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翌朝、10の月の7日。
わくわくしていたために全員が同じ時間に起きた。
ノロノロと朝の一連の作業を終えて、リビングに集まる。
「「あふ……」」
ラピスとリリィが同じタイミングであくびを洩らした。かなり眠そうだ。
「眠そうですわね」
「……うん。なかなか寝つけなくてね」
「……あたしも。セラは平気なの?」
「ちょっと眠いですけど、平気だと思いますわ」
眠気覚ましに、熱いコーヒーを淹れる。ラピスは顔を顰めながら、リリィは淡々と、セラはミルクをたくさん入れて飲む。
「む、セラズルい」
「だってわたくし、そこまで寝不足じゃありませんもの」
「……むゥ」
ラピスにも姉としての意地がある。だからブラックで──はさすがに無理なので、ミルクと砂糖を少しずつ入れて、苦味に耐えながら飲む。
セラとしては姉の威厳などよりも可愛くいてくれたほうがいいのだが、今の無理してコーヒーを飲むラピスもそれはそれで可愛いので、それなりに満足していた。
眠気を覚ましたところでラピスは朝ごはんの準備に取りかかる。リリィは旅行で必要になりそうなものを用意し、セラは洗濯だ。各々、自分のすべきことがわかっていた。
朝ごはんができたので、一旦リビングに集合する。いただきますと言って食事が始まった。
「着替えは10着ずつくらいでいいかしら?」
「多くて困ることはないでしょ。マジックバッグだし」
「本当、便利ですわねェ」
喋りながら、あっという間に食事が終わる。
リリィとセラはそれぞれの作業に戻り、ラピスは食器を片づけにキッチンへ移動した。
それが終わるとセラの洗濯を手伝う。洗濯が終わるのと、リリィが準備を完了させるのは同じタイミングだった。
「忘れ物はないつもりだけど、ラピスとセラも一応チェックしてちょうだい」
「わかった」
「わかりましたわ」
マジックバッグを手にして、「今から1時間以内に容れたもの」と言ってから中を覗き込む。着替えが大部分を占めていたが、忘れ物はないように見えた。
「うん。おっけ」
「だいじょうぶですわ」
「なら早速行きましょう♪」
リリィの先導で家から出る。すぐに飛行機を展開した。
全員でそれに乗り込み、飛行機は飛び立つ。
「まずはリンちゃんに挨拶していきましょ」
「ちょっと長く空けることになるからね」
「忘れずにお土産を買ってきましょうね」
5分程飛んで、漆雷獣ことリンドブルムが住処にしている洞窟に到着した。気づいた彼女が出迎えてくれる。
「クルゥ」
「出迎えありがとね、リンちゃん」
ラピスが代表して彼女の首筋を撫でる。リンドブルムは嬉しそうに「クルクルゥ♪」と鳴いた。
撫でながらラピスは、これから新婚旅行に行く旨を伝える。わざわざ挨拶に来てくれたことがわかったので、リンドブルムはひときわ嬉しそうに鳴いた。
「じゃあ行ってくるわね。お留守番よろしく」
「行ってきますわ。いい子にしてるんですわよ」
「行ってくるね。お土産はリンちゃんの希望通り、珍しい果物買ってくるから」
「クルックルゥ♪」
リンドブルムに手を振って、飛行機を飛ばす。そしてうっかりスルーしそうになったが、リリィとセラは密かに思っていた。
…………ラピス、ついにリンドブルムの言ってることを理解し始めた、と。
東の島国へは、片道推定10時間かかる。これは以前、東の島国に行ったというアイリスから聞いた話を元に弾き出した時間だ。それなりに信頼度は高いと思う。
「つまりアイリスさん、片道35時間くらいかけたってこと!?」
「実際には休憩もいれるから、もっとかかったでしょうね……」
「遠いですわね。でもそれでこそ旅行ですわ」
今回はセラを真ん中にして寄り添いながらの会話だ。
ラピスは妹の腕を抱くようにしてくっつき、リリィは肩を抱くようにしてくっつく。大好きな人たちに挟まれて、セラは天にも昇る気持ちだった。
1時間程そのまま飛んでいき、代わり映えしない景色に退屈を憶え始めた頃、ある問題が勃発した。
防ぎようも対策のしようもないその問題、それは──
「「──…眠い……」」
ラピスとリリィの、眠気の限界。
彼女たちは目をこすり、セラに寄りかかった。異常に瞼が重い。目を閉じたらそのまま眠ってしまいそうだ。
「姉さま。リリィ義姉さま。無理せずに寝てくださいまし」
「……うん。……ごめん、そおさせてもらおうかな」
「……悪いわね」
ラピスとリリィはあくびを噛み殺しながら後ろの席に移動すると、背凭れを倒して簡易的なベッドとした。
二人で抱き合って、簡易ベッドに横になる。
「……おやすみ、セラ」
「……おやすみ、セラ」
わかりづらいが、ラピス、リリィの順だ。
「おやすみなさい。──あ、その前に1つだけ」
「……ん?」
「寝てる姉さまに、どこまでなら悪戯してもいいですか?」
「……え? 悪戯したいの?」
「はい♡ したいですわ♡」
突拍子もないお願いだが、妹の頼みなら聞かないわけにはいかない。眠気の所為でうまく回らない頭で考える。
だがやはり睡魔には勝てない。ラピスは目を瞑っておざなりに答えた。
「──…わたしのからだ……すきにしていいよ……」
「ぎゃふ!?」
セラが血を吐いた。ような幻覚が見えた。
自分がなにを口走ったのか理解しないまま、ラピスは寝息を立て始めた。隣では既にリリィも夢の世界の住人になっている。
そんな二人を前にして、セラはごくりと生唾を飲み込む。
ラピスは言った。わたしの身体を好きにしていい、と。
言質は取ってある。今の自分はなにをしても許される。
彼女は姉の服に手をかけ──
「やっぱり無理ですわァあああ!!」
ずざざざざ、と音を立てて後ずさる。肝心なところでへたれたセラだった。
そこでラピスが寝ている。ただそれだけのなんでもない光景なのに、セラは両手で顔を覆い、指の隙間から姉を見る。なんだか無性に恥ずかしかった。
「………。……で、でもこんなチャンスは滅多にありませんし」
彼女は勘違いをしている。
リリィと既に結ばれたラピスは、セラが真剣に頼めば一緒に寝てくれるだろう。
だがタイミングに拘るセラは、その発想自体がなかった。
「……い、今はこれだけで……」
日和ったセラは寝ているラピスにそっと唇を重ねて、それだけで離れてしまう。
いつもしていることなのに、相手が寝ているだけで大きな背徳感に襲われ、彼女は首まで真っ赤に染めた。




