表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エースナンバー  作者: 砂糖
12/55

準決勝、決勝

俺は、準々決勝で9回を一人で投げ抜いて 2対0 の完封勝利を飾った。


次は、準決勝だ。

俺は、前の試合で130球以上を投げたので、準決勝では、投げない予定だ。ベンチから仲間を応援する。


準決勝は、シーソーゲームだった。

お互いに点を取り合って、白熱した接戦になった。

俺は、ベンチから声が枯れるほどのエールを送った。

ブルペンにも入って、ピッチャーのボールを受けるなど、サポート役に徹した。


結果は、8対7 で勝利だ!

粘り強く、ルーズベルトゲームを制した!

やっぱり、ウチのチームのみんなは凄い。急遽、参加した俺からみても、最高のチームだと思う。


ついに決勝戦まで来た。

この大会は、社会人チームの全国大会としては、最高峰の舞台なんだ。

プロ野球選手を目指す俺にとっては、自分の実力を測る目安になるはずだ。


決勝戦の日は、たまたま仕事と重なってしまった。

俺は、会社員と並行して野球を続けていたので、困っていた。

会社では、俺が、本気でプロ野球選手を目指して野球をやっていることを、ほとんどの人が知らない。


「だったら、俺のせいにして休みもらえよ」

会社で仲がいい同僚が言ってくれた。

コイツは、会社の中で、俺の夢を知っている数少ない(二人だけ)人間の一人だ。


「俺にどうしても頼まれた用事をやらないといけないから、休ませてくださいって上司に言えよ。俺を悪者にしたらいい」

同僚は、笑いながら言った。


「前田よ、今度の大会は、とても大事なんだろ。俺は、お前に夢を叶えて欲しいんだ。少しぐらいは、手伝わせてくれよ」


ありがとう……

俺は、目頭が熱くなった。


「そうよ、前田君。あなたは、私をフッた罪があるんだから、立派なプロ野球選手になってくれたら許してあげるよ」

同僚女性にも言われた。

俺が実らない片想いをしてたんだから、正確には俺がフラれたんだが……


同僚たちの助けもあって、俺は心おきなく決勝戦に臨むことができた。


決勝戦の舞台は、東京ドームだ。

プロの本拠地なので、当然だが、素晴らしい球場だ。

いつの日か、プロ野球選手のユニフォームを着て、ここで投げる事を夢見ているんだ。


今日の先発投手は、チームのエース岡田投手だ。

すでに今大会で2勝しており、我がチームの絶対的な存在だ。


しかし、監督から言われている。

「今日は、決勝戦だから、全員いつでも試合に出られる準備をしておけ」


俺もできれば、決勝戦のマウンドに立ちたい。最高の瞬間を仲間と味わいたい。


試合は、立ち上がりから、岡田投手と相手投手の我慢比べの展開だ。

0対0 で推移していった。


俺は、序盤からブルペンに入って準備していた。

疲労はあるものの、俺のボールはキレている。


8回表、我がチームが5本のヒットを集めて、とうとう相手投手を攻略した。

3点を先制した。


このまま、9回表まで終わって、3対0 でリードしている。9回裏を抑えれば、俺たちが優勝だ。


「9回裏は、前田でいくぞ。ブルペンのピッチャーでは、お前のボールが一番良かった。ウイニングボールを持って帰って来い」


監督からの指示だった。

この監督の言葉はいつも熱い。熱すぎる。

熱い俺にはピッタリの熱い監督だ。


「ピッチャーは、前田」

東京ドームに、アナウンスされた。

きっと、親友黒田と妻は観客席で聞いてくれただろう。

妻は、相変わらず、絶叫してるだろう。


3点リードしてるから、無駄に走者を出さずに一人ずつ確実にアウトを取ろう。

俺とキャッチャーは、冷静に言葉を交わした。


正直、かなり緊張していた。決勝戦の9回裏……こんな状況で投げるのは、初めてだ。


ブルペンで良かった直球を軸にした。一人目のバッターは、直球で追い込んで、フォークボールで三振を取れた。あと二人だ。


しかし、次のバッターには初球の直球を狙われた。

右中間を抜ける二塁打だ。


相手は、俺の直球を狙っているようだ。そこで、フォークボールとカーブを投げ込むが、わずかにコースが外れてファーボールを出してしまった。


ワンアウト一塁二塁、正念場だ。


俺は、気合を入れ直した。しかし、気合を入れ過ぎた。

俺は、3球目を暴投してしまった。

これで、ワンアウト二塁三塁。

しかし、3点リードしてるんだ。

落ち着け、落ち着け。


次のバッターは、フォークボールでピッチャーゴロだ。

よしっ、ツーアウトだ。


最後のバッターにしたいが、ファールで粘られる。このバッターは、前の打席も球数をたくさん投げさせられた。

12球投げさせられたが、結局、直球が外れてファーボールになってしまった。


ツーアウト満塁。

シビレまくる展開だ。


俺は、ボールを通じて観客席の黒田と会話しようとした。

黒田は、目が不自由だから、いつも俺の投げるボールの音を聞いて助言してくれた。


「今日のお前の直球は、危険だ」

黒田の声が聞こえた気がした。


しかし、俺は反発した。

「俺の直球をナメるな。最後は、カッコよく直球で空振り三振にしとめて、優勝だ」


相手は、四番バッターでツーアウト満塁。


俺は、渾身の力を込めて、直球を投げ込んだ。

打たれるはずがない!


カッキーン、俺の耳に完璧な打球音が聞こえた。打球は、バックスクリーンに向かって一直線だった。


まさかまさかの、逆転サヨナラ満塁ホームランを食らった。


4対3 でチームは、優勝目前で負けた。


あとの記憶は、全くなかった。チームメイトに何を言ったのか、どうやって東京ドームから帰ったのか……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=334193511&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