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JC異世界冒険譚 〜魔王とわたしと暗殺者〜   作者: ぽん之助
第一部 わたしと異世界の人々
13/117

帰路


「本当にここまで良いのか? 危ないからもう少し一緒に行っても良いんだぞ?」

「大丈夫だってば、もし魔物が出てもおじいちゃんの御守りでどかーん! ってやっつけちゃうから」


 心配そうな表情で見送るシェイドに手を振りながら別れ、一人で帰路に就く。最初はただの防具バカかと思ったけど、意外と良い奴だったな。これからも街に来た時はからかってあげよう。ふふふ。



 少し日が傾き始め、夕暮れ時に差し掛かった街の外の道は、思いの外風が強くて少し肌寒さを覚える。この調子だと、日が沈んでしまったらかなり冷えそうだなと思い出来るだけ早足で歩いて行く。


 でも、レフィアを轢いたあの馬車は許せない。一瞬の出来事だったからしっかり見た訳ではないけど、下町の人が使う馬車や商人の荷馬車とは違う、綺麗で装飾のある物だった。その装飾の中には紋章のような物もあったのをを思い出す。

 あんな馬車に乗るくらいなのだから、やはり街の中心部に住んでると言う上流階級の人間だろうか。だとしたら犯人を捕まえる事も難しいなる可能性が高い。

 それどころか支配階級である貴族が平民を傷付けたとしても、何の罪にならない可能性すらあるだろう。逆に飛び出して来た平民が悪い。馬車が汚れたから償え、と言う事態になったら最悪だ。


「天音様、この辺りまで来たらもう大きくなっても大丈夫ですね」


 今日の出来事を思い返し、悶々としながら歩いていると、わたしに抱えられたツバキが語り掛けてきた。街が完全に見えなくなり、人に目撃される心配の無い森の中の道はツバキが人間モードになってお供してくれる事になっている。これなら急に魔物が飛び出してきても安心だし、道に迷って遭難する心配も無い。


 街から随分離れ、人気の無い場所まで来たので大丈夫だと思いながらも、一応周辺に人が居ないかキョロキョロと見回す。誰も居ない事を確認してから、抱きかかえていたツバキをそっと地面に降ろした。


 シュバッと一瞬の光と共に人間モードに移行するツバキ。何度見ても見事なマジックショーにしか見えない。と言うか慣れない。ほんの一ヶ月くらい前ならば、アニメか映画でしか有り得ない光景だったのだから仕方ない事だと思う。


「今日の事グレイスさんに話した方が良いよねぇ……?」


 まだ完全に日が沈んだ訳ではないけれど、背の高い木々が影を作って道を隠し、足元に気を付けて歩かなければ転んでしまいそうだ。


「そうですね。ちゃんとお話して、一緒に叱られましょう」

「え?」


 ツバキの返事が予想外の言葉だったので、わたしは思わず素っ頓狂な反応をしてしまった。ええっと、わたし達叱られるの? 何か悪い事しちゃった?


「わ、わたしって叱られるような事したかな……?」

「そうですね、あの治療薬を街の人に使った事は、恐らく謝らないとなりませんね」

「そうなの? 怪我した子供助けない方がよっぽど悪い事じゃない?」


 グレイスはわたしみたいな不審者だって助けてくれたんだから、同じ場面に遭遇したらあの子を助けるはずだ。褒められる事はあっても、叱られるような事では無いと思いたい。


「いえ、助けた事は特に問題は無いでしょう。けれどグレイス様の作られた薬が酷い味なのは、きっと街の人達が治療薬に慣れてしまわないようにしているのだと……」

「え、アレわざと不味くしてるの……?」


 言われてみればあの実にやっべぇ味が自然に出来上がる訳が無い。意図的にトラウマレベルの味に仕上げていると考える方が自然ではある。


「つまり飲みやすい薬だと、ちょっとした怪我や病気で薬に頼るようになってしまうから、そうならないように敢えて激マズにしてる、と……」

「あのような薬はある程度上級の貴族がお抱えの宮廷魔術師に作らせる物で、平民が手に入れる事は無い物ですから」


 確かにあれ程に高い効果の薬が、普通の薬草だけで作られているとは思えない。おそらく調合する時に何かしらの魔術や魔石、魔力を使ってるだろう。

 そうなると普通の人にはとても作れる代物ではない。お金や人材を保有する貴族だけが手にする事の出来る様な珍しい物になる。


 それ程貴重な物が平民達の中で当たり前の存在にならないようにグレイスは考えていたんだと思うと、わたしの行動は迂闊だったかもしれない。

 ……でも提案したのはツバキだから、わたしの方が罪は軽いのではあるまいか。いや、関係無いか。


「うう、叱られると分かったら足取りが重い……」

「早く帰らないと真っ暗になってしまいますよ」

「わかったよぅ……」


 そんなやり取りをしているうちに、家まで後三十分程の所まで来た。けれど太陽は完全に姿を隠してしまった。空の片隅には僅かな明るさが残るものの、木々に囲まれた森の道は真っ暗になっている。

