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JC異世界冒険譚 〜魔王とわたしと暗殺者〜   作者: ぽん之助
第一部 わたしと異世界の人々
39/117

異世界釣り体験


「さぁ! 行きましょう! 釣りましょう! 待ってろお魚達、ごっそり釣り上げてやる!」


 今日は魚を釣りに行く日。朝早くからの準備はすでに済ませた。釣り上げた魚を入れる箱や釣餌など大きな荷物はグレイスが持ち、ツバキがお弁当や水筒を、わたしは釣り竿を持って出発だ。


 釣り竿と言っても50センチくらいの細長い筒の中に収納されているらしく、とてもコンパクトだ。本当にこの中に三人分の釣り竿が入っているのだろうか? このサイズの筒の中に釣り竿三本入るとはとても思えない。これはもしかしたら二本しか入ってなくてグレイスだけ投網漁をするつもりなのかも知れない。


「今からテンション上げ過ぎて釣り場に到着する前に倒れるなよ?」

「あ、はい。そうですね。少し落ち着きます」


 いくら虚弱なわたしでもその程度で倒れる事は無い。と言いたいけど、断言は出来ない。到着と同時に力尽きて、家にUターンさせられるのは避けたい。テンションを落ち着かせて、ゆっくりと歩く事にする。


 今日釣りに行くのは街の東にある大きな湖だ。街の東門から出て少し歩けば見えるくらい近い場所らしい。わたし達の家は東門に近い壁際なので、神殿に行くより近いかも知れない。


「よし、この辺りで良いだろう」


 近いとは言え、わたしのゆっくり歩くペースは予想以上に遅くて時間が掛かってしまった。ようやく湖に到着した頃には、午前10時頃を知らせる二の鐘が街の方から聴こえてきたのであった。


「それを貸しなさい」


 お魚BOXを置いたグレイスが、わたしの持って来た釣り竿収納ケースを手にする。ちなみにお魚BOXは魔宝具の類らしく、中に入れた魚の鮮度をずっと保っておけるんだって。現代科学を超えた超便利道具である。


「もしかしてその筒も魔宝具なの?」

「まあ、見ていろ」


 グレイスが何かを呟くと、筒が弾けるように形を変えて消えた。残ったのは三本の釣り竿と魔石。収納用の筒は使わない時は魔石になるようだ。使い方としては使い魔に似ている。


「でも釣り竿短くない? 伸縮式?」

「手に持ってこの部分の魔石に魔力を通してみろ」


 グレイスは釣り竿をわたしとツバキに手渡す。わたしは受け取った釣り竿らしき棒の、中程にある魔石に触れて少しだけ魔力通す。すると短かった竿がしゅるしゅると伸びて二メートルを超える程の長さになった。その先には既に釣り糸が付いている。


「うわぁ、もう何でもありですね」

「糸と針も既に付いているから、後は餌を付けて釣るだけだ」


 使い手の魔力を使って竿から糸、針まで形作る魔宝具らしい。どんな大物でもまず折れる事の無い竿と切れない糸。更に自分の魔力で形成されているので重さも殆ど感じない。故に力の無いわたしでも扱える有り難い釣り竿だ。何と言う超技術。


 横を見ると、ツバキも問題無く釣り竿を伸ばしていた。わたしがどんどん魔力を供給しているので、今までにないくらい魔力が余っているらしい。このペースではもう時期ツバキの容量が満タンになってしまうそうなので、どんどん無駄遣いして頂きたい。


「では、始めるとしよう」

「よーし、頑張るぞ!」

「気を付けて下さいね」


 三者同時に釣りを開始する。わたしとツバキは近くの岩に腰掛け、隣同士で釣り糸を垂らす。グレイスは少し離れた所で豪快にスイングして遥か遠くに餌を投げ込んでいた。どうやら釣り竿になった後、更に魔力を送り込むと糸が伸びる仕組みのようだ。


「やっぱり危険な水生生物もいるよね……?」

「はい。ですが大丈夫です、私がお守りしますので」


 その為に肩が触れるほど近くにいるのだ。ツバキは自分の釣りそっちのけで、わたしが投げた先の浮きを見ている。それで良いのか。


「ガルちゃんの為にも沢山釣らなきゃね」


 今日も家でお留守番のガルちゃんであるが、グレイスが作った自動餌やりマシンのおかげで空腹になる心配は無い。丈夫な箱の中にわたしが魔力を込めた餌があり、定期的にそれが転がり出てくるようになっているのだ。


