表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エースナンバー  作者: 砂糖
38/55

エースのピッチング

トミージョン手術から復帰して、一軍初先発は負け投手に終わったが、手ごたえは確かにあった。


なんとか、プロ野球選手としてやっていけるかもしれない。


2年前、肘の靱帯を断裂した時は絶望しかけていたが、少しだけ希望が見えてきた。今年こそは、一軍で結果を残したい。


DeNA戦の登板後、肘や肩の張りも少なく他の部分も大丈夫そうだ。


今日は、ナイターで菅山投手が広島カープ相手に予告先発になっている。俺は、次の登板は広島戦が予定されていることもあって、今日のベンチ入りメンバーに登録されている。ベンチから、しっかり勉強だ。


今年も広島カープはとにかく強い。特に打線が強力だ。四番、鈴田誠也選手を中心として、どこからでも点が取れる。足も速い選手が多い。


とても、厄介な相手だ。

巨人のエース、菅山投手はどう抑えるのか注目だ。菅山投手も前回、ヤクルトを完封しており絶好調だ。


試合前の菅山投手は、近寄りがたいほどのオーラがあった。流石はエースだな、この一戦に賭ける思いがひしひし伝わる。


俺は、試合前に菅山投手のキャッチボールの相手をした。相変わらず、速く重いボールがズドンと来る。そして、ほとんどグローブを動かす必要がないほどのコントロールだ。


超一流投手は、キャッチボールする時でも一球たりとも疎かにしていないのが分かる。


「菅山、頑張れ!」

俺は、キャッチボールの最後の一球を返す時に激励した。

その時だけ、菅山投手に笑顔が見えた。

「前田さんは、次は広島戦ですよね?僕がしっかりカープを料理してきますよ」


一回にいきなり、菅山投手はピンチを背負う。2本のヒットとファーボールでワンアウト満塁、迎える打者は、四番鈴田誠也選手だ。


ここで菅山投手のギアが一段上がったのが、ベンチからも分かった。顔の表情も変わった。普段は優しい男だか、鬼の形相になった。


150キロの直球で追い込んで、鈴田誠也選手の表情も一層引き締まってきた。


菅山投手対鈴田誠也選手、これはまさに、間もなく終わる平成の最後の名勝負と言えるだろう。


菅山投手は、勝負球に何を選ぶだろう?この一球は、試合の行方を占う一球になるだろう。


菅山投手が投げたのは、スライダーだった。内野ゴロダブルプレーを狙っているのだろう。


キレのいいボールが菅山投手の腕から放たれた。

鈴田誠也選手は、引っ掛けてサードゴロダブルプレーに終わった!


狙ってダブルプレーを取れる菅山投手は流石だな。


「ナイスピッチング!」

俺は、ベンチに戻ってきた菅山投手に声をかけた。


菅山投手は、ハイタッチしながらも、

「一回から満塁にしたらダメっす」

菅山投手に笑顔はなかった。


俺なら、とにかくゼロに抑える事で必死なのに、この男と俺のレベルの違いを改めて痛感させられる。


チームは、広島カープの先発投手を捉えて5点を奪う。

優位に試合を進めていた。菅山投手も、尻上がりに調子が出てきた。


終盤にピンチを迎えたが、ここでもヘキドレッド選手を三振に仕留めた、ヘキドレッド選手は、バットとヘルメットを放り投げて悔しがっていた。


結局、菅山投手は8回まで投げて勝ち投手になった。


この試合の菅山投手を見ていて、一番感心したのは、ピンチを迎えた時の集中力だ。ギアを時には二段ぐらい上げて全力で立ち向かう姿だ。


俺は目の前の打者に必死なのに、菅山投手は試合展開を頭に入れたピッチングができる。いつか俺もああいう風になりたい。


間近でエースのピッチングを勉強できて大きな刺激になった。

次は俺が広島カープと対戦だ!


久しぶりに親友黒田と食事した。黒田は、大人になってから目が不自由になったが、最近になってますます悪化しているらしい。


前までは、わずかに見えていたが、今は光を感じるぐらいしかできないらしい。黒田は落ち込んでいた。

「前田よ、お前はいいなぁ。夢を実現しようとしているよなぁ。俺は、もうダメかもしれない」


黒田は、これまでは目の障害に負けずに心理カウンセラーとして前向きに生きてきた。


俺が、会社員をしながらプロ野球選手を目指したのは、黒田を励ますためだったが、途中から逆に俺が励まされていた。


それなのに、その黒田が苦しんでいる。


俺は、親友のために何ができるだろうか。

「黒田、お前は昔から俺の投げるボールの音を聞いて、俺の調子を測ってくれたじゃないか。また俺の音を聞いてくれよ」

俺は、黒田を励まそうとした。


黒田は力なく小さな声で言った。

「無理だよ……」


俺はある決意をした。

「俺がお前を東京ドームのマウンドに立たせてやる!」


黒田は驚いた。

「えっ?お前、何を言ってるんだ」


「俺が球団に頼んで、東京ドームの試合でお前が始球式に臨むんだ。お前は、目が見えていた頃は俺とバッテリーを組んでいたよな。お前は強肩キャッチャーだったじゃないか」


黒田は元気なく言う。

「そんな事は忘れたよ。東京ドームで俺が始球式なんて無理に決まっている」


俺は、絶対に諦めない。

翌日、球団社長をアポなしで訪ねて、土下座して頼んだ。

「お願いします。俺の人生の親友が苦しんでいます。励ますためにも、東京ドームの始球式マウンドに立たせたいのです」


社長は、真剣に聞いてくれた。

「お前が土下座するぐらいだから、よほど思い入れがある親友なんだな。よし、任しとけ!」


ありがとうございます、社長!


「その代わり、今年はしっかり働いてもらうぞ。頼んだぞ」


黒田は、次の東京ドームの試合で始球式のマウンドに上がる事になった。

その日は、広島カープ戦で巨人の予告先発は、背番号38。

この俺だ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=334193511&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