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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ダイキライ、ダイスキ

作者: 新京極鈴蘭

「うそ…そんな…私が…」


クラスの女子に、恋をしてしまった。しかも私も女の子。


「私…あいつのこと…好き…?」


頭の中に、あいつの屈託のない笑顔が浮かんだ。

生意気で、ウザいくせに、時々見せる紳士的な微笑み。


「なんなのよ、もう!」


ベッドに潜り込む。早く眠りにつきたい。それでも、真っ暗な瞼の裏に浮かぶのはあいつの笑顔。


「消えて、消えなさいよ!」


瞼の裏に浮かぶあいつの笑顔に怒鳴ったが、いくら叫んでも消えてくれない。それどころか、濃くなっている。


「私は眠いの!」


私は叫びながら耳を塞ぐ。塞いだ瞬間、今度はあいつの声が聞こえた。


玲奈(れな)ー!お前宿題ちゃんとやったかー?』


やったわよ、馬鹿。


『玲奈、次のテスト、お前が勝ったらアイス奢ってやるよ!ま、お前が私に勝てるとは思えないけどな!』


勝ってみせるわよ!あんたなんか100点差つけて勝てるわ!


『玲奈は馬鹿だなー!はっはっは!』


馬鹿に馬鹿って言われるなんて!!


『玲奈、好きだよ』


私も好きよ!…って、そんなわけないじゃない!


「はあ、もうムカつく!」


夏の暑さも相まって、私は結局一睡もできなかった。全部あいつのせいだ。



「玲奈ー!おはよー!」


朝、教室のドアを開けるといきなりあいつが飛び出してきた。


「きゃっ!びっくりしたぁ!」

「へへん!びっくりさせてやったぜ!」


なんなのこいつ!いきなり驚かせてきて!


「もう!脅かさないで、馬鹿!」


私は目の前のこいつを思い切り突き飛ばす。いきなり飛ばされたヤツは目を丸くしてる。ザマミロ!


「朝から災難だわ!」


私は席に着いて、買ったばかりの恋愛漫画を読む。最新刊を読むのは、やはりわくわくする。


「なーによーんでーるの?」


私の至福の時間は、あいつの声で打ち砕かれた。


「なっ、何しに来たのよ!」

「玲奈が何してるのか、気になったんだ」


そう言って、ヤツは無邪気に笑った。


「ほーう、『君だけを愛してる』、14巻か」

「おっ、大声で言わないで!!」


私はヤツの背中を強く叩く。ヤツはニヤニヤと笑って私を見てる。ほんっとにウザい!


「委員長、純愛が好きなんだね!」

「うるさいっ!」


顔を真っ赤にしながら、私はヤツを追い返した。



「ほんっとにあいつ最悪だわ」


放課後、私は親友の(かおる)に愚痴った。

薫はおっとりとしたお嬢様のような子で、見た目も愛らしい。


「でも、和奏(わかな)ちゃんは玲奈と仲良くなりたくて色々話しかけてくれるんでしょ?」

「…そう、だけどさ…それでも!恥ずかしいことを大声で言ったり、嫌って言ってることわざとしてきたり…最低よ、あいつ!」


薫に優しく言われても、私の心は収まらない。

愚痴り続けていると、薫が不意に口を開いた。


「もしかして、玲奈…和奏ちゃんのこと好き?」

「!!!」


いきなり言い当てられて、心臓が飛び出そうになった。


「あ、その反応…図星だね」


おっとりとにこやかに笑う薫。


「…好きって…その…えっと…」


必死に言い訳を考えるが、薫が遮った。


「無理しなくていいよ、同性愛に偏見は持たないから」

「うう…」


好き…なのかな…あいつのこと…

私にだけじゃなく、周りにも迷惑かけまくって、平気で笑ってるようなあいつのこと、私は…好きなの?


