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第92話 ちょっと黒かった?

 倉庫から戻ってみると、センはまだ短剣に夢中のようで、【御者】が戻って来た事にも気付いてないようだ。

 ま、【御者】だからね。死ぬ事はないし、もしもの時には消せばいいんだけど全く護衛になってないよね。

 センの事は放っておいてイーサン事務長と話をしよう。


「しかし、大きな倉庫でしたね。メキドナの倍以上あったと思いましたが、よくあれだけ大きな倉庫が手に入りましたね」

 メキドナの倉庫の三倍近くの大きさはあったと思う。向こうは四基でこっちは十基。建物の高さは同じぐらいだったけど奥行きもあったしね。


「あれは元々大型の魔物や大量納品のために使っていた倉庫なんです。今はダンジョンがメインになって来てますのであまり使ってませんし、なによりイザベラさんの指示ですから」

 よく名前がでてくるね。凄く偉い人なのかな?


「イ―――サン!!」

 冒険者ギルドの入り口から大声で女性が駆け込んで来た。


 ギルド内にいる全員の視線が入り口に向く。そして全員がすぐに視線を逸らす。イーサン事務長も例外では無かった。視線を向けてるのは【御者】だけ。パーティションで仕切られているとはいえ、所々に隙間があるので入り口が少し見えるのだ。


 駆け込んで来た女性は奥の事務員たちの方をキョロキョロした後、こちらで目線が止まるとこっちに小走りで向かって来る。


その女性は「どこで寝てんのよ!」と蹴りを入れながらイーサン事務長の所にやって来る。

 あ、さっきのベタ団か。まだ放置されてたんだね。しかし、蹴りを入れるって……


「イーサン! 話は聞いたわ。キャリッジ冒険団がこの王都に来てるそうじゃない。あなた、こんな所