 鞄から取り出して起動した照明の魔宝具が周囲を照らすが、風に揺られてザワザワと音を立てる暗い森は薄気味悪いと言うか、簡単に言うと怖い。

 なので休憩時間も短めにして、なるべく早く帰ろうと出来る限り早く歩く。


 不意に、隣を歩いていたツバキが立ち止まり、わたしに目配せをする。真剣な表情に何が言いたいのかすぐに理解出来た。

 ……照明の光が届かない草木の影に何か居る。魔物だろうか?


 ツバキが両手を構え、そこに魔力を具現化して創り出した大剣を握る。わたしも左腕のボウガンに右手で触れて折り畳み状態を解除し、その後安全装置も解除する。一本目の矢は最初から装填済みだ。ゆっくりと目を凝らして草木の影を注視し、先手を取られないように警戒する。


「ま、魔物かな?」


 小声でツバキに尋ねる。少し声が震えるけれど仕方が無い。この世界に来てまだ一度しかこんな経験した事がないんだから。


「いえ、人間です」

 

 ツバキが答えるのと同時にガサガサと、木々の影から何人かの男がわたし達を囲む様に次々と姿を現した。


「よう、お嬢さん達。死にたくなかったら金目の物を全部寄越しな」


 薄汚れた服装に所々破れたマント。わたしがイメージする盗賊そのままの格好をした男達はニヤニヤしなからテンプレのような台詞を吐く。

 ゲームなんかではよく見掛ける、絵に描いたようなシーン。だけどこれはゲームや漫画の中の出来事ではなく現実だ。彼らは決して雑魚キャラなどでは無く、各々が手にする剣や斧は本物だ。わたしなんて一撃で絶命しかねない。魔宝具の照明を反射して光る切先を見るだけで、恐怖が身体中を駆け巡る。


「大丈夫ですよ、天音様。ここは私に任せて下さい」


 ツバキがわたしを庇うように一歩前に出る。


「何だ? 抵抗するのか? まあいい、お前は売れば高い値が付きそうだから殺したくないがな」


 わたし達を囲い込み、にじり寄る男達を数える。全部で六人。それぞれが持っている武器は長剣と短剣、それに斧。

 弓矢やボウガンのような遠距離攻撃が出来る武器は持ってない。これならわたしでもボウガンで牽制くらいは出来るはず。


「……ツバキ、出来れば殺さない程度にお願い」

「……畏まりました」


 いくら盗賊とは言え、目の前で人が斬られて死んでいくのを見たくないし、それ以上にツバキが人を殺す所を見たくないと思ったのだ。わたしは小声でツバキにお願いし、ツバキも小さく頷いてそれに答えてくれた。


「怪我したくなかったらさっさと逃げた方が良いですよ?」


 精一杯の虚勢を張り言葉を放つが当然効果など無く、男達はニヤニヤしながら徐々に距離を詰めてくる。こうなったらやるしかない。覚悟を決めたわたしはツバキの後ろでボウガンを構える。


「死ねやぁ!」


 男が一人、ツバキに斬りかかる。瞬間、ツバキは流れる様に身を屈めると、そのまま盗賊の懐へと一歩踏み込み、振るった大剣で盗賊の身体を吹き飛ばした。


 ……今、両刃の大剣の平たい所でバチーン!!って殴ったよね……? いや、確かに両刃じゃ峰打ちとか出来ないけどさ、凄い音がしましたよ?


「こ、この野郎!」


 激昂した山賊が三人、ツバキににじり寄る。ツバキなら三人相手でも大丈夫だろう。残る二人と対峙しているわたしの方が問題だ。

 戦闘経験なんて皆無なのに大人の男、しかも盗賊二人を相手に戦うなんて無理に決まっている。

 心拍数が跳ね上がる。恐怖で心臓が飛び出しそうだ。腕も脚もガクガクと震えている。


 ……でもこんな所で死にたくない。だってわたしは生きてあの世界に帰るんだから……!


