表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エースナンバー  作者: 砂糖
42/55

流した涙の分だけ強くなる

俺は、広島戦で初の完投勝利を飾った。143球の熱投だ。


心配していた肘の痛みもなかった。まだ完全復活かどうか分からないが、大きな自信になった。とりあえず、しっかり体のケアをして次に備えよう。


トミージョン手術からの復帰ということもあって、一旦、一軍登録を抹消された。再登録は10日後になる。


この期間は、あまり肘に負担をかけない為に、走り込みを重点的にトレーニングする事にした。昔は、長い距離を走るのは嫌だったが、今では下半身強化をとても大事にしている。でも、やっぱり走るとシンドイけどね……


10日後、俺は再登録された。

今度の相手は、DeNA戦だ。DeNAには、俺のライバル香山がいる。


同じ時期にケガをして、一緒にリハビリをやったり励まし合った。香山はキャッチャーで俺とはポジションもチームも違うが、お互い刺激を受けていた。


香山は、ドカベンの異名を持つ選手で、凄いパワーの持ち主だ。さらに、DeNAには侍ジャパンの四番打者の筒田選手や去年のセリーグ首位打者の宮沢選手もいる。


初回、いきなり香山との対戦だ。香山は、既に一軍でクリーアップの一角である三番打者を任されるほどの実績を残していた。


俺は、ライバルを前にして、欲が出てしまった。前の広島戦で完投していたこともあって、調子に乗っていたのかもしれない。直球でカッコ良く三振を取りにいった。


初球から、インコースの直球を投げる。きっと、香山は打てないはずだ。この油断が俺の指先を僅かに狂わせた。


コースは甘く、そして高めに投げてしまった。ハマのドカベンが見逃すはずがなかった。


香山が芯で捉えた打球が夜空に上がった。打った瞬間それと分かる一打だった。俺はボールの行方を見たくないが、何故か見てしまう。


打球は、ライトスタンドを超えていく。横浜スタジアム名物の場外ホームランだ……


キャッチャーがマウンドに来て、

「すまん前田、俺が変化球のサインを出すべきだった。お前は悪くないから、気を取り直していけよ」

俺がコントロールミスしたせいなのに、庇ってくれた。


申し訳ありません、もう調子に乗りません。

次の筒田選手は細心の注意を払って、俺の決め球フォークボールでセカンドゴロに抑えた。


今日は、コントロールに苦しんだ。直球は走っているが、狙ったコースにいかない。ファーボールが多くてピンチの連続だ。球数も増える。帽子から汗が滴り落ちる。


回の間にベンチに戻ると、めまいがした。今日は体調も良くない。まだ5回が終わったばかりなのに。


高橋由伸が、大丈夫か?と聞いてこられた。ここで、正直に言ったら交代させられる。俺は、ウソをついた。

「アンダーシャツ替えて、シャキッとしたら大丈夫です」


今日の体調では、球数を多く投げるともたない。なるべく早く、打者を追い込みたい。

しかし、その意識が強くなると、自然と早くストライクを欲しくなる。


ストライク近辺に投げると、DeNAの強力打線を抑えられない。しかし、ファーボールも出したくない。


完全に悪循環に陥った。気持ちは不安定になって、汗が滝のように流れた。


6回、ツーアウト一、二塁でハマのドカベンが打席に入った。一打席目の時は、甘い直球を打たれていたので、今度こそ抑えなくてはならない。


俺は必死に投げて、フルカウントになった。ここで、キャッチャーのサインはフォークボールだ。俺は大きく頷いた。


しかし、俺の体力は限界だった。ボールをしっかり挟んで投げる握力は残っていなかった……


抜けたフォークボールが打ちごろのコースにいった。もちろん、香山は許してくれるはずはなかった。


高々と上がったボールがバックスクリーンに飛び込んだ。スリーランホームランになってしまった……


香山に2本目のホームランを打たれたところで、俺はノックアウトだ。


疲労と汗で、ぐちゃぐちゃの顔でベンチに下がった。頭からタオルを被って動けなくなった。自分の不甲斐なさで涙が出る。


高橋由伸監督が横に座って、

「流した涙の分だけ、お前は強くなれる。今は悔しさを噛み締めろ。それを絶対に忘れるな」


監督は、いつも優しくてカッコ良すぎるよ。今日はボール球が多くて、怒られても仕方ない内容なのに……


この試合で見つかった課題は、調子が悪い時にどう対処するかだ。俺はまだ目の前の打者に必死で、困った時の引き出しが少ない。


調子が悪い時でも、それなりの投球ができないとダメだ。

元気なうちは、フォークボールに自信を持っているが、握力が落ちてくるとフォークが信用できなくなる。スライダーやチェンジアップをうまく使う事を勉強しなくとはいけない。


まだまだ、一進一退のプロ野球生活だ。でも、目標は変わらない。エースナンバー18を背負うピッチャーに必ずなってやるぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=334193511&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