case1、渡辺まこ(下)
まこは夜中にふと目覚めた。
なんだか嫌な夢を見た気がする。
汗がにじむ額を手でぬぐい立ち上がる。
まだ夜中の2時だ。
しかし、まこの目はしっかり覚めており寝る気にもならない。
近くの壁に背をつけるとほんのりと冷たくて気持ちがいい。
近くにあるスマホを手に取り通知がたくさんきているLINEを開く。
みか、さなえ、ともか、みんな中学の時の友達だ。
鈴花と分かれ別の中学に行ったあとすぐに仲良くなった友達だった。
でも、友達だと思っていたのはまこだけだった。
まこの悪口を言っていたみか、まこのプレゼントを捨てていたさなえ、まこのものを取っていたともか。
初めて悪口を聞いた時、まこはショックを受けた。
出て言って怒ろうかと思った。
でも、できなかった。
多分、気まぐれで言ったのだろう。みかはよくいろんな人の悪口を言っていた子だったから。
そう納得したはずなのに胸の中ではみかの言葉がぐるぐると渦巻いていた。
みかからはいつも通りたわいのないLINEが来たので気のせいだと思っていた。
ある時、またみかがまこの悪口を言っているのを聞いた。
その時は始めの時よりも冷静になれた。
みかの声が放課後の教室に響く。
ぐちぐちと言っている言葉は嘘もあれば本当もあったが始めの時よりもショックは受けていなかった。
反対に人間はこんな感じなのかと冷静に思っていた。
「だってあいつ嫌われてるよ。みんなから。特にさなえなんて誕プレあいつからもらった時すぐ捨てたって言ってたし」
笑いながら言うみかの言葉がよくまこの耳に響いた。
他の女子の甲高い笑い声が耳に残ってなんだか自分がここにいるのをわかっていて笑っているのではなんてありもしないことを思ってしまった。
教室から離れ正面玄関の方に行く。
「まこ?早く帰ろうよ?」
何にも知らなさそうにしているさなえがまこを呼んだ。
まこはみかの言葉が頭に残っていたからかさなえの呼びかけには反応しなかった。
さなえは俯いているまこのことを不思議そうに見て何かあったの?と聞いた。
仲良くしていたさなえが自分のことを嫌いだっただなんてと思い泣きそうになった。
さなえの前で泣いたってどうせ本当のことなんてわからない。
まこは何が嘘で何が本当かわからなくなった。
さなえを無視し、靴箱の中の靴を取り出す。
ほんの少し汚れた白い靴を取り出しすぐにはいた。
投げるように上履きを靴箱に入れさなえの声を無視して走り出した。
さなえの困惑する声を聞きながら走った。
まこは泣きそうになりながら走った。
周りの人が不思議な目をしているのも気づかずただ走った。
家の前にたどり着いてカバンの中から鍵を出そうとした。
けれども手が震え鍵が取り出せない。
早くしなきゃと思うほど鍵が取り出せない。
ほろりとまこの目から涙が溢れ玄関のコンクリートを濡らす。
拭おうとするたびに溢れてくる。
涙でにじむ視界で鍵を見つけ家の扉を開ける。
後ろ手で家の中から鍵を閉め、部屋に飛び込む。
ベットに転がり枕に顔を埋めるとまこは大きな声をあげて泣き出した。
枕のおかげで声は全然漏れていないのをいいことに泣いた。
泣いて泣いて意味がわからないほど泣いたらなんだか胸にあったモヤモヤがなくなった気がした。
誰もいないリビングに降り、冷めたご飯を温める。
いつもまずいと思ったご飯は少しだけ美味しく感じた。
次の日、まこは朝、さなえに謝りながら学校へ来た。
さなえは少し不服そうだったがまあいいよと言ってくれた。
玄関で靴を履き替えようと靴を出そうとしたが、靴がなくなっていた。
まこは意味のわからなさで泣きそうになった。
でも、少し、ほんの少しだけ初めてこんな漫画みたいないじめを目の当たりにしたと喜んでいた。
とりあえず空っぽの靴箱に靴を入れそのまま職員室までペタペタと歩いた。
先生にこのことを言うとびっくりされ、探すことになった。
しかし、もうすぐチャイムが鳴ると言うことでスリッパを履きそのまま教室へと行った。
まこはまるで気にしていないようにさなえに笑った。
でも、心の中では誰が私の上履きを盗んだのか?と言う話題でいっぱいだった。
さなえとはクラスが違うのでさなえと分かれ自分のクラスへと入る。
教室に入ると一番初めに自分の前の席の女の子にそれどうしたのと聞かれた。
そうすると他の子も来てみんな口々にびっくりしたような顔をしていた。
その中にはみかとともかもいた。
チャイムがなり担任が入ってくる。
担任の先生がまこの靴がなくなったことを話しクラスは少しザワッとした。
まこは足をぶらぶらとさせていたが大きめのスリッパが教室に落ち音が少ししたのでバレてないよね?と変に心配をしていた。
すぐにホームルームが終わり、1時間目の準備をしようと机の中から教科書とノートを出そうとした。
