そう言えば昨日はバレンタインデーだったらしい
ーー昨日っはバレンタインデーだったらしい。
無限はふと気付いた。
最近仕事が増え、忙しかったものの、バレンタインを忘れていたのはそのせいじゃない。
しかし、何故忘れていたのかは自分でもよくわからない……
無限は、自室に置いてる分厚い書類の束をいくつか持ち出し、机に置くと同時に軋む地味に嫌な音が聞こえた……
なにかを察して、優しく机を撫でる。
もう何年使ったのだろうか?そう思うのは、今まで無理な使い方をしても中々悲鳴をあげなかったこの机への労いの意でもある。
なんとなく一つの傷に焦点が定まった。よく見れば見るほど今まで気づくことのなかった傷や汚れ、歪み等の傷みが徐々に広がるように見えてくる。
特に脚の部分や天板の歪みや傷みが酷い。思えば、分厚い資料や本を山積みにしたことが何回もある……だからか中央の部分は少々盛り上がってる気がする。
至るところが傷んでいる机。
買った月日さえ分からない年代物で、丁度それなりの味が滲み出てきた頃。時の流れを巻き戻すのは簡単だが、勿体ないからもう少し頑張ってもらおうか?
そんなことを考えながら、無限の暇そうで暇ではないYouTuberのような1日が終わる。
しかし、無限は脳内独り会話の話題を巻き返す。
そういえば昨日はバレンタインデーだったらしい。
全く把握していなかった所為でみんなにあげるチョコレートが用意できなかった。前から用意していたレシピが無駄になってしまったじゃないか……まあ、しょうがないこれはホワイトデーに回そう。
なんて独りでに後悔していたりする彼を今第三者が見れば馬鹿にしか見えないだろう。
無限は、ベッドに飛び込んで、休息を取る。一週間ぶりの睡眠である。ーー多分2日間ぶっ通しで寝るだろう。
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バレンタインということを忘れていたと言っては嘘になるのだが、説明がしづらいため僕はバレンタインを忘れていたと言う。
可笑しな話だとは思うが、それ以外に表現するほかない。
優多は、中庭に植わる、花の世話をしていた時に気づいた。丁度、水を上げようとホースを取りに行った時である。
しかし、今気づいたところで男子である自分には、関係のないことである。焦る必要も無ければ、悲しむ必要も無い。
そんなことを思った途端に、バレンタインのことに関してはどうでもよく感じてきた。
……それにしても、水のかかった花というのは実に美しく映えるものと感じる。
点々と花弁に残る水滴が陽の光に反射するそれは、なんというか化粧をしたかのようにまた違って見える。
しかし、ふと思ったことなのだが、こんな感じのチョコレートって作るのは可能なのだろうか?というよくわからない疑問である。
細い茎、薄い花弁に細かく群がる雄しべやその中心にまるで女王かのようにそびえる雌しべ……
バレンタインデーということもあり、チョコレート細工なるものを、昨日ツイッターで見た。
まあ、その記事は大きな白鳥なのだが……
少々どうでもいい話、自慢話になってしまうのだが、手先の器用さなら誰にも負けない自信がある。
過去に、5mm×5mmのサイズで鶴を折った事がある。勿論素手ではなく先の細かいピンセットでだ。
一体何故こんな事を淡々と思っていられるのか不思議だ。
ーー昨日はバレンタインデーだったらしい