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エースナンバー  作者: 砂糖
32/55

ドカベン香山

俺はトミージョン手術を受けてから、懸命にリハビリを行なってきた。最近になってようやく、近い距離からのキャッチボールができるよ うになった。

嬉しかったが、まだまた道は遠い。


本当は、もっと長い距離を強いボールを投げたい。気持ちは焦る。


元巨人の桑田さんに言われたように、淡々とトレーニングを続けるんだ。これまでの辛かった日々を無駄にしないために。


一軍の試合は見たくなかった。見てしまうと、自分の気持ちをコントロールできなくなりそうだ。


でも、俺は忘れていない。広島カープのエース山田さんと約束したんだ。いつか、東京ドームの巨人対広島戦で投げ合って勝負する。その日が必ず来る事を信じている。


山田さんからはラインで、

「前田さん、復活を信じてマウンドで待っていますよ」

と言ってもらえた。

ちなみに、山田さんは今シーズンも絶好調で、広島カープも首位を快走している。

今シーズンは復帰できないが、必ず来シーズンは復帰して、山田さんに投げ勝ちたい。


俺には、復活を期する仲間がいる。

DeNAの香山選手だ。この選手は、キャッチャーで強肩強打がウリだ。

俺と同じ年にプロに入団して、二軍時代からしのぎを削ってきた。


100キロを超える巨漢で凄いパワーの持ち主だ。他球団の選手ながら、注目していた。


気は優しくて力持ち、そんなフレーズがぴったりの男だ。

昔、よく読んでいた野球漫画の主人公を思い出す選手だ。


香山選手は、右腕を骨折してしまった。彼は、これから一軍のレギュラー定着を狙っていた有望株だった。


一緒にリハビリを行った時期もあって、お互い励ましあっていた。


ある日、香山選手に誘われた。

「前田、一緒に野球のマネゴトしないか?」


俺たちは、まともに野球が出来ない状態が続いた。だから、マネゴトでも何でもいいから野球がやりたかった。


「ソフトボールを使って、投げるのは全て下からにしよう」


これなら、お互いに腕に負担をかけずに出来そうだ。

そして、お互いの妻を加えて、2対2で対戦する。


俺の妻は、やる気満々だ。

「遊びでもやるからには勝とうね。同じセリーグのDeNAに負けられないね!」

妻は、巨人のレプリカユニフォームを着ていた。しかし、背番号は俺の38ではなくて、高橋由伸監督の番号だった……


妻がピッチャーで、下からゆっくり投げて、俺と香山がそれぞれのチームの守備要員になる。一応、前田夫婦は巨人で香山夫婦はDeNAとして対戦だ。


試合は、巨人チームのボロ負けに終わった。何故なら、香山の奥さんは、ソフトボールの選手として全国大会に出場した経験があった。


俺は、打席に立ったが、香山の奥さんは、もの凄いボールを投げてきた。ボールが浮き上がって、うなりをあげていた。

もちろん、肘が大事なので、軽くしかバットを振らないが、それでも俺は一応プロ野球選手なんだ。


しかし、完璧に抑えられて苦笑いするしかなかった。

まぁ、俺は本業ピッチャーだから、打てなくてもいいかな……


しかし、妻はヒットを打っていた。妻が、勝ち誇ったように俺を見ていた。


香山も気持ち良さそうに軽くスイングしていた。さすが、プロ入団時にドカベンと言われた男だ。バットに当てただけでもボールは飛んでいく。


10対2でDeNAチームの勝利に終わった。久しぶりに野球らしき事ができて楽しかった。


「前田、やっぱり野球ができるっていいよな」

香山も満足そうだった。


「俺は、二軍時代からお前との対戦が楽しみだった。お前にインコースをえぐられた時は熱くなって、絶対にインコースを打ってやろうとヤマを張っていた」


「そんな時に限って、お前はアウトコースのスライダーで、俺は空振り三振に仕留められた。そんな対戦をまたやりたい」

香山は、俺に言った。


コイツもなかなか熱いヤツなんだ。

もちろん、俺も応えた。

「今度、プロで対戦する時は、全球ストレート勝負だ! しっかり練習しとけよ」


また一つ、復帰後の楽しみが増えたな。


なお、負けた巨人チームは、その後の食事代を負担する事になっていた。神戸牛の高級ステーキ店だった。

俺の妻は、勝つつもりでこの店を予約していた……


俺は、落ちた筋力を回復させながら、トミージョン手術から一年ぐらいして実践練習ができるまでになった。


ここで、大きな試みに取り組んだ。

それは、投球フォームを変える事だ。


以前のフォームを分析した結果、肘への負担が大きい事が分かった。特に、得意のスライダーを多投した事が肘の靱帯断裂に繋がっていた。


そこで、右腕を少し上げて、スリークォーターから投げるようにした。


俺は、アマチュア時代は、オーバースローで、巨人に入団後にコントロールを改善する目的でサイドスローに変更していた。


そのサイドスローからスリークォーターに変更すると、当然腕を上げなけれならない。

普通は、腕を上げると肩や肘への負担が増すが、俺の場合は特殊だった。

腕を少し上げてみると、キャッチボールの時も痛みが少なくて、自然に投げられた。


だから、スリークォーターにしてみた。様々な試行錯誤の結果、俺にとっては一番スムーズな動作で肘への負担が少なかった。


このフォームを固めて、強く右腕を振る事が出来るかどうかがポイントだ。


しかし、サイドスローから再び腕を上げてスリークォーターにする事は、想像以上に難しかった。

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