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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
15/433

15

ラピスが拾われてから50日。

そろそろこの数え方も面倒になってきたので、暦で表そうと思う。

大陸暦2782年、6の月の15日。


季節は移ろい、だんだんと汗ばむ日が増えてきた。あと一月(ひとつき)もすれば太陽が本気を出し、夏が本番を迎えることだろう。

しかしリリィの小屋は、小屋全体──ひいては小屋周辺に至るまでびっしりと刻まれた魔法陣によって、年中適温に保たれていた。暑さにも寒さにも弱いリリィが、5500年程昔に1年懸けて編み出した本気の魔法陣である。

その恩恵に(あずか)っているラピスは、リリィの膝枕でうつ伏せに寝転びながら考え事をしていた。


「……んむゥん」

「どしたの? ラピス。なにか悩み事?」


ラピスの頭を撫でながらリリィが訊く。ちなみにこの二人、ラピスが家事をしているときと、リリィが魔法の研究をしているとき以外は、常にべったりである。肌が触れ合っていない時間のほうが少ないくらいだ。


「んふふ。んっとね、どおしたら長生きできるかな、って」

「長生き?」


(くすぐ)ったそうに笑うラピスの答えに、リリィは首をかしげて問い返した。


「うん。多分だけど、わたしってリリィより先に死んじゃうでしょ? で、わたしが死んだあともリリィは独りで生きていくって思うと……ほら、なんか泣きそうになるじゃん」


ラピスは真剣に悩んでいた。

自分はいい。きっと、最期まで愛する人の側にいられるから。

でもリリィは?

それを考えた途端(とたん)、ラピスの両目から涙が溢れ出てきた。そのくらい、悲しい未来を想像をしてしまったのだ。

自分が死んだあと、他の誰かを愛することもできずに、独り寂しくただただ生きていくだけ。

そんなの、悲しすぎるではないか。


「なんだ、そんなことで悩んでたの」


しかしリリィは、ラピスのその真剣な悩みを一蹴した。


「! ……リリィ、その言い方はないんじゃないかな。わたし、本気で考えてるんだよ? それともリリィ、わたしが死んだあと、ちゃんと他の誰かを好きになってくれる?」

「無理よそんなの。あたし、ラピス一筋だもの」

「はう! ──…って誤魔化されないよ! わたし、本気なんだから!」

「ふふ、ごめんね。でも、ラピスもそう考えてくれてるのなら、話してもいいかしら……」

「?」


割と強めに怒っているのに、柳に風なリリィ。更に思わせ振りなことを言う彼女に、ラピスは疑問符を浮かべた。


「ねェリリィ──」

「あのね、ラピス。あたしのわがままでラピスの人生をめちゃくちゃにしたくなかったから、今まで言えなかったの。でも、ずっと黙ってるつもりはなかったわ。あたしの覚悟ができたらゆうつもりだった」

「? ?? なにが?」

「……魔女の伴侶になる者は、その魔女と同じ寿命を得るの」

「! え、つ、つまり!」


喜びを抑えられず、舌が回らなくなるラピス。

頷くリリィ。


「そうよ。あたしと結婚すれば、ラピスは魔女と同じくらい長生きできるわ。でも──」

「やっっったァあああ!! リリィとずっと一緒だ! リリィリリィ! 結婚しよ♡」

「待って待って! 凄く嬉しいけどちょっと待って! まだ続きがあるから」

「つづき?」


膝枕の体勢のまま大はしゃぎするラピスを、赤い顔で慌てて止めるリリィ。

ラピスが転がる度に、彼女のふわふわした銀髪が太腿(ふともも)に触れて、リリィは興奮を抑えるのに苦労した。


「あ、あのね。これは厳密に言えば長生きの方法じゃないのよ。あたしとラピスの寿命が、まったく同じになるだけなの」

「? ……じゃあ、結婚した翌日にわたしが事故死したら……」

「あたしも死ぬわ」

「お、おうふ」

「でも、悪いことばかりじゃないわよ。基本的に寿命はないし。老けないし」

「サラッと凄いこと言ったね。でもまァ、わたしのほうこそ厳密に言えば、長生きしたいわけじゃないしね。リリィを遺して逝きたくないだけだし」

「──じゃあ!」

「うん。願ったり叶ったりだよ。命をシェアするってことでしょ?」

「それわかりやすいわね。その通りよ」


リリィは微笑んで、ラピスの頭を撫でる。

ラピスはにゅふふと笑ってリリィの太ももに顔を埋め、彼女の匂いを堪能した。


「ふふ、ラピスと結婚かァ。幸せだわ♡」

「結婚式はいつにしよっか? リリィの友達いっぱい呼んでね。女の子同士に理解がある人」

「……ご理解いただけるならラピスの親族も招待したいのだけど」

「いいよいいよ。記憶ないし」

「そうね。記憶──あ」


しまった、という顔でリリィが固まった。


「な、なに? なにに気づいたの? ヤバいこと?」

「………。……フルネームがわからないと結婚できない」

「? わたし、ラピス・A・オブシディアンだよ」

「結婚したらそうなるけど今は違うでしょ? そもそも、ラピスだって本名かどうかわからないのよ?」


サァーとラピスの血の気が引いた。

真っ青な顔で、うわ言のように呟く。


「……こ、このままじゃ、リリィと結婚できない……」

「……ええ」

「………。……記憶を元に戻す魔法とか」

「ないわ」

「…………よし」


なにかを決心し、ラピスは立ち上がる。そして、両の拳を握って宣言した。


「わたし、記憶を取り戻す! どうすればいいかはまったくわからないけど、リリィと結婚したいから!」

「ラピス……」


瞳を潤ませて、リリィはラピスを抱きしめる。


「あたしも協力するわ。正直、今の今まで記憶喪失とかどうでもいいと思ってたけど」

「わたしも、ただの死に設定だと思ってたけど」

「あたしたちの幸せな家庭のために、ラピスの記憶を取り戻すわよ!」

「おー!」


抱き合って決意を新たにする二人であった。決意は立派かもしれないが、(はた)から見ればただイチャついているだけだった。


「さて。意気込んだはいいけど、どうしましょうか?」

「さあ?」

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