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エースナンバー  作者: 砂糖
39/55

始球式

俺は、球団にお願いして、親友黒田が東京ドームで始球式をする事になった。

俺は、すぐに黒田に連絡した。

「おい、黒田。お前は東京ドームで始球式をやる事が決まったぞ」


黒田は、ビックリして固まっていた。

「嘘だろ? この前の話は本当だったのか? お前が頼んでくれたのか?」


俺は、得意気に話した。

「俺は、スターだからな。俺が頼めば球団も簡単にオッケーさ」


黒田は、強い口調で、

「東京ドームの始球式なんて、簡単にやらせてもらえるはずないだろ。お前、かなり無理をしてくれたんだろ?」


「余計な事をしやがって、お前は昔からずっと変わらないな」

黒田の瞳からは、涙が流れていた。


「バカヤロー! お前はトミージョン手術から2年ぶりに復活して、今は大事な時期だろ。俺になんか構うな!」


黒田の言葉を、俺は黙って聞いていた。


黒田が涙を流すのは珍しい。でも、今日の黒田は涙を止めようとしなかった。


「俺は、確かに昔は目も見えたし、強肩キャッチャーとして有名だった。だけど、今はヘッポコだぞ。良いんだな?」


黒田に笑顔が出てきた。俺も嬉しくなった。

「黒田よ、始球式の時にはお前が投げるボールを俺がキャッチャーとして受ける事になっているんだ。だから、安心して投げろ」


黒田とは、幼い頃からバッテリーを組んできた。俺がピッチャーで黒田がキャッチャーだった。今度の始球式では、逆になる。


黒田の声は明るくなった。

「ありがとう、前田。俺だって、子どもの頃はプロ野球選手になるのが夢だった。だから、東京ドームのマウンドに立てるなんて、夢が叶ったみたいだ」


「お前の事だから、多分、球団に土下座とかしてくれたんじゃないのか?」


やっぱり、黒田は鋭いヤツだ。


俺は、嘘をついた。

「バカな事言うな。誰がお前のためなんかに土下座するかよ」

本当は、土下座したけど……


黒田の涙はようやく止まって、

「お前は嘘がヘタなヤツだよな。とにかく、お前に恥をかかせないように、俺もしっかり練習して肩を作っておくよ。本当にありがとう」


俺は、広島戦がますます楽しみになってきた!


当日、黒田は緊張している様子だった。

始球式の前に、高橋由伸監督が声をかけてくれた。

「黒田さん、巨人の高橋由伸です。貴方の事は、前田選手から聞いていますよ。今日はマウンドで貴方の生き様を見せて下さい。ナイスボール期待しています」


監督から声を掛けられて、黒田はとても嬉しそうだ。

「はい! ありがとうございます。頑張ります!」


黒田は、目が不自由なので、俺がマウンドに連れて行って、プレートの位置やキャッチャー方向を教えて、俺はキャッチャーの場所に座った。


東京ドームは、静寂に包まれていた。球場全体が、黒田を見守っている。


黒田は、ゆっくりと投球動作に入った。昔と変わらない、美しいフォームだ。黒田は、キャッチャーだったが、相手が盗塁した時のスローイングはまさに芸術品だった。


黒田が投げたボールが俺の構えたミットに吸い込まれた。なんと、ストライクだった。広島カープの一番バッターは驚いていた。


東京ドームは、大歓声が沸き起こった。黒田は、少し恥ずかしそうに笑った。

俺は、マウンドの黒田に近づいて声を掛けた。

「ナイスピッチング、アウトコースいっぱいのストライクだったぞ!」


黒田は、汗を拭いながら充実感に溢れていた。

「練習したのさ。この機会をくれて、本当にありがとう。一生の思い出になるよ」


黒田は、マウンドで男気を見せてくれた。

次は、俺が試合のマウンドで魅せる番だ。俺は、いつも以上に気合を入れた。


相手の広島カープの先発投手は、エースの山田さんだ。

山田さんとは、俺が会社員だった頃から何かとお世話になっていた。プロ野球選手を目指していた俺を励ましてくれた。


俺の所属していたチームは、草野球並みのチームだった。だから、社会人最高峰の大会の時、山田さんの紹介で補強選手として強豪チームに参加させてもらった事もあった。


プロ入り後も、一緒に自主トレーニングを行った事もあり、人としても尊敬しているピッチャーだ。


俺が、巨人に入団が決まった時は、いつか東京ドームの一軍のマウンドで投げ合おうと約束していた。

ついにその日がやって来たんだ。


広島ベンチの方を見ると、山田さんがキャッチボールをしていた。

実績では、山田さんの方が遥かに上だ。しかし、やるからには負けたくない!


俺は、先発のマウンドに上がって、いつも以上に入念におまじないをした。マウンドの土にマル書いてチョンだ。


広島カープは、特に上位打線の繋がりに注意だ。慎重に慎重を重ねてスタートした。

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