しかし、何故か見つからない。
昨日、教室に忘れていたはずなのに。
まこは急いで探す。
どうやっても見つからない。
1時間目の数学の教師にそのことを伝えると驚かれそのあととりあえず今日は借りてこいと言われた。
さなえにすぐに借りて来たがなんで?どうして?と頭の中でいろんな感情がモヤモヤとしていた。
放課後になり、担任が一応、クラスの人たちに確認をしようと言って机の中のものを全て出せと言ったのでみんな机の中のものを全部出した。
担任が一つ一つの席を回って行く。
「あれ?これって渡辺さんのんじゃ‥‥?」
そんな女の子の声が聞こえた。
すぐにそこに先生が行く。
まこもその席に行く。
確かにまこのノートと教科書がともかの机の中にあった。
ともかは青ざめた顔で違うと言っていた。
何が違うのかまこにはさっぱりわからなかったしどうしてともかの机に自分の物があるかわからなかった。
まさかともかが全部とったのではなんて予想が頭に浮かぶ。
ざわざわしている教室の後ろの方に行く。
ともかの棚に手を伸ばしともかのカバンを取り出す。
その後ろには袋に入った何か。
袋に手を伸ばす。
がさりと音が鳴った。
教室のざわめきはいつの間にか消えてまこの方へ目線が向いている。
袋の中を取り出すと同時にやめてと大きなともかの声が聞こえた。
袋の中にはまこの上履きが入っていた。
渡辺と言う名字が書いてある。
学年でもまこぐらいしかいない名字だから一目瞭然。
先生も驚きで目を丸くしている。
ともかは俯いている。
なんだこんな近くにいたのかとまこは落胆した。
そしてイラついた。
みかにもさなえにもともかにも。
今日は一旦帰りなさいと言う声でみんなが帰って行く。
教室にはまことともかと先生とあと、興味心をそそられたクラスメイトの数名が残っていた。
先生がその数名に早く帰りなさいと声をかけると残念そうにその人たちは帰って言った。
少し話をされたあと私が帰された。
教室の外にはみかとさなえがいた。
大丈夫?なんて声をかけられる。
まこは怒った。
どうせあんたたちだって悪口言ってたりしてたくせにそう怒鳴りつけた。
そして早足で歩き出してさっさと帰った。
靴箱に入ってる靴を取り出して履き替えた。
そして上履きを手にスタスタと帰って言った。
家に帰るとまこは死にたいと思った。
悲しくて苦しくて裏切られたんだと思って。
でも、死んだらどうせあいつらは謝ればよかったとか言って泣いてそれで他の人たちにちやほやされているんだろうななんて考えるとムカついた。
とりあえず学校に行かないでいいやとまこは思った。
親が家に帰ってくるともう行かないからと言った。
すると父も母もそうかと言って納得してくれた。
まこはどうして内容を聞いてくれないんだと思ったが結局聞かれるのも嫌だったので部屋に入ってごろりと転がった。
次の日からまこは家でごろごろすることにした。
そして中三の夏に入る前までずっと家にいた。
でも、まこはその間どうだったかと聞かれれば幸せだったと言う。
のんびりしたいことをやってた時は学校に行くよりも数倍、いや百倍は楽しかった。
そう思いながらLINEを見る。
一応、LINEは消していなかったが全然見ていなかった。
みかやともかが謝りたいとか書いていてまこはなんだこいつら今更と思った。
さなえは学校に来い来いと言ったりしていたがそれも数年前。
3年生になって中学に行くと全員とクラスが離れていてホッとしたのを覚えている。
受験生だったのでみかたちもまこのクラスに来ることはなかったから本当に安心できた。
LINEをスクロールして一番下までやる。
そしてみかたちのグループを最後に開く。
一番下にあったのがみんなで会う約束だった。
まこも来れるならきてと書いてあった。
絶対行かないと思いつつLINEを閉じる。
ベットに戻り転がる。
頭の中ではほんの少し行こうかと迷っている自分がいた。
まこが電子音に目を覚ました朝。
なんだかすっきりしていた。
怖い夢を見なかった。
ただそれだけだった。
学校に行くと鈴花がなんだかすっきりしてるねと笑ってくれた。
なんだか不思議な気持ちになった。
「鈴花、もし、もしもの話なんだけどさ、自分の嫌いな相手が謝りたいって言ってきたらどうする?」
鈴花は少し悩んで口を開いた。
「とりあえずそこに言って自分がどれだけお前を嫌っていたのかを言いまくって謝らせまくる」
そう言い切った鈴花をまこがふふっと笑いながら見る。
「鈴花らしいわね」
そう言うまこの笑顔はどこか綺麗だった。
「私、行ってみようかな?」
まこがそう呟いた声は鈴花の耳に届いたかはわからなかったが鈴花はニコッと笑ったのだ。
下の方が内容がありすぎて上と中のすかすかさがわかりやすい!!!!