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エースナンバー  作者: 砂糖
47/55

ワールドシリーズ制覇

俺は二軍戦で完封勝利を飾った。イップスに陥って以来、出口の見えないトンネルからなかなか抜け出せなかった。


久しぶりの一軍登録だ。俺は、黒田に伝えた。


「黒田よ、お前が河川敷で励ましてくれたおかげで、ようやく未来が見えてきたよ。次は、一軍の試合で先発のマウンドに上がれる事が決まったよ」


俺がイップスに苦しんでいた頃、目の不自由な黒田がボールの音を聞いてくれたんだ。


自分の投げるボールを信じられるようになったのは、黒田のおかげだった。


「それは良かった。俺は、お前の力を疑った事は一度もないよ。目が見えていた頃、お前とバッテリーを組んで、お前のボールを受け続けてきた俺をナメるなよ」

黒田は笑っていた。


「お前は、昔から真面目すぎるよ。上手くいかない時に考えすぎてしまうよな。いつも一生懸命だな」


「俺は、お前の姿に救われたんだ。目が不自由になっても生きられたのは、お前がいたからだ。だから、俺は決めたんだ」


「お前が巨人のエースナンバー18を背負えるようになるまで、俺は絶対に死なないってな」


黒田は、珍しく熱く語った。


俺はちょっと驚いた。

「今日のお前は熱いな。どうしたんだよ?」


黒田の熱さは変わらなかった。

「俺は、目がダメになって全てに絶望した。ずっと死に場所を探していたんだ」


黒田は、そこまで追い込まれていたのか……


「そんな時にお前がプロを目指す話を聞いて、最初は絶対に無理だと思っていたよ」


「俺が目のせいで、死にたくなった時に限ってお前が壁にぶち当たっていたよ。途方も無い夢への壁で苦しむお前を置いて行くワケにはいかないだろ」


黒田の口調は、真剣そのものだ。俺だって、親友の熱い思いに応える。


「バカヤロー! お前は、俺を応援する義務があるんだ。俺の夢はまだまだ途中だぞ。まだ背番号38だし、たとえ18番を背負えても、終わらないぞ!」


黒田は楽しそうに、

「エースナンバー18より大きな夢って何だよ?」


俺はデカイ声で、

「ワールドシリーズ制覇だ!」


言ってしまった……


またしても、黒田の挑発に乗せられて大口を叩いてしまった。


黒田は満足そうに、

「それでこそ前田だな。お前がワールドシリーズのマウンドに立つ日まで、俺も希望を捨てずに生き続けるよ」


大いなる野望への幕開けだ。

ワールドシリーズの舞台に黒田を連れて行くんだ。

あっ、忘れてた。もちろん妻もね。


DeNAの香山も連絡くれた。

「前田、二軍戦で完封したらしいな。もうお前は、イップスじゃない。早く俺と勝負しろ」


香山と俺は、かつて同じ時期にケガをして一緒にリハビリをやっていた事もある。


香山は、ケガから復帰して今では一軍でレギュラーを張っている強肩強打のキャッチャーだ。俺とは気が合ってライバルとして意識していた。


俺は嬉しくなって、

「おう、俺の火の玉ストレートとお化けフォークを食らわせるから待っていろよ!」


高橋由伸監督から言われた。

「前田、来週のDeNA戦はお前でいくぞ。俺をビックリさせてくれよ、頼むぞ」


監督は俺に期待してくれている。

俺は、もうイップスじゃないんだ。気負わずに、ボールの音を聞きながら投げれば大丈夫のはずだ。


「ピッチャーは前田、背番号38」

東京ドームにアナウンスが響いた。


お客さんから歓声が上がる。有難いな。おかえり前田投手、と書かれたボードを持っている人もいた。


俺なんかの為に応援してくれる人がいる。ぜひとも復活した姿を見せたい。


とにかくストライク先行が大事だ。ファーボールを出してしまうと、気持ちが動揺する。イップスを完全に克服できたワケじゃないんだ。


人間の気持ちなんて脆いもんだ。ちょっとした事で不安定になってしまう。俺はギリギリの所で自分を保っていた。


イップスを抜け出す為に、有効だったのがチェンジアップだった。この球種で打者のタイミングを外せるようになった事で、ピッチングの幅が広がって、精神的にもラクになれた。


困ったら直球では、打者に読まれるし、気持ちも追い込まれてしまった。


初回から、チェンジアップを使って攻めた。以前は、直球中心の配球でチェンジアップはあまり使わなかったから、打者は驚いている様子だ。


決め球のフォークボールもよく落ちている。今日はやれるぞ! 自分に対する期待が膨らんできた。


香山との対戦も楽しみだ。

香山は、ドカベンの異名を持っており、ファンからも大人気の選手だ。DeNAは、侍ジャパンの4番筒田、去年セリーグの首位打者宮沢、そしてドカベン香山とリーグ随一の破壊力を誇る。


二回には、その3人との対戦だ。


筒田選手に対しては、決め球のフォークボールを連投する。しかし、この打者にはインコースにも飛び込まないと抑えられない。


深呼吸して、自分に言い聞かせる。

「筒田選手を見るな。自分に集中して、投げるボールの音を聞くんだ」


キャッチャーのサインに頷いて、足を上げる。この時に、イケる感覚があった。


俺は、筒田選手のインコースに魂をぶつけた!


筒田選手は、ステップしてバットを出す。ヤバい、筒田選手のタイミングは合っているようだ。


ボールがバットに当たる瞬間にホップしたように見えた!

筒田選手を空振り三振に仕留めた。


東京ドームにどよめきが起こる。


かつて、テレビで見た阪神の投手が投げていたストレートに憧れていた。


俺が筒田選手に投げたボールは、まさにかつて俺が憧れた、火の玉ストレートだった!

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