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エースナンバー  作者: 砂糖
16/55

入団テスト

俺は、ついに夢の入り口に立った。プロ野球の世界に入れるかどうかの勝負だ。


巨人の入団テストの日がやってきた。昨日は、緊張してあまり眠れなかった。俺は、準備を整えて、最後に大きく深呼吸した。

「じゃあ、行ってくる」

妻への声が震えているのが、自分でも分かった。


「健一、私も連れて行ってよ。なんの力にもなれないけど、私も健一と同じ場所に居たいよ。一緒に夢を見させてよ」

妻は、半分泣きながら言った。


「俺たちは、運命共同体だな。俺と一緒に神風特攻隊になるか」

俺は、無理やり笑った。


「違うよ。私が勝利の女神だよ。私のビジュアルなら女神にふさわしいでしょ」


妻は、こんな時でもやはりポジティブだ。


妻が車を運転してくれて、30分ほどで入団テスト会場に着いた。

車内では、二人とも無言だった。


会場に着くと、大勢のテスト受験生がいた。みんな体も大きくて、何となく上手そうな気がしてきた。俺は、さっそくウォーミングアップを始めた。


観客の中に黒田を見つけた。

目が不自由なのに、来てくれたんだな。必死に頑張るから、音をしっかり聞いてくれよ。


入団テストは、一次と二次に分けて行われる。一次テストは、50メートル走と遠投だ。ここで生き残れたら、二次に進む。俺は、ピッチャーだから二次テストでは、実際のピッチングを行う。

合格者がゼロの場合もあって、非常に狭き門だ。


入団テストのスタートにあたって、なんと、高橋由伸(巨人の監督)さんが受験生を激励してくれた。


高橋由伸さんは、凄いオーラだ。

何としても合格して、高橋監督と一緒に野球がやりたい。

俺は、テンションが上がって、気合マックスになった。


一次テストの50メートル走が始まった。みんな、結構速い。

周りは、関係ない。俺は、俺だ!

余計な事は考えず、無我夢中で50メートルを走った。


やったぞ、自己ベストタイムが出た!

どちらかと言えば、遠投に比べて苦手な50メートル走で幸先の良い結果が出た。


次の遠投は、ピッチャーである俺にすれば得意分野だ。肩の強さは自信がある。


よしっ、俺の番だ。俺は、投げた!

俺のボールが空気を切り裂く音が聞こえた。

遠投では、受験生の中で最長の距離を投げた。


全員の一次テストが終わった。

俺は、力を充分出せたと思う。


しばらくして、結果が発表された。

不合格ならここで終わりだ。


俺は、一次テストを通過できた!

ヤッター、妻に向かってピースサインを送った。

妻は、顔をくしゃくしゃにして喜んでいた。


休憩を挟んでいよいよ二次テストだ。

ピッチングのテストだ。

キャッチャーの人に俺が投げたいボールを言ってから、投げ込んでいく。


俺は、誰にも負けないくらい走り込みのトレーニングをしてきたんだ。

徹底的に下半身を鍛えたおかげで、直球に大きな自信がついて、プロテスト受験を決めたんだ。


大丈夫、俺は誰にも負けない。


まずは、直球からスタートした。

キャッチャーミットから心地よい捕球音が続いた。コントロールも良く、狙った所に直球を5球投げた。


更に、カーブ、スライダーと続けた。これも、上々だ。


最後の5球は、俺の決め球フォークボールだ。

俺に余裕はなくて、頭の中は真っ白だった。

ただ一つ考えたのは、力一杯右腕を振ることだけだ。


入団テストは、全てのメニューを終えた。ようやくホッとした。


結果が発表されるまでの間は、永遠の時間に思えるぐらい長く感じた。


黒田が、言ってくれた。

「前田、お疲れ様。今日は、お前の闘争心が凄すぎて、その気迫でお前のボールの音が火の玉のようだった」

俺の理想は、火の玉のようなボールだ。漫画のようなボールを投げるために練習してきたんだ。


妻も、笑顔だった。

「健一、良かったよ。今日の健一のボールは、漫画みたいな凄いボールだったよ。イチロー選手でも打てないよ」


ごめんなさい、イチロー選手。あなただったら、余裕で打てるでしょう。


いよいよ、結果発表の時間になった。ちなみに、一次テストを通過したのは三人だけだった。


「これから、最終合格者を発表します」

係員の人が言った。

合格者はゼロの可能性もあると言われていたが、果たしてどうなのか。


「最終合格者は、ピッチャーの……」

俺は、ピッチャー部門で受験している。まさか、まさか……


「最終合格者は、ピッチャーの前田健一さんです」

係員の人が発表した。


前田?誰だ?

俺だ!! 俺は前田健一です。本人です。そっくりさんじゃありません!


その瞬間、俺の体にイナズマが走った。ビリビリー! ヤバイ、俺、死んじゃうぐらい嬉しいよ!!


妻を見ると、気絶していた……

喜びの熱い抱擁は無かった……


黒田が涙を流していた。

その黒田を見て俺も泣いてしまった。


俺は、ついに巨人の入団テストに合格したんだ。

秋のドラフト会議を経て、正式にプロ野球選手になるんだ。


本当か?夢じゃないんだ。

俺は、やったんだ!


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