植物園
急☆展☆開
「な〜にしてるのっ!」
「花を見てるの。」
「いや、見たらわかるけど、さ。それだけ?何か考えてたりしてない?」
「そうね、この子達と私って似てるなって。」
「似てる?そうは、思えないけど……。」
「ねぇ、貴方は、貴方だけはどうか『私を忘れないで』ね。」
「?それは、勿論だけど……。どうしたの?」
「別に。何でもないわ。」
今でも忘れない。
それが、たった数日の付き合いの少女との最後のやり取りだった。
高校生になっても未練がましく春になると毎日ここに通う。
そこは、地元の植物園。彼女と過ごした唯一の場所。
吸い込まれるような紫の瞳に翡翠のツインテール。誰も信じてはくれないけれど、あれは人工によるものではない。自然色だった。
「アンタまたここに来てんの?もう諦めなよ。相手の子だってもうアンタのことなんて覚えてないわよ。」
そう声を掛けてきたのは、幼馴染の椿だ。学校内で1,2を争う美少女…らしい。俺としては毎日見ているし、在りし日の少女の方が好みだ。
嗚呼、会いたいなぁ…。
「いつもながらに、椿じゃあ不満そうだな。お前は。」
そう言って歩いて来たのは、大柄の男の白木 蓮だ。
その横に居る、ほんわかオーラを纏っている女の子が竜舌 蘭だ。
「いや、不満…とかじゃなくてさ、あの子に会いたいなって。」
「あの子ねぇ…。そんなに可愛いかったのか?」
「どうなんだろ。綺麗って感じた記憶があるけど、可愛くもあった様な。」
「だってよ、椿。」
「なんでそこで私に話振んのよ。」
「いやぁ〜。だってなぁ?」
「ね〜。」
「蘭まで何なのよ!」
3人が言い争っているのを笑っていると、いつもより人が多い気がした。
「今日何かあるのか?」
「アンタよく此処に来てるくせに知らなかったの?」
「ハハ、植物自体にはあまり興味がなくってね。」
「…ここで久しぶりにヒスイカズラが咲いたんだって。」
「珍しいの?」
「まぁ、そこそこに?」
「へぇ〜。」
そこに、一人の老人が歩いてきた。
「また来ていたのかい?毎日一人で。そんなに植物が好きなのかい?」
「え?何言ってるんですか、おじいさん…ッ!」
気がつくと、3人がいない。さっきまで直ぐ側で話し声が聞こえていたのに…。
「ん?なんでこの花が此処に植えてあるんだ?ここじゃあ良く育たないだろうに。」
老人はそう言って何処かに歩いていった。
「あ?あああああああああああああッ!」
頭が割れる様に痛い。過去の記憶がフラッシュバックする。
家の近所の公園も、学校も…全て全て全て…あの3人はいない。ずっと一緒に過ごして来た幼馴染のはずなのに。
この植物園でしか……。
そうしている間に、老人が戻って来た。
どうやら先程の花を適した場所に移そうとしているらしい。
「まっ……止めろぉぉぉォォォオッ ーーーーーーーーーー。」
「!どうした兄ちゃん?…あれ?何処行った?」
ここは一直線の通路で隠れる場所ナンテ無いのニ。不思議そうな顏。
お爺さんが、彼を夢から覚ましてシマッタカラ。可哀想なオニーサン。
こんな話の予定じゃなかったんだケド…。