「天音様、さっそく来ましたよ。さあ思いっ切り引っ張って下さい」

「あ、本当だ。よーし、行くぞー!」


 浮きが沈んでいるのを見て、思いっ切り釣り竿を上げて糸を引っ張る。少し抵抗があったものの、すぐに獲物が水面に飛び出した。

 ……飛び出して、そのままわたしに向かって一直線に飛んで来る。


「うわわ!」


 わたしの眼の前まで飛んで来たそれを、さも当然のようにツバキの右手がスパーンッ! と叩き落とした。


「あ、ありがと……」

「流石は天音様、早速一匹釣り上げましたね」


 釣り上げたと言うか、勝手に飛んで来たって言うか……まあ釣り上げた事に変わりはないのかな……?


「この魚は釣り上げられる時に最後の抵抗として釣り人に飛び掛かるのですよ。そして噛み付いた後、隙をついて逃げるんです」

「な、なるほど、大胆な魚だね……」


 ツバキの落ち着きっぷりから察するに、この魚の危険度はかなり低い方だと思われる。危険度が高い魚だとどうなってしまうのか。水中から竜巻を起こして空を飛び、多数で襲いかかるタイプとか、頭が5つある獰猛なタイプが存在してもおかしくなさそうだ。


 取り敢えず、釣り上げた魚を魔宝具の箱に放り込み、釣りを再開する。箱の中には既に二匹の魚が入っていたので、わたしが一番最初ではなく、グレイスが先に釣り上げていたようである。


「グレイスさん、釣りも上手いんだね」

「そのようですね。私も釣りをしている姿は初めて見ました」


 先程の釣り場に戻り、岩に腰掛けて釣り糸を垂らす。そこからグレイスの方を見ていると、わたしが先程釣り上げた魚と同じ物が釣れたようだ。真っ直ぐ飛び掛かってくる魚。それをグレイスは片手でビンタするように軽く叩いて方向を変え、魚はそのまま勢い良く箱の中へと収まっていった。


「て、手慣れてるねぇ……」

「そうですね……」


 知らない人が見たら完全に地元の釣り人だと思うだろう。その余りの手際の良さに感心すると同時に、少し呆れつつ自分達の釣りを再開したのであった。




 それから暫くは平和に釣りを楽しんでいた。平和と言っても、釣り上げた瞬間に爆発する魚とか、鱗がナイフのように鋭くて素手で触ると危ない魚、果ては鋭く伸びた角が切れ味の良い剣そのものになっている本当の意味でのソードフィッシュなど、色々な魚が現れてそのたびに驚いていたのだけれど。



「そろそろ昼になるぞ」

「え、もうそんな時間?」


 いつの間にか自分の釣り中断したグレイスがわたしの所へ来てそう言った。ちょうど同じタイミングで昼の鐘が聴こえてくる。この世界の住人は時計が無くても1日に5回の鐘と体内時計で生活しているのだ。いや、ここまで体内時計が正確なのはほんの一部だと思うけど。


「じゃあこれを最後にします」


 少し離れた水面の浮きを見ながら答える。わたしも魔力で釣糸を伸ばすのに慣れてきて、少しずつ飛距離も伸びているのだ。腕力の限界でこれ以上は無理そうだけど。


「わわ!? 何か大きいの来たよ!?」


 浮きが一瞬で沈み、強く引っ張られた釣り竿が大きく撓る。今までとはまるで違う強い引きだ。すぐに相当大きな魚がヒットしたのだと理解したわたしは、直様グレイスに竿を渡してお任せする事にした。と言うかわたしの腕力じゃとても引き上げられない。むしろ引きずり込まれるパターンだと判断したのだ。わたしマジ冷静。


「ほう、これはなかなかの大物だな」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべたグレイスが釣り竿をしっかりと持ち、大物との格闘を始める。