「何かあったら、私に相談してね」


にっこりと笑って、薫は分かれ道を歩いていった。



「もー!ほんとなんなの!」


とりあえず、ベッドに横になる。そうだ、あいつに邪魔されて読めなかった、漫画の続きでも読もう。


「……え?」


私は漫画を読み進めながら、心臓が止まりそうになった。

漫画の内容は、主人公の女の子が、幼馴染みを振ってまで、生意気なクラスメイトと付き合うことを決意するというものだった。


「私、絶対幼馴染みと付き合うと思ってたのに…」

「てか、生意気なクラスメイトって…なんかあいつに似てる…」


また、頭の中にあいつの顔が浮かんだ。もう勘弁してほしい。


「もう寝よ」


昨日寝てないこともあり、今日はすぐに眠りにつくことができた。



「おっはよー!」


ドアを開けると、昨日と同じようにヤツが飛び出してきた。


「もう驚かないわよ!」


そう言って私は席に着き、今日は漫画ではなくノートを取り出し、宿題に漏れがないか確認した。


「あー、お前ここ間違えてる!」


また、大声が後ろから響く。


「ここの答え、『3』が正解だよ」


得意気にヤツがノートを指差す。


「だから何よ、間違えたから馬鹿にしにきたの?」


言葉にとげを混ぜながら、私はヤツに質問する。


「そんなつもりじゃ…」


ヤツはちょっと寂しそうな顔をした。


「っ!」


な、何…今私、ドキッとした…?


「答え…間違ってたから…教えただけ…」


さっきまでとは別人のように、ヤツは小さく呟くと、さっさと自分の席に着いた。


「…言い過ぎた、かしら」


いくら普段がウザいからとは言え、ヤツは私に答えを教えてくれたのだ。それなのに、私は冷たくしてしまった。


「…謝ろ」


私はゆっくり立ち上がり、教科書を出してるヤツのところに行った。


「…さっきはごめんなさい…少し言い過ぎたわ」


するとヤツは、いたずらっぽい顔になった。


「え、玲奈が私に謝ってる!私、何かしたっけ?」


明らかに馬鹿にしてるような、ニヤニヤした顔で、そんなことを言う。


「ま、何もなくても、玲奈が謝るのはレアだからね。身に覚えないけど、許してやっても…」

「ばっかじゃないの!?」


後悔した。ヤツに謝ったのを心底後悔した。


「いいわよ、許さなくても!嫌々許されるくらいなら、一生口聞かない方が全然マシよ!」


私は今まで出したことがないような位の大声で怒鳴った。


「あ、えっと…」


途端にヤツの声が小さくなる。もうそうやって騙したって無駄よ。さっきもそうやって、私の謝る姿を見て、馬鹿にしようとしてしょげた顔したんでしょ?


「あんたなんか、大っ嫌いよ!一生口聞かないから!」

「!!」


叫んだ途端、ヤツが涙目になった。もう知らない、あんなやつ。

私はどかどかと歩いて自分の席に戻った。


「…玲奈…大丈夫?」


前の席の薫が小声で話しかけてきた。


「いいのよ、あいつなんか。心配した私が馬鹿だったわ」


私は薫にそう返すと、大きなため息をついて机に伏せた。



結局、あのあとお互い口も聞かず、下校することになった。

今日は、薫がピアノのお稽古だと言って先に帰ったため、私一人で通学路を歩く。


「…これで、いいのよ…良かったのよ」


自分に言い聞かせる。謝った人にあんな態度をとるようなやつ、好きになんか…


「でも…やっぱり…」


浮かんでくるのは、あいつの馬鹿にしたような顔と、時々見せる紳士的な微笑みと、あと、今日初めて見た、泣きそうな顔。


「嫌いなはずなのに、どうして…」


私は泣いていた。やっぱり、嫌いになりきれない。


馬鹿にするのは、構ってほしいから。

紳士的な微笑みを見せるのは、もっと仲良くなりたいから。


じゃあ、泣きそうな顔をするのは?

あいつはなんで、泣きそうな顔をしたの?


『答え…間違ってたから…教えただけ…』


泣きそうな顔で、そんなことを言ったあいつの顔を思い出す。


『あんたなんか、大っ嫌いよ!一生口聞かないから!』

『!!』


大っ嫌いと言われたとき、今にも泣くんじゃないかという顔をしていたあいつ。

なんで、そんな顔するの?なんで?


