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エースナンバー  作者: 砂糖
34/55

虹の橋

トミージョン手術を受けてから、一年半が経った。ようやく、二軍の試合で投げる事ができた。しかも、勝ち投手になれた。


しかし、まだ以前のようなボールが投げられたワケじゃない。さらに、投球フォームをスリークォーターに変更したので、これをしっかりモノにしないといけない。


焦る気持ちにブレーキをかけながら、着実に前に進む。無理をして、再び肘を痛めたら、今後はプロ野球人生が終わってしまう。


以前のサイドスローの時は、ほぼ直球とスライダーばかりで、たまにカーブを投げる程度だった。


スリークォーターに変更してから、昔投げていたフォークボールをまた投げるようになった。さらにチェンジアップとカーブも多く投げるようになった。


俺は、肘のケガをキッカケにしてモデルチェンジを図った。平成の大エース、斎藤雅樹さんから桑田さんにチェンジだ。


むふふ、勝手に俺と大先輩を重ね合わせている。


それから、何試合か二軍で投げる機会をもらえた。肘をケガするまでは、中継ぎ登板が多かったが、復帰後は先発投手を任されるようになった。


試合が始まって、まっさらな状態のマウンドに上がるのは気持ちが良いな。


徐々にスリークォーターにも慣れてきて、直球のスピードも上がってきた。何よりも、肘を気にしなくていいのが最高だ。


この一年半は、ずっと肘を気にしながら生活していた。思えば、最初は箸を持つことさえ難しかった。再びボールを投げる俺を想像できなかった。


先発投手として、まっさらなマウンドに上がると、辛かった日々を忘れる事ができる。


試合で投げられるようになったのはシーズン終盤だったので、俺はそのまま二軍でシーズンを終えた。これで、二年近く一軍のマウンドから遠ざかっていた。


来年こそ本当に勝負の一年だ。来年に一軍の戦力になれなかったら、俺の居場所はなくなるだろう。


DeNAの香山は、俺よりも先に一軍に上がっていた。一軍で存在感を見せており、期待のホープとして注目されていた。ホームランも自己新の10本打っていた。


香山は、キャッチャーなので俺とポジションが違うが、正直アイツの活躍に嫉妬した。


悔しかったら、走ろう!


俺は走った。かつて、河川敷を何度も走って作った前田ロードを再び走る。

肘に過度な負担をかけないように、投げすぎてはいけない。だから、走るトレーニングを重視した。


皮肉にも肘のケガのおかげで、俺は前にも増して走るようになった。昔は、長い距離を走る練習は、何よりも嫌だったのだが。


今年のシーズンオフは、例年以上に下半身強化に励んだ。

走っていると、これまでの悔しい思いを忘れられた。


大袈裟かもしれないが、来年が最後のシーズンになるかもしれない。来年の今頃はクビになっているかもしれない。

だから、今年のシーズンオフのトレーニングは非常に大事なんだ。俺は、まだプロ野球人生を終わりたくないんだ。


自主トレーニングは、予定通りメニューを消化できた。ここまで、肘は何ともない。


キャンプは二軍スタートだったが、手ごたえがあった。直球だけでなく、変化球もイメージ通りに投げられるようになってきた。キャンプ終盤では、特にフォークボールが良かった。

フォークボールは俺のアマチュア時代の決め球だった。今の状態なら、フォークボールで三振が取れる。そう思えるほど落差があるフォークボールを投げられていた。


最後のオープン戦で、俺はチャンスをもらえた。相手は、阪神タイガース。甲子園球場だった。俺はトミージョン手術から今まで積み上げてきたものをぶつけて、開幕一軍の切符を掴むんだ。


甲子園の先発マウンドは、格別に気持ちが良いな。俺が高校球児だった時代の憧れの場所だ。かすりもしなかったが……


この試合のテーマは、直球はもちろんだが、フォークボールで空振りを取る事だ。そして球数を投げても球威が落ちない事だ。


開幕直前なので、阪神はベストオーダーだ。阪神には、実績充分のベテランが多い。このチームを抑えられたら、自信になる。


俺が特に意識したのは、鳥山選手だ。俺がケガをする前に一軍にいた頃には、よく打たれていた。バットコントロールが上手くて空振りが少ない打者だ。


俺は、初球からフォークボールを使った。よく落ちた。しかし、引っ張られて、一塁線をライナーが抜けた。僅かにファールで助かった。


流石は鳥山選手だ。厳しいボールなのにバットで捉えてくる。


俺は、打者に良い当たりを打たれてもあまり気にしないようにした。

俺が、失敗して甘いボールを投げても打者が打てるとは限らない。3割バッターでも、7割はアウトになる。


直球、カーブを混ぜながら、鳥山選手を追い込んだ。勝負球は、フォークボールだ。


バッターアウト! 審判の声が響く。狙い通り空振り三振だ!


この試合は、95球を投げて3失点だった。点は失ったが、フォークボールで空振りを取る事と球数を投げる事はクリアできた。


崖っぷちのシーズンがまもなく始まる。崖の向こうには、虹の橋が見える。久しぶりに俺のココロの中に虹の橋が架かった。

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