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エースナンバー  作者: 砂糖
35/55

一軍初先発

俺は、開幕一軍のメンバーに登録された!


高橋由伸監督から言われた。

「前田、今年こそ頼むぞ。オープン戦のお前を見ていたら、今年に懸ける思いが伝わったよ」


「お前は、先発ローテーションの6番手を予定しているから、調整しておけよ」


監督は、クール表情ながらも熱く言ってくれた。


二年近くも、一軍で投げていない俺を先発ローテーションに入れてくれた。

由伸アニキ、俺は必ず恩返ししますぜ!


巨人の開幕ピッチャーは、菅山投手だ。この投手は、凄いの一言だ。多彩な球種を持っている上に、全てのボールのレベルが高い。どの球種でもストライクが取れるし、全部勝負球にできるほどキレがある。


でも、気さくで良いヤツなんだ。

「前田さん、俺、開幕戦は必ず勝ちますから、完封(相手を0点に抑える)したらメシ奢ってくださいよ」


年俸は、俺よりも菅山投手の方がはるかに高いのだが……


菅山投手は、口だけの男じゃなかった。ヤクルト相手に、本当に完封勝利を飾った。改めて、スゲェピッチャーだ。俺よりも年下だが、見習う事が多い。


広島カープの山田さんもそうだが、菅山投手もホンモノの超一流選手のオーラ満載だ。


俺は、約束を守らないといけない。

「菅山、開幕戦の完封勝利おめでとう。約束どおりメシを奢るよ」


菅山投手は、細い目をさらに細めて笑った。

「前田さん、じゃあビール一杯だけお願いします」


えっ?何故だ?


「俺は、前田さんがトミージョン手術から帰ってくる事をずっと待っていたんです。前田さんの生き様を尊敬しています」


「俺だけ勝っても嬉しさ半分です。だから、前田さんが一軍で復活してから一緒にメシをお願いしたいです」


セリーグのエース菅山投手は、男の中の男だ。カッコいいぜ!


巨人は、5試合を終わって3勝2敗だ。俺は、6試合目の先発投手を告げられている。前日に、予告先発で俺の名前が新聞に出た。


以前に一軍にいた時は、中継ぎばかりだったので一軍初先発になる。


妻は、前夜はカツ丼で激励してくれた。ありがとう、美味かったよ!


「健一、明日これを着用しなよ」


妻は、真っ赤なパンツ を用意してくれた。目がチカチカするパンツだ。


「健一の勝負パンツは前から決めていたよ。結構高いパンツだよ」


ありがたい、赤いパンツを履いて闘志を燃やすぞ。


前夜は早めに布団に入ったが眠れなかった。ここまで来れた嬉しさと明日の緊張感で頭がパンクしそうだ。

結局、一睡もできなかった。


妻は、隣で俺が眠れない事に気付いていたのだろうか。一晩中、俺の手をギュッと握ってくれた。

妻の優しさがたまらなかった。


無謀な俺に付き合ってくれる女性は、世界中でも妻だけだろう。妻が握ってくれた手からメッセージが聞こえてきた。


「ア、イ、シ、テ、ル」

確かに聞こえた。


その直後、隣から豪快なイビキが聞こえてきた……


試合の日の朝は、納豆を食べてゲン担ぎだ。ピンチでも粘っこく投げられるように。


相手は、DeNAだ。スタメンの中に香山の名前があった。

筒田選手をはじめ強打者が並んでいる。相手の名前を見ていると負けてしまう。

とにかく、1人ずつだ。先の事は考えず、目の前の打者に集中するんだ。


試合が始まって、俺はマウンドに上がる。一軍の、まっさらのマウンドを味わう余裕はなかった。

緊張しすぎて、歩いた感覚が全くしない。


俺は、マウンドに上がってから、おまじないをした。マウンドの土に、指でマルを書いた。


試合が始まった。キャッチャーとの打ち合わせで、最初の5球は、とにかく腕を振って直球を投げる。細かいコースは狙わない。


俺は、無我夢中で初球を投げた。

ストライク! 打者は見送ったが、審判の手が上がった。


この一球が大きかった。

死後の世界からこの世に蘇ったような気がした。俺は息を吹き返した。


そしてツーアウトを取れたので、次の打者には変化球を投げる気持ちになれた。

俺は、フォークボールが通用しないと一軍で生き残れない。


サインは全てキャッチャーに任せて俺は首を振らないつもりだ。というよりも、組み立てを考える余裕はなかった。


追い込んでから、ボールを見極められてフルカウントになった。ここで、フォークボールのサインが出た。俺は、グローブの中で、人差し指と中指でボールを深く挟んだ。大きくボールを落として、空振り三振を狙う。


まだ緊張は続いているが、とにかく腕をしっかり振って勝負球を投げる。


打者のバットが空を切った。よく落ちたフォークボールを振ってくれた。一回を三者凡退に抑えた。


俺は、興奮して高校球児のようにダッシュでベンチに戻った。ベンチでみんながハイタッチをしてくれた。


子どもの頃から今まで野球をやってきて、一番嬉しい瞬間だった。


やっぱり、真っ赤な勝負パンツのおかげだな。


ベンチに座ってからも、キャッチャーと打ち合わせをして分析をしっかりやった。次の回に向けて準備を怠ってはならない。


何気なくバッグからタオルを取り出すと、そこには妻の縫い付けてくれた文字があった。


「ケンイチ、daisuki」

ローマ字読みすると、恥ずかしいけど、めっちゃ嬉しかった。

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