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エースナンバー  作者: 砂糖
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かつて、エースナンバーを背負った男

元巨人のエースナンバー18を背負った桑田さんからの電話で、心臓が止まりそうになった。


「前田さん、初めてまして。桑田と申します。球団から連絡先をお聞きして電話させてもらいました」


「前田さんが肘の靱帯を断裂して、トミージョン手術からの復活を目指していると聞いて、気になって電話させていただきました」


電話の向こうから、テレビで聞いた事ある桑田さんの声が聞こえる。俺は、この人にずっと憧れていた。


「初めまして、前田です。わざわざお電話いただいてありがとうございます」

ヤベェ、緊張で声が裏返っている。


桑田さんは、優しい声で話してくれた。

「僕も、トミージョン手術を経験したので、前田さんの苦しみは理解できるつもりです。今度、時間を作ってゆっくり話しませんか?」


え〜、マジっすか。ヒーローが俺なんかに会って下さるんですか。


東京ドーム近くの落ち着いた店で、桑田さんと食事する事になった。


俺は、待ち合わせ時間よりも一時間も、早く着いてしまった。昔、妻と出会った頃よりも大きな胸の高鳴りだ。

いや、ゴメンなさい妻よ。同じくらいの高鳴りかな……


待っていると、向こうから桑田さんが見えた。

お〜、テレビで見た桑田さんだ!


俺は、思わずダッシュで駆け寄ってしまった。

「前田です。今日は、ありがとうございます」


「桑田です。今日は、お互い気楽に話しましょう」


桑田さんは、握手してくれた。とても優しい雰囲気を持った方だ。

桑田さんの優しさに誘われて、俺は肘のケガの事だけでなく、アマチュア時代からこれまで歩いてきた道のりを話させてもらった。


桑田さんは、熱心に聞いてくれた。

「前田さんが会社員をしながら練習を重ねて巨人の入団テストを受けた事は、テレビで知っていましたが、目の不自由な親友との約束がキッカケだったとは知りませんでした」


「でも、実は親友に随分と励ましてもらいました」

そうなんだ。俺がここまで来れたのは黒田のおかげだ。


「前田さん、肘の靱帯を断裂してトミージョン手術を受けてから、トレーニングを再開されていると思いますが、調子はどうですか?」


桑田さんは、いよいよ本題に入った。


俺は、リハビリやトレーニング内容について詳しく話した。

そして、希望と先の見えない不安の両方も話した。


「今のところは、順調のようですね。前田さん、先の事は誰にも分かりません。前田さんに復活して欲しいけど、正直どうなるか分かりません」


「大切な事は、日々淡々とトレーニングを続ける事です。野球の実戦ができなくて地道なトレーニングばかりだと思います。不安も分かります」


「後向きになる事もあるでしょう。後ろを向きながらでも、前に進みましょう」

桑田さんは、経験者だから言葉に説得力がある。


そして、さっきの話は、かつて親友黒田が俺に教えてくれた「後向きの美学」と通じるものがある。


そうだ。日々淡々とトレーニング続けるんだ。不安になったら、桑田さんや黒田の教えを思い出すんだ。


あと、桑田さんから意外な話しも聞けた。

「前田さんはピアノを弾くそうですね」


「はい、子どもの頃から大学生の時まで習っていました」


桑田さんは、ニッコリ笑って、

「僕は、トミージョン手術後のリハビリでピアノを弾いていました。リハビリ目的だけじゃなくて、気分転換に良かったです。良かったら、前田さんもどうですか?」


なるほど、最近ではピアノを弾く事を忘れていたが、久しぶりにやってみよう。

「はい、ピアノ弾いてみます!」


桑田さんとの食事は、夢のような時間だった。あっという間に、時間が過ぎていった。最後に、俺は巨人での夢を話した。


「桑田さん、実は僕は、できれば巨人のエースナンバー18を背負う事が夢なんです。桑田さんの18番に憧れて野球をやってきたんです」


桑田さんは、喜んでくれた。

「僕は、前田さんが投げるボールを見ました。エースナンバーを背負うピッチャーになれる可能性は充分あると思います。頑張ってください」


別れる時に、桑田さんはボールにサインして俺にプレゼントしてくれた。

後日、桑田さんのブログで「応援したい男」として俺を取り上げてくれた。


桑田さんとの出会いは、大きな刺激になった。

単調で、地道なトレーニングの日々だが、黙々とこなしていく事ができた。


しばらくしてから、ようやくボールを握って少しだけ野球の練習ができるようになった。と言っても、近い距離からのキャッチボールだけだ。


何ヶ月ぶりか分からないほどだった。とにかく、ボールを使って野球が出来る事が何より嬉しかった。


しかし、恐る恐る投げた。ここで力を入れすぎると、今までの苦労が水の泡だ。


投げられた! 俺は、また野球ができるんだ! キャッチボール相手が、涙で霞んで見えた。


妻も泣いてくれた。

「健一、キャッチボールが出来たんだね。今日は、お祝いだね」


お祝いのメイン料理は、野球ボール型の特大おにぎりだった。

めちゃくちゃ美味かった。ありがとう妻。


「健一、この野球ボールおにぎりは、最高級のお米と海苔を使っているんだよ。健一が一軍に復活したら、しっかりと稼いでね」


はい、頑張ります。

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