチカツの屋台があったので購入していく。ここの店員も女性だった。
街の外に出て飛行機を展開。帰途につく。
そんな中、ラピスが思わず、といった感じで洩らした台詞が印象的だった。
「──…やっぱりあの街はいいね。いつもの街もいいけど、男の人が少ないと安心するよ」
セラはそれに大いに同意した。
だがリリィは寂しそうに笑うだけで、なにも言葉を発しなかった。