「魚ではなく、魔魚の類かも知れん、離れていろ」

「り、了解!」



 指示に従い、ササッとその場から離れる。今までのヤバい魚でさえ危険度が低かったのだ、魔魚などと言う明らかに危険度の高そうな怪物が現れたらと思うと怖過ぎる。



「魔魚ってやっぱり魔物の類なの?」

「はい、多くは水中を生活圏にしています。中には陸地へ出て来る者や空を飛ぶ者も存在しますね」


 空飛ぶ魔魚って何? トビウオみたいな? わたしが魔魚の想像している間にグレイスの釣りも終わりが見えてきたようだった。


「引きあげるぞ!」


 その一声で、ツバキは両手に大剣を構え、わたしはその後ろに隠れつつ魔術回路を起動する。強力な魔物が飛び出て来るかも知れない。油断せず、全力で攻撃出来る様に態勢を整えておく事に越したことはない。


 ザバァッ! と豪快な水飛沫を上げ、巨体が水中から飛び出す。長身のグレイスを軽く超える高さまで飛んだそれは、勢い良く地面に着地して轟音と共に土煙を上げた。


「む、これはゼ・ガロンか」


 特に慌てた様子も無いグレイスを見ると、然程危険性の高い魔物でもないのだろうか。次第に土煙が消え、姿を現す。そこにいたのは、巨大なカエルのような何かであった。


「ぎゃあああ! 気持ち悪い!」


 思わず叫ぶ程、気持ち悪い生き物だった。カエルの様なシルエットだけど違う。茶色の皮膚に血管のような物が蠢き、全体は半透明の粘膜に包まれている。目はカエルと同じ位置にあるけど、両側にそれぞれ三つ、真ん中に1つ、合計7つある。その目が独立しているかの様に全て違う方向を見ている。


「これはハズレだ。さっさと処理して昼食にしなければな」

「いやぁ、かなり食欲が無くなりましたよ……」


 処理すると言ってもどうやって倒すのだろうか。直接攻撃したら粘膜が付いたりするだろうし、間接攻撃で倒した方が良さそうだ。そう決めたわたしはツバキの後ろから出てヴィントの魔術を使おうとする。それをグレイスが制止した。


「コイツは倒すのに良い方法がある」

「そ、そうなの?」


 わたしは魔術の発動を止めて、グレイスに任せて再びツバキの後ろに隠れた。ゼ・ガロンは一番近くに立っているグレイスを獲物に選んだようで、全ての目が同じ標的を見つめている。そして大きな声口をガバッと開く。その中には獲物を捕食する為に伸びるであろう赤い舌が見えた。


 視線を大きな口からグレイスへ移すと、ソフトボールくらいの大きさをした何かを投げようとおおきく振りかぶっていた。そして滑らかなフォームでそれを投げつける。ゼ・ガロンはすかさず舌を伸ばし、剛速球を物ともせず的確に絡め取って自分の口へと運び、飲み込んだ。


「よし、終わったぞ。さああちらで昼食にするぞ」

「え? まだ元気そうですよ?」


 くるりとこちらへ振り返り歩き出すグレイス。そんな迂闊に背中見せて大丈夫なのか、と思いゼ・ガロンを見ると既に明らかな変化が現れていた。まるで痙攣するようにピクピクと小刻みに動いて、口の端からは泡が零れる。


「……何を食べさせたの?」

「サンダー痺れ芋だ」


 ああ、あの生で食べると痺れるって言ってた芋ですか。中型の魔物でも暫く動けなくなると聞いたけど、やっぱり魔物に使う事もあるんですね。むしろ一応食用にもなるけど、基本的に魔物に使うのがメインの芋なのではあるまいか。


「でも暫くしたら動けるようになっちゃうんじゃ……?」

「コイツは痺れも効くが、雷属性が更に良く効く。これで三日は動けないだろう。その間に捕食者が勝手に片付けてくれる」

「うわぁ……何だか可哀想ですねぇ……」


 勿論、本気で可哀想だとは思わないけど。簡単な対処法で撃退出来るけど、痺れ芋を持って無かったら結構倒すのが大変そうな魔物だ。いや魔魚? 魔蛙? うん、どうでもいいからお昼ごはんにしよう。

 


声に出して読みたい芋No.1のサンダー痺れ芋大活躍。次回は釣り後編。

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