 左腕のボウガンを構えたまま、前方に立ち塞がる二人の盗賊を睨み付ける。空は残っていた僅かな明るさも消え、照明の魔宝具の明かりだけが周囲を照らし出している。


 後ろから弾けるような音と男が呻く声が聴こえた、ツバキが一人倒したのだろう。同時にわたしの目の前の盗賊の一人が動いた……! すかさず左腕をそちらに向けて矢を放つ。矢は風を切るように真っ直ぐ飛び、盗賊の左腕を掠めて奥の木に突き刺さった。


 ……ちょ、ちょっとここで外すとかマジですかわたし!?


 焦るわたしなどお構いなしに、盗賊は右手に持った長剣を振りかざしながら距離を詰め、あっという間に目の前まで迫る。

 長剣が振り下ろされる前に矢を装填したり、腰のベルトから魔宝具のナイフを引き抜いて構えるなんて不可能だ。こうなったら一か八か、全力で回避するしかない!


 盗賊がその長剣を振り下ろすと同時に、わたしは両足にありったけの力を込めて地面を蹴り、横に飛んだ……! 空を切った剣はそのままの勢いで大地に突き刺さる。


 着地の事など考えず思いっ切り横に飛んだわたしは、そのまま地面に落ちて、ごろんと転がる。ぶつけた肩や腕に鈍い痛みが走る。

 でも痛がっている暇は無い。最速で反撃しなければならないのだ。次の一撃も躱せるとは限らない。

 思いっ切り飛んで離れたつもりだったけれど、わたしの体格では僅かな距離しか取れなかった。この間合いでは、もうボウガンは使えない。矢を装填する時間も無いし、出来たとしても躱される可能性が高い。


 なら魔宝具のナイフを使うべきだ。ナイフをベルトから抜き出そうと柄を握った瞬間、後ろから物凄い力で首を絞められ、身体が宙に浮いた。

 地面に落とした照明の光が、目の前に突き付けられた短剣の刃を照らし出して、もう一人の盗賊に捕まったのだと理解した。


「捕まえたぞぉ! おい! お前も抵抗するな! ガキを殺すぞ!」


 盗賊の声を聞き、こちらを見たツバキの動きが止まり、手にしていた大剣が霧散する様に消えた。

 武器を消して素手になったけれど、今までに見たことの無い表情で、眼には殺気が灯り戦意を失っていない事が分かる。マズい、ツバキならわたしが殺される前に全員真っ二つに出来るだろう。

 でも、わたしがしくじったせいで、ツバキがこの盗賊達を皆殺しにする光景なんて見たくない。


 何とかしようと足掻いて見ても全く抵抗出来ない。それどころか首を絞められていて殆ど呼吸が出来ない。意識を失ってはいけない。その前に何とかしなければ……!


「……金目の物が欲しいんだよね? これあげるから助けて……?」

「ああ? 今更何言ってんだこのガキ」


 狭くなった喉から、必死に声を絞り出して盗賊の気を引き、左手で握っていた魔宝具のナイフをベルトから引き抜いて見せた。


「こ、これ魔術師の作った魔宝具で、高く売れるんです……」

「これがか? 確かにこんな物見た事ねえな……」


 盗賊は目を凝らしてナイフを見定めている。チャンスは今しか無い。わたしが手にしている時にしか使えない奥の手なのだから。

 わたしはナイフに少しだけ魔力を通してその魔術回路を起動させた。


「ガブス・レイ」

「うわっ!? な、何だ!?」


 ナイフは真上を向いていて、飛び出した風の刃は当たらない。しかし、その現象を間近で見た盗賊は驚き、隙が出来る。それだけで充分なのだ。


 風の刃が空へと飛んで行った次の瞬間、ツバキが目にも留まらぬ速さで疾走り、わたしに突き付けられていた短剣を奪い取った。

 そして、そのまま盗賊の顔に渾身の一撃を見舞う。大剣を使わず、奪い取った短剣も使わなかったのが、わたしに返り血が付かない様にする為だと理解したのはもう少し後になってからだった。


 ツバキの流れるようなフォームからの、見事な右ストレートを顔面で受けた盗賊は後方へ吹き飛んで行き、地面に倒れ込む寸前のわたしの身体をツバキの右腕が支える。

 お礼を言おうとするも、ゴホゴホと咳き込んでしまい声にはならなかった。それでもツバキを見上げると、わたしを見る目に先程の殺意は無くなっていて、安堵しているのが分かった。


