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2時間弱眠って、ラピスとリリィは目を覚ました。
睡眠不足解消、頭もスッキリ、体調も万全だ。
「おはよう、セラ」
「おはよ、セラ」
「おはようですわ、姉さま。リリィ義姉さま」
寝起きの挨拶とキスを交わす。
セラに飛行状況を聞いたが、なにも問題はなく、順調なフライトを続けていたそうだ。
お昼休憩まではまだ時間があるので、スキンシップをしながらトークを楽しむ。そのトークで、セラはこんな質問をした。
「姉さまって、本当は『お姉ちゃん』って呼ばれたかったりします?」
実は前々から気にはなっていたのだ。
たまに使う一人称は“お姉ちゃん”だし、『お姉ちゃん命令』なるスキルを持っているし。
だとするなら、セラは呼び方を変えるとこもやぶさかではなかった。
しかしラピスは首を横に振った。
「んーん。わたし、セラに『姉さま』って呼ばれるの好きだよ。そんなセラがたまに『お姉ちゃん』って呼んでくれるのも、それはそれで嬉しいけど」
「では今まで通り『姉さま』で。でもたまに『お姉ちゃん』とも呼びますわ」
「うん。お願いね♪」
続いてリリィに向き直る。
「ちなみにリリィ義姉さまは……」
「あたしも『リリィ義姉さま』って呼ばれるの好きよ♪ これからもそお呼んでくれると嬉しいわ」
「わかりましたわ、リリィ義姉さま」
新婚旅行というタイミングで、このことを訊ねたのはセラなりのけじめ──というより、1つの区切りだった。
これから先、何年何十年、何百年何千年とともに生きていく予定なのだから、呼び方というのは殊の外重要だと思ったのだ。
1つの懸念が片づいたので、セラはホッと胸を撫で下ろす。
別にターン制というわけではないのだが、セラのターンが終わったので、次は自分の番とばかりにリリィが質問をする。
「じゃあ次はあたしね。ラピスとセラはいつ結婚するの?」
「……はぇ?」
あまりにも予想外すぎる質問に、ラピスは変な声が出た。一方セラは然程驚いてはいない。それどころか唇に指を当てて、平然と未来の可能性を考えている。
「んー、そおですわね。姉さまの気持ちの整理ができたらで構いませんわ。それこそ、100年後であろうとも」
「気長ねェ……。本当にいいの?」
「はい。多分ですけど、結婚したとしても今のお二人と同じように、劇的に関係性が変わるとかはないと思いますので」
「それもそおね。ラピス。ちゃんと受け止めてあげるのよ?」
「え? あ、うん」
ラピスとしては青天の霹靂だったのだが、セラとの結婚が嫌というわけではない。むしろ望むところだ。
なので驚きこそすれ、拒否するような話ではなかった。
「(そっかァ、セラとも結婚するんだァ、わたし)」
重婚になってしまうが、当の本人であるリリィが許可しているので特に問題はないだろう。
それに、リリィとセラに優劣をつけるのにも抵抗があったところだ。ラピスはそう考えて、真剣にセラとの結婚を視野に入れ始めた。
続いてラピスの質問ターン。完全にターン制が定着している。
といっても、ラピスにはすぐに質問したいことなどない。少しの間黙考して、口を開く。
「えっと……じゃあ、セラとの結婚なんだけど、式はどおする? レイシアさんのところに行くのはさすがに遠慮したいんだけど。ほら、姉妹で結婚する人はあんまりいないだろうし」
あんまりではない。
「それに重婚って、嫌な顔する人も多いだろうし」
「そおね。いくらあたしたちは納得済みでも、いい顔はしないでしょうね」
「…………わたくしの希望をゆってもいいですか?」
おずおずとセラは手を挙げる。シスコン二人はすぐさま発言を許可した。
「──わたくしとしては、身内だけで挙げる式に憧れていますの。わたくしと、姉さまと、リリィ義姉さまと、ホルンさんくらいで、こぢんまりとしたものが望ましいですわね」
「あー、それもいいね。司会とかは?」
「いりませんわ。邪魔です」
にべもなかった。
昔よりは他人に興味を持つようになったセラではあるが、根っこの部分は変わらず『筋金入りのシスコン』である。
姉と、姉が大事に思っているもの以外はどうでもいいというスタンスは、依然として変わっていなかった。
「でもうちでやるとなると、ウェディングドレスはどおするの? ラピスの分は大事にしまってあるけど」
「それなんですわよね。ドレスだけ注文したら変な目で見られてしまいますし」
「う~ん。……わたし、縫おうか?」
「「!!!?」」
ラピスの爆弾発言が炸裂した。
「つ、作れますの!? 姉さま!」
「へ? うん。多分」
「本当に!? あれ、並のクオリティじゃないわよ!?」
「時間はかかるけどね。3~4ヶ月かかるかも」
「……お手間でなければ、是非姉さまにお願いしたいですわ。デザインは僭越ながらわたくしが担当いたします」
「わかった。任せて。最高の仕上がりにするから♪」
……というわけで。
リリィの発言からラピスとセラの結婚が決まり、更にはウェディングドレスの作成を姉妹ですることが決まった。
半ば流れで決めた感もあるが、この姉妹は遅かれ早かれ結婚していたことだろう。
ただの姉妹愛と呼ぶには深すぎて、シスコンと呼ぼうにも明らかに言葉不足。
過去には身分が邪魔をして、自由な恋愛をできない時期もあった。
だが今は違う。
自由を手に入れて、心配事もなくなった。幸せな生活を手に入れ、新しい家族もできた。
そんな彼女たちが結婚することは、世間一般の考えを無視すれば極々自然なことだ。
なぜなら彼女たちは、既に生涯をともにすると心に誓っているのだから。




