まさかの出会い
再び立ち上がった俺は、まず妻に話した。
「夢を諦めかけていたけど、今後こそ俺はやるよ。心配かけてごめん」
妻は優しく言ってくれた。
「私にできることは、健一を信じてついていく事だけだよ。だから何も心配してないよ」
妻や親友の黒田、高校時代の監督、他にも多くの人に支えられて、今の俺がいる。
みんなを裏切るわけにはいかないんだ。
「監督、俺を一発ぶん殴って下さい。俺は、一緒に練習してくれる監督を裏切って、勝手に夢を諦めようとしていました。申し訳ありませんでした」
俺は深々と頭を下げた。そして、その後殴られた。まあまあ痛かった。
単純な俺にとっては、これが一番ありがたい。
「お前は、石頭だからこっちの手が痛いよ」
監督は、笑っていた。
「お前は、高校時代から変わらないな。俺は、そんなお前が大好きだ」
ありがとうございます、監督。
俺は、ボールを握って監督相手に投げ始めた。
直球のスピードは上がってきたが、これだけではダメだ。俺は変化球も投げることができるが、しょせんアマチュアレベルだった。
「前田、お前はフォークボール(落ちるボール)を磨け。お前のフォークボールは昔から凄かった。プロになるための勝負球にするんだ。他の変化球は後回しにしろ」
監督の助言により、俺は直球とフォークボールで夢を目指す事にした。
フォークボールは確かに俺の得意球だ。大学野球でも、この球はほとんど打たれていない。よし、やるぞ。
俺は、監督の指導を受けながら、ひたすら投げた。練習していると、脳腫瘍の不安も忘れていた。
もちろん、定期的な検査は欠かさず行った。
医師は、最初は野球をやる事に難色を示していたが、最近は変わってきた。
「前田さんには、ずっとビックリさせられていますよ。まさか、本気でプロ野球選手を目指しているとは思いませんでした。
ひたむきな姿を見ていると、あなたなら、腫瘍に負けず、本当にプロ野球選手になるかもしれないって思うようになりましたよ。
私たちも応援していますよ」
最初は、目が不自由になった親友を励ますために思わず、プロ野球選手になるって言ってしまっただけだった。
でも、そこから多くの人たちの熱い思いが繋がった。
その先の未来には何が待っているか楽しみだ。
仕事も疎かにできない。
俺は営業マンで毎日外回りで忙しい。ある得意先で、たまたま野球の話が出た。その人は昔、名門校の高校球児で甲子園にも出場経験があった。
「私は、高校生の頃はプロ野球選手になるのが夢でした。でも、ケガをして野球を諦めたんです。
チームメイトのAは、プロで活躍していますよ」
その人が言うAという選手は誰もが知る有名な選手だ。
得意先のお客様だけど、俺はこの人ともっと話がしたいと思った。
「僕も野球好きなんです。今度飲みに行きましょう」
俺は野球好きな人を見つけると、ほっておけないんだ。
一緒に飲んでみると、気が合うし、男気があって素晴らしい人だった。
俺は、内緒ですよって前置きしてから、プロ野球選手を目指している事を打ち明けた。
今までの道のりも話した。
その人は、真剣に俺の話を聞いてくれた。
「そうだったんですか。最初にお会いした時から熱い人だなって思っていましたが、前田さんだったら納得しました」
その人は、更に熱心に言葉を続けた。
「プロ野球選手を目指すキッカケや前田さんご自身の病気の事など全てを含めて、僕は感動しました!
絶対、プロ野球選手になって下さい。僕は前田さんの大ファンになりました」
やっぱり熱い俺は、熱い男と気が合うな。
その人は、俺をもっともっと驚かせた。
「僕の高校野球時代のチームメイトAがプロ野球選手になっている話をしましたよね。
もしよろしければ、会ってみませんか?」
えっ?これは幻聴なのか?
いや、違う。
「前田さんの話を聞いて、感動してしまったら、僕も何か少しでも役に立ちたくなりました。
Aは高校からずっと今でも友達なんです。
お会いすれば、前田さんには必ずプラスになると思います」
Aさんは、一軍で活躍しているエースピッチャーだ。
その背番号は、エースナンバー18番だ。




