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人気のないところに飛行機を着陸させる。外に出ると彼女たちは声を揃えて「──んー……!」と伸びをした。
飛行機を小型化して懐にしまう。街まで約5分の道のりだ。ラピスを中央にして、腕を組んで歩き出した。
「え? これ歩きづらっ」
「我慢して♡」
「我慢してくださいまし♡」
何気に3人で腕を組んで歩くのは初めて。ラピスは苦情を洩らしたが、にべもなく却下された。
歩いているといい香りが漂ってきた。複雑で芳醇なスパイスの匂いだ。
示し合わせたわけでもないのに、全く同じタイミングで鼻をひくひくと動かす。
「カレーだ!」
「カレーだわ!」
「カレーですわ!」
そして声も揃った。
駆け出したくなるのを堪えて、もうしばらく歩く。そして、街の門が見えてきた。
門番は男性二人。どちらもがたいがいい。
ラピスは腕を振りほどいてリリィの後ろに隠れた。
「止まってくれ。──旅行者か?」
門番の片方が声をかけてくる。代表してリリィが応対する。
「ええ。ちょっとお昼ごはんを食べに寄ったの」
「ヘェ、お目が高ェな。ここのカリーは絶品だぜ」
「カリー? カレーじゃなくて?」
「がはは、旅行者とは必ずこのやり取りをするんだけどな。この国じゃあカリーと呼ぶのが一般的だ。カレーっつうのは他の国に渡っていく過程で訛っていったんだろうな」
「ヘェ……じゃあその、カリーのオススメってある?」
「そいつを訊くのは野暮ってもんだ。ピンときた店に入りな。どこも美味いぜ」
「わかったわ、ありがとう」
「おう。気ィつけてな」
通行の許可をもらって街に入る。
と、そこで彼女たちは立ち止まった。理由は単純。人通りがめちゃくちゃ多かったのだ。
見渡す限りの人、人、人。この世界にはこんなにも人がいたのかと思う程だった。
「……人が多いわね」
「ですわねェ……。姉さま?」
「………」
人通りが多い、すなわち男性も多いということだ。男性が苦手なラピスにとっては、まさに鬼門だろう。
ラピスは門を過ぎてすぐに立ち止まってしまい、すがるようにセラの袖口を掴んでいた。
「「(可愛い……♡)」」
リリィとセラの心が1つになった。が、今はそれどころではない。
このままでは1歩も動けない。二進も三進もいかないとはこのことだった。
「…………セラァ……」
弱々しく、ラピスが妹の名前を呼ぶ。セラの中でなにかのスイッチが入った。
「リリィ義姉さま! すぐに男性を全員吹き飛ばしてくださいまし!」
「落ち着いてセラ! 過激すぎるわ!」
セラが冷静さを欠くというプチ事件もあったが、それはいつも通りなのでどうでもいいとして、問題は別にある。
本場のカレーは食べたいが、男が多すぎる。抜け道を使おうにも、人通りが少ない道というものがそもそも存在せず、通ろうとすれば肩がぶつかること請け合いだ。
幸い、門の側は人が少なく、ここにいる限りラピスが怯えることはない。しかし──
「……困ったわね」
打つ手なしであった。魔女のくせに、こんな簡単な問題も解決できないのかと、リリィは歯噛みする。
「……あの、ごめん。リリィ。セラ。わたし、外で待ってるから、二人で食べてきて」
「ラピス。気遣いは嬉しいけど、次そんなことゆったら怒るわよ」
「そおするくらいならお昼抜きますわ」
と、このように、ラピス抜きで食べるという選択肢はない。それにカレーという食べ物の性質上、持ち帰りにも不向きなのでそれもできない。
ここでの昼食は諦めよう、そんな決断を下そうとしたときだった。
「──お姉さんたち、お困りみたいだねっ!」
と、そんな声をかけられたのだ。
声のほうを向くと、小柄な女の子が仁王立ちしていた。
身長はホルンと同程度。大体150センチ
くらい。濃い紫の髪をウルフカットにしている。若干生意気そうに見える顔立ちだが、キラキラと光る赤い瞳が彼女の可愛らしさを引き立てていた。
馴れ馴れしく話しかけてきた彼女は誰か?
「よければ案内するし。ここはボクの庭みたいなもんだからね!」
リリィの友人、最年少の魔女、ルピナスだった。




