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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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「ラピス。紅茶を淹れてくれる? 今日はダージリンがいいわ」

「紅茶通ぶらないでよ。うちにはダージリンしかないじゃん。──わかった、待ってて」


ラピスがとてとてとキッチンに向かうのを確認し、リリィはアイリスに向き直った。


「さて。なにから訊きたい?」


少し考え込む仕種を見せたあと、アイリスは口を開いた。


「…………リリィ先輩は、女性が好きだったんですね」

「そうよ。隠してたわけじゃないけど、わざわざ自分から言うようなことでもないし」

「承知しております。次に、もし自分が先輩に告白していたら、受けてくださいましたか?」

「………」


黙りこむリリィ。あまりにも突然すぎて、脳の処理が追いつかなかった。


「え、それって──」

「もちろん冗談です。先輩は自分のタイプではありませんので」

「! と、年上をからかうものじゃないわよ」

「すみません。ちょっとした嫉妬です。多目に見てください」


アイリスはなにかを諦めたように笑った。

その表情と、先程のアイリスの台詞から、リリィは結論を導きだす。


「……まさか」

「一目惚れでした」


アイリスの視線の先にはラピスがいた。真面目な顔で茶葉の蒸らし具合をチェックしていた。


「こんなにも愛らしい存在がいるのかと、我が目を疑いました。見ただけでは到底存在を信じられず、声をかけたのですが……はは、ずいぶんと意味不明な話しかけかたになってしまいました」

「………」

「声を聞いて更に驚きましたね。鈴を転がすような、とは正にこのことかと」

「………」

「今日の帰りにでも、告白しようとしたんです。成功すれば万々歳。失敗すればここには以後立ち寄らない。掃除なら彼女がしてくれますしね」

「………」

「ですが……まさか挑戦することすらできないとは思いませんでした。初めての失恋ですが、結構クるものなんですね」

「…………ごめんなさい。でも、ラピスはあたしの彼女よ。あなたより、あたしのほうがお似合いだわ」

「ええ。自分もそう思います。悔しいですが、とてもお似合いです。……羨ましいくらいに」

「…………ありがとう」


涙を堪え、精一杯の笑顔を見せるアイリスに、最大限の敬意を込めて、リリィはお礼を述べた。


気まずい沈黙が支配するなか、紅茶を淹れたラピスが戻ってきた。


「お待たせしました。ってリリィもアイリスさんも、どうしたんですか!? なんか、ひどく落ち込んでるように見えるけど……」

「え? だ、だいじょうぶよ。紅茶ありがとう。いただくわね」

「? アイリスさんもどうぞ。お口に合えばいいんですが」

「ありがとう。いただくよ」


優雅な仕種で、アイリスはカップを傾けた。


「……美味いな。こんなに美味い紅茶は飲んだことがない」

「えへへ、大袈裟ですよ」

「いや、本心だ。……どうだ? ラピス。自分と結婚して、毎日自分に紅茶を淹れてくれないか?」

「あはは、アイリスさんも冗談を言うんですね。でもごめんなさい。わたし、リリィ一筋なんで♡」

「……はは、フラれてしまったか。──お幸せにな」

「はい!」


アイリスは無理矢理笑って紅茶を飲み干すと、席を立った。


「さて。そろそろ自分はお(いとま)するとしよう」

「え? まだ来たばっかじゃないですか」

「そうは言うがな。することもなくなったし、なにより……はは、二人の愛の巣に長々とお邪魔するのは心苦しい」

「はう!」


真っ赤になって硬直するラピスに、「ではな」と声をかけ、アイリスは外に出る。

後ろにリリィが続いた。


「では先輩。自分はちょっと、失恋旅行に行ってきます。どこかオススメなどありますか?」

「……それなら東の島国がいいわよ。あたしは行ったことないけど、食べ物が美味しいらしいわ」

「ふむ。ではそこに行ってみます。そのうちお土産でも持ってきます」

「……ええ、楽しみにしてるわ」


アイリスはリリィの後ろに一瞬目をやり、悪戯っぽく笑うと、急に距離を詰めてきた。


「ではまた会おう、リリィ(・・・)

「!」


無防備なリリィの頬にチュッとキスを落とし、アイリスは箒に乗って飛んでいった。

頬を押さえて呆然とするリリィ。

弟子の行動の意味がわからず、首をひねっていると──突如背中に、途轍(とてつ)もない寒気が走った。

恐る恐るその場で振り返る。


「…………リリィ……」


後ろに吹雪でも見えそうな程、苛烈且つ、静かに怒るラピスがそこにいた。

今になってやっと気づく。アイリスの最後のあの行動は、ラピスがいることに気がついたからだったのだと。

してやられたと感じながら、必死に弁解する。


「ちが、違うわラピス! あれはアイリスが勝手に──」

「あ゛!?」

「すみません!!」


ビシッと背筋を伸ばすリリィ。だが、自分のことが好きだからこそラピスが本気で怒っていると思うと、少し嬉しく──


「なにニヤニヤしてんの!? 反省してないでしょ!? リリィ正座!!」

「セ、セーザ?」

「東の島国の伝統的な反省方法! そこで膝曲げて座る!」

「また東の島国!」

「リリィッ!」

「はい! 座ります!」


いや、やっぱり程々にしてほしいな、と思ったリリィであった。

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