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瑠璃と百合と姫と魔女  作者: 山原くいな
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ラピスは上機嫌で掃除をしていた。窓枠に溜まった埃を雑巾で丁寧に取る。ついでに窓も水拭きし、乾いた雑巾で再び拭く。

作業をしながら、横目でチラチラとリリィの様子を窺う。彼女は机に向かって、なにやら書き物をしていた。

その横顔を見て、ふふふと微笑む。


「(さっきのリリィさんの反応、あれは確実にわたしを意識してくれたよね♪)」


リリィの手を取ったとき、彼女が頬を染めたことを、ラピスは見逃さなかった。そのことが彼女を上機嫌にさせていた。


事の始まりはなんと、ラピスが目覚めた直後まで(さかのぼ)る。


知らない場所で身体の自由も効かず、ラピスは彼女自身も気づかぬままに、大きなストレスを抱えていた。

そこに現れたのがリリィだった。

当時のラピスは気づいていなかったが、これは(まご)う事なき一目惚れだった。

ストレスは全て吹き飛んでいた。


自分の記憶がないことを自覚してからは、自分の感情と向き合うことに努めた。リリィのことが好きだと気づくのに、時間はかからなかった。また、同性を好きになったことに対する戸惑いもなかった。


買い物に行ったときは、ラピスの中では完全にデート気分であった。

行きの絨毯の上で高い所が怖いという事実が発覚したが、リリィに抱きつく口実ができたし、抱きついている間は幸せが大きく、正直あまり恐怖は感じていなかった。


帰りの絨毯の上では、リリィの驚きの告白を聞いた。

なんと、彼女も女の子のほうが好きだというのだ。

嬉しかった。報われないと思っていた。でも、チャンスがあるとわかった。

ラピスは、帰ったら本気を出そうと決めた。

そしてそれを実行に移し、現在に到る。


「リリィさん。なに書いてるの?」


窓の掃除が終わったラピスは、書き物をするリリィに後ろから抱きつきながら訊ねた。

全身をビクッと震わせるリリィ。


「ラ、ラピスちゃん! え、えっとこれはね、魔法陣よ」


明らかに動揺している。ラピスは笑みを深めた。


「まほうじん?」

「ええ。洗濯してくれる魔道具とかマジックバッグとかにも刻まれてるんだけど」

「つまり、なにかしらの物体にこのまほうじんを刻めば魔道具になるってこと?」

「理解が早いわね。その通りよ。……ところであたしもわからないことがあるんだけど、訊いていい?」

「うん、いいよ」


リリィは頬を染めながら言う。


「な、なんでいきなり抱きついてくるの? あ、あたしが女の子を好きなの知ってるでしょ? 本気にしちゃうわよ」


いかにもいっぱいいっぱいなリリィに、ついつい意地悪な気持ちがラピスに芽生える。


「え? 理由がないとスキンシップダメなの? ごめん、なら今後は控えるよ」

「そ、そおはゆってないわ。そこが見やすいならそこで見てていいし」

「ホント? じゃあこのまま見させてもらうね」


リリィさん可愛いなァ、と思いながら、ラピスは抱きつく力を強める。

その姿勢のまま約20分。

やがてリリィは「よし」と呟いてペンを置いた。


「一段落ついたの?」

「いいえ。終わったわ」

「そおなの? お疲れさま。お茶淹れるね」

「ありがとう。でもその前に1ついいかしら?」


リリィから離れキッチンに向かうラピスを、リリィは呼び止めた。その態度には、先程までの戸惑いは微塵もない。むしろ、ありありとした自信に彩られていた。

そのことを怪訝に思いながらも、ラピスは「なに?」と返事をした。


「さっき、ラピスちゃんがあたしに抱きついたとき。あたしは2つ質問をしたわ」


2つも訊かれただろうか、とラピスは首を傾げる。


「1つは純粋に何故抱きついてくるのか。もう1つは、あたしが女の子を(・・・・・・・・)好きなのを知ってて(・・・・・・・・・)、何故抱きついてくるのか」

「!」


しまった、とラピスは思った。

が、一瞬後には観念して笑みを浮かべた。


「……あはは。……ひょっとして、バレちゃったかな?」


なにが、とは訊かない。これで通じるはずだから。

リリィは本当に嬉しそうに笑った。


「ええそうね。間違いないと思うわ」

「そっかァ……。……じゃあ、わたしからゆってもいい?」

「ダメよ。こおゆうのは年上からって決まってるの」


ピシャリと言い放つと、リリィは改めてラピスに向き合った。

ラピスも無意識に居住(いず)まいを正す。

深く息を吸い込む。




「──ラピス(・・・)。あなたが好きです。あたしの、彼女になってください」

「……はい。わたしもあなたが好きです。わたしを、彼女にしてください」




互いの気持ちを確認し合った二人は、ゆっくりと互いに歩み寄り、強く、抱擁を交わした。

気持ちを伝え合ったからか、その抱擁は今までのどれよりも温かく、気持ちよく、そして甘かった──。

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