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エースナンバー  作者: 砂糖
22/55

右腕との会話

キャンプが終わって、シーズンが始まる。本当の勝負が始まる。

二軍で結果を出さなければ、一軍のチャンスはもらえない。

背番号も今は「68」だか、いつかはエースナンバー「18」を貰いたいんだ。


まずは、二軍の試合で、先発ローテーションに入る事が目標だ。


先発のチャンスをもらえた。相手は、日本ハムだ。注目のルーキー、清川選手がいる。

俺にとってアピールのチャンスだが、清川選手に打たれたら二軍戦でもスポーツ新聞にデカデカと書かれてしまう。


おっと、欲を出したらいけないんだった。

無欲にそして、闘争心をボールに込めて投げるんだ。


試合は、二軍戦なのに注目ルーキー清川選手の登場とあって観客席は満員だ。

妻も来てくれた。Tシャツの背中に俺の名前と背番号「67」とマジックで書いていた。

俺の背番号は「68」なんだけど……


一回表、いきなり清川選手との対決だ。相手は注目ルーキーだが、高卒1年目だ。それに対して、俺は、20代後半のルーキーだ。負けるわけにはいかない。


昔なら、直球で力勝負を挑んだが、今の俺は無欲なエースだ。

変化球、カーブから入る。うまくタイミングを外して内野ゴロに打ち取った。


7回を投げて2失点、勝ち投手になれた。なかなかの初登板だった。


観客席の妻も声援をくれていた。

振り返った時に妻の背中が見えた。

背番号の「67」がマジックで無理矢理「68」に訂正されていた。

次は、番号間違えないでね……


次の日のスポーツ新聞を大人買いした。

「清川ヨンタコ」の見出しだ。ちなみに、ヨンタコとは、4回打席に立ってノーヒットに終わることだ。

むふふ、俺が抑えたのさ。

清川選手のコメントでは、

「相手投手の前田さんに完敗です」


俺の名前を出してくれた!

清川君、若いのに君は偉いねー。


しかし、悪かったところは、しっかり反省だ。ファーボールを6つ与えてしまった。多すぎるな。


コーチからも、

「直球が良かったから、他の変化球も効果的だった。ファーボールを減らせようにしろ。お前のボールの威力だったら、コーナーを狙わなくてもいいから大胆にいけ」

はい、分かりました。


親友黒田も連絡くれた。

「点字新聞で読んだぞ。日本ハムの清川選手を抑えたようだな」


俺も上機嫌だった。

「まあな。初登板としては良かったと思う。清川選手との対戦は意識してしまったけどな」


「清川選手を打ち取った時に、観客席のガッカリ感が気持ち良かったぜ」


黒田は、続けた。

「清川選手ぐらいで満足してないよな?お前の目標はそんなもんじゃないだろ」


黒田は、相変わらず俺を挑発してくる。子どもの頃から、変わらないエールの送り方だ。


俺もいつもどおりに、

「当たり前だろ。俺をナメるなよ」

やっぱり、気心の知れたヤツは良いな。


しかし、道のりは平坦じゃなかった。ファーボールの多さがなかなか改善されない。


俺は、ボールをリリースする時に、キャッチャーを見ないのだが、それをやめてしまうと余計な力が入ってしまう。


試行錯誤を繰り返したが、どれもしっくりこない。


コーチから言われた。

「キャッチャーを見ない方が投げやすいなら、その投げ方で良いんだぞ。お前の右腕に宿る力を引き出すことを考えろ」


「お前と右腕で対話しろ。投げながら、話しかけるんだ。右腕の声に耳を傾けてみろ」


なるほど、右腕と会話するのか……


なんとなくだが、少し光が見えたかもしれない。


俺は、右腕と会話した結果、腕を少し下げてサイドスローにしてみた。

初めてのサイドスローだが、意外に右腕は喜んでいるようだ。

イメージは、元巨人の大エース、斎藤雅樹さんだ。

これなら、いけるかもしれない。


コントロールは、格段に良くなった。でも、ボールのキレも落ちていない。


1年目のシーズンは、ずっと二軍だったが、先発ローテーションを維持して4勝できた。

数字というよりも、二軍とはいえ一年やれた手ごたえは大きかった。


右腕と会話する感覚も新鮮だった。

新たな境地が見つかった気がした。


俺は、20代後半のルーキーだから時間がない。来年は、一軍でやれないとクビが危ない。プロ野球選手を続ける限りは気が休まらないな。


一年終わると、来年の契約を結びなおす。

球団からも、

「よく頑張ったけど、来年こそ一軍でやらないとダメだぞ。力はあるんだからもう一息だぞ」


背番号も変わった。

「68」から「38」になった。エースナンバーに近づけた。


しかし、妻は

「背番号が減ったら、年俸下がるんじゃないの?背番号増やしてもらいなよ。100番ぐらいがいいんじゃないの?」


100だったら、18から遠のいてしまう……


来年こそ、一軍でやるんだ!来年は、2年目だけど、既に背水の陣だ。


ちなみに、俺が二軍でいたシーズンは、一軍で広島東洋カープが日本一になった。


俺がプロ入り前からお世話になった山田さんが大活躍していた。

最多勝で沢村賞投手になっていた。沢村賞は、投手にとって最高の栄誉ある賞だ。


今はまだ遥か先に山田さんがいるが、いつかは追いつきたい。俺が巨人に入団が決まった時に約束したんだ。東京ドームで投げ合おうって。

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