『ここの答え、『3』が正解だよ』

『ほーう、『君だけを愛してる』、14巻か』

『委員長、純愛が好きなんだね!』


あ、そうか…


好きなんだ、私のこと。


私のこと、好きだから、あんなに楽しそうに話しかけてきたんだ。

私のこと、好きだから、大っ嫌いって言われて泣きそうになったんだ。


「…りょ、両想い…だったの…?」


呟いた途端、私は泣き崩れた。

素直になれない私のせいで。どうせ恋愛感情抱いているのは私だけだからと吹っ切れて、余計に辛く当たって。

あいつの気持ち、ちゃんと考えたことなかった。


何が大嫌いよ!!何が口聞かないよ!!


「…会いたい…あいつに会いたい…」


気がついたら、私は走っていた。制服が乱れるのも気にせず。ただ、あいつに会いたくて。

あいつは、部活中だ。バレー部は、体育館にいるはずだ。


「はあっ、はあっ…どこにいるのよ…」


体育館を覗いても、バレー部の方を見ても、あいつはいなかった。


「あの、和奏さんは…渕崎和奏さんは…どこに…いますか…」


息も切れ切れに、私はバレー部の人に尋ねる。


「わかちゃんは、今日は休むって言ってたよ」

「そうですか、ありがとうございます!」


私は体育館を飛び出した。どこにいるのよ、あいつ!

夕日もそろそろ落ちそうだった。公園の時計を見ると、6時半を過ぎていた。


「…ねえ、どこにいるの?…いるなら返事してよ…」


公園のベンチに腰掛け、呟く。


「私のせい?そうでしょ!私のせいなんでしょ!だったら謝るわよ!嫌いって言ってごめんなさい!口だって毎日聞いてやるわよ!だから、だから…」


誰もいない公園で、一人叫ぶ。誰かに見られたら大変だと思ったが、叫ばずにはいられない。


「謝るから、出てきなさいよ!!」

「あれー?聞いたことある声だ!」


ふと顔をあげると、そこにはあのいたずらっぽい、ニヤニヤした顔があった。

私の大嫌いで、大好きな、あの顔が…


「!!」

「へへ、やっぱり玲奈だった」


ヤツは制服姿で、私の前に立っていた。改めて見てみると、やっぱりヤツは顔立ちも整っていて、スタイルも良かった。


「聞いてたの…?」


私は震える声で尋ねる。ヤツは笑って頷いた。


「謝るんだよね?」


馬鹿にしたような声に混じっているのは、不安だという感情。私の中に、ズキズキと痛む思いがあった。ヤツは、本当に傷ついたんだと改めて感じた。


「あ、謝るわよ!よく聞きなさい!…大嫌いって言ってごめんなさい!」


私は堂々と謝ってやった。傷心中のヤツに。


「…許してあげる!」


ヤツはそう言って笑った。やっぱり、馬鹿にしてる。


「何よ、せっかく勇気出して謝ってやったのに…」


私はむすっと不機嫌な顔になる。


「…私も、ごめんね」


不意にヤツがそんなことを言った。その声に、私はまたドキドキする。

やっぱり、好き。


「ふんっ、許してやってもいいわよ!」


私が言うと、ヤツは今まで見たことがないような、優しくて、嬉しそうな笑顔を見せた。


「いつもみたいに、馬鹿にしないの?」

「え、私馬鹿にしてる?」

「してるわよ!」


私はヤツの頭を叩く。ヤツは「いってえ」と言って頭をさする。


「い、一回しか言わないから、ちゃんと聞きなさいよ!」

「?」


もう、やけになって告白してやる!


「私は、あんたのこと…大好きだから」


星が光り始めた空の下、一組のカップルが誕生した。

新京極鈴蘭です。

恋愛ものは、異性カップルよりも百合カップルが好きです。

これからもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 同性愛者ではないですが、同性愛には理解がありますね。 なのでこの作品はそういう人たちに勇気を与えてくれる素晴らしい作品だと思いました。
2016/07/29 13:11 退会済み
管理
[一言] 「しかも、私も女の子」のところが一瞬読めなかった。(2回読んでわかった) 「も」が前文の述部と係っていないから。 係ってる例「aさんは女の子だ。しかも、私も女の子。」 せめて、「私は女の子…
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