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エースナンバー  作者: 砂糖
18/55

ドラフト会議

ドラフト会議まであと少しとなったある日、高校時代の監督の奥様から電話があった。

監督は、高校時代からずっと俺を指導してくれた。大学生から社会人になってからもお世話になっていた。

プロ野球選手を目指すようになってからも、俺のボールを受けてくれて練習にも付き合ってくれたんだ。

辛かった時に隣で励ましてくれた人だった。


巨人の入団テスト合格は、手紙で伝えていたが、監督から連絡がなかったので気になっていた。


奥様が、沈んだ声で話しくれた。

「前田君、巨人の入団テスト合格のお手紙をくれたのに、主人が返事しなくてごめんね」


奥様の声から、悪い予感がした。


「実は、主人が倒れたの。ちょうど前田君が入団テストを受けた日だったよ。主人は、前田君の事をとても気にしていたの。昼頃に、頭が痛いって言ってからすぐに倒れて、救急車で運ばれたの」


「意識は、回復したけど、予断を許さない状況が続いてるよ。知らせるのが遅れてごめんね」


俺は、すぐに監督が入院している病院に駆けつけた。


監督は、ベッドでぐったりしていた。その表情は、辛そうだ。


俺は、監督の手を取ってゆっくり話した。

「監督、前田です。巨人の入団テストに合格しましたよ。監督のおかげです」


監督は、目を閉じたまま頷いた。

「前田、おめでとう。すまんな、せっかくお前が頑張ったのに、俺がこのザマだ」

監督は、いつも大きな声で俺を鼓舞してくれたが、今日は消え入りそうな声だった。


「前田よ、俺は重病らしい。医師はハッキリと言わないが、多分命に関わる病気だと思う」


「俺は、監督の生命力を信じていますよ。監督は、いつもコワイぐらいの熱血指導だったじゃないですか。簡単にくたばるはずがありません!」

俺は、本気でそう信じている。


「監督、俺の夢は、まだまだ先にあるんです。巨人でエースナンバー18番を付けたいんです。見ていてくださいよ」


監督は、目を開いて頷いてくれた。

「ありがとう、前田。お前の活躍が見たいから長生きするよ」


それが、監督と交わした最後の言葉だった……


俺が監督を、訪ねた一ヶ月後に監督は天国へ旅立った。


監督は、高校時代にピッチングの基礎を叩き込んでくれた。直球もカーブもスライダーもフォークボールも全て監督から教わった。


監督が亡くなった後、奥様が教えてくれた。

「主人は、本当に前田君を絶賛してたよ。今まで見てきた中で一番将来性を感じるピッチャーだって言ってたよ。ひょっとしてメジャーリーガーになれる器だって」


「だからね、主人のかわりに私が見届ける事にしたよ。前田君が、メジャーリーガーになる事をね」


監督、奥様ありがとうございます。

しかし、メジャーリーガーは流石に無理です。


「前田君、無理だって言わないでよ。簡単に諦めたら、天国から主人がお化けになって出てくるよ」

奥様は、監督に負けないぐらい熱い人だ。

俺は、やるしかないぜ!


いよいよドラフト会議の日だ。俺は、前日に高校時代の監督のお墓参りに行って、気持ちを落ち着けた。


入団テストに合格したといっても、ドラフト会議で指名を受けるまでは、正式なプロ野球選手ではない。

ましてや、俺はアマチュアでの実績がほとんど無きに等しい。


もしかして、指名されなかったら……。不安が消えない。


テレビ中継は、上位指名までしか放送されない。少なくとも、俺は上位指名はありえない。

だから、パソコンを穴が空くほど見つめていた。


「第10回選択指名選手、読売、前田健一、投手」


俺だ!! これは、つまり、ドラフト10位で巨人に指名されたということだ!!


ヤッター!! 俺と妻は大喜びだ。正式にドラフトで指名されると喜びもひとしおだ。

俺は、空を見上げて、亡くなった監督に報告した。


「監督、とうとう本物のプロ野球選手になりましたよ」

その日は、満月だった。まるで、監督の満面の笑みのようだった。


妻は、喜びを隠せない様子だ。元々、喜びを隠すタイプじゃないが。


「ねぇ、健一。契約金は一億円ぐらいかな?」

妻は、どこまで本気なのか冗談なのか分からない。


妻よ、ゴメン。俺は、実績がほとんどなくて入団テスト上がりだから、契約金はあまり多くないよ。

だけど、監督の奥様にも宣言したよ。メジャーリーガーになるって。

そしたら、ガッポリ稼ぐぜ!


今までの道のりは、辛くて長かった。

脳腫瘍に悩み絶望しかけた頃、河川敷で親友黒田にボールの音をきかせた熱投……。


社会人最高峰の舞台の決勝戦で打たれた逆転サヨナラ満塁ホームラン……。


会社員と野球の両立によって、もたらされた想像を絶する苦痛……。


我ながら、よく耐えたと思う。


最初は、目が不自由になった親友黒田を励ますために思わず、プロ野球選手になるって宣言した事から全てが始まった。


でも、むしろ、俺が黒田に助けてもらっていた。くじけそうな時に、後向きの美学を教えてくれた。


何より、俺には最愛の妻がいた。

妻に自転車で追いかけ回されながら、走り込んだおかげで強靭な肉体を手に入れた。


俺に関わってくれた全ての人に感謝だ。


でも、俺の夢はこれから新たなステージに続くんだ。

みんな、応援よろしくお願いします!








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