「クソッ!」


 最初に吹き飛ばされた盗賊が一人、ツバキと対峙して倒されたのが三人、わたしを人質にして吹き飛んだ一人。四人は既に倒れ意識を失っていて、残っている盗賊は二人だけになっていた。勝ち目が無いと悟った彼らが逃げようと背を向ける、が、それを逃すまいとツバキが追い掛ける。

 あっという間に距離は詰められて、最後の最後二人は順番に吹っ飛ばされて気絶したのだった。


「ありがとう、やっぱりツバキは強いね」

「いえ、最初から本気を出していれば天音様を危険な目にあわせずに済んだのですが……」


 そう言ってツバキは申し訳なさそうな表情を見せる。でも最初から本気を出されていたら、今頃この辺りは血の海になっていただろう。だから、これで良かったのだと思う。


「わたしが手加減してって頼んだんだから、そんな顔しないで良いんだよ。無事に何とかなったから結果オーライって事で!」


 そう言うと、ようやくツバキに何時もの優しい表情が戻った。終わり良ければ全て良し、なのだ。うん。



 ……で、そこら辺で気絶している盗賊達はどうしたものか。警察に引き渡したら良いのかな? 警察かあれば、だけど。


「ところで、この人達どうしようか? 悪い人を捕まえるような組織に引き渡したり出来るのかな?」

「そうですね、街の騎士団に引き渡しましょうか」


 おお、騎士団とか格好良い。あの街にも騎士が居るんだね、是非わたしも行って見たい。


「取り敢えず捕えて家まで連れて行きましょう。天音様は早くお休みになられた方が良いと思いますので。盗賊達はグレイス様か私が街の騎士団の所へ運びます」


 うん、確かに緊張と疲労で寝込むパターンだよね。騎士団が見たいからわたしも街に行きたいなんて言ったらどれだけ叱られるか分からないし、今回は諦めよう。何事も諦めが肝心なのだ。


「でも家に連れて行くって、どうやって……?」

「そうですね……では、こうしましょう」


 そう言うとツバキは森の木に巻き付いている植物の蔦を集め、手早く盗賊達をぐるぐる巻にしてしまった。なるほど、引き摺って行くんですね。分かりました。




 ……で、帰宅したわたし達を迎えてくれたのは、グレイスの呆れ顔だった。それも、今までで一番の呆れっぷりである。

 まあ、呆れるよね、わたしでも呆れるもん。仕方ないよね。


「帰りが遅いと思ったら、変わった物を拾って来たものだ。夕食にでも使うのか?」


 冷ややかな視線で、恐ろしい冗談を口にするグレイス。いやいやいや、こんなもん食えるかっての。冗談でも勘弁して下さい。


「帰り道にこの盗賊達に襲われまして……」


 叱られる覚悟はしているものの、やっぱり怖い。取り敢えず下手な言い訳はしないでおこう。これ以上叱られる要素を増やしたくないのだ。


「わざわざ生け捕りにしなくてもツバキなら十ニ秒もあれば皆殺しに出来ただろう?」


 何すかその具体的な数字は!? まあ確かに出来そうではありますけど! 皆殺しとか怖いからやめて下さい!


「確かにそうですが、天音様が無駄な殺生は避けるよう仰っしゃられたので」

「こんな連中生かしておいても碌な事にならんが……」

「だからって皆殺しは勘弁して下さいよ。取り敢えず、もう悪さ出来ないように騎士団に引き渡そうと思うんですけど……」


 うん、ツバキが十二秒殺しを否定しなかった事には触れないでおこう。そうしよう。


「まあ良いだろう、今から俺が引き渡して来る。お前は早く休んだほうが良いだろう」


 椅子から立ち上がり、出掛ける準備を始めるグレイス。


「面倒をお掛けしてごめんなさい……」

「気にするな、森に死体があったら魔物が寄って来るからな。案外これで良かったのかも知れん」


 準備を終え、外に出たグレイスは先日使ったリヤカーに盗賊達を適当に放り込むと、馬車を引く使い魔の馬に乗って、暗い森の中へ消えて行った。


 実は、グレイスを見送った後の事は良く覚えていない。翌日ツバキに教えてもらったのだけれど、緊張から解放されて、更に一日の疲れが一気に出たわたしは、グレイスが見えなくなった直後、気絶するように寝てしまったらしい。

 


 主人公はへっぽこだけど保護者がチート級の強さ。

 いや、天音さんも強くなる筈です。多分。ずっと先に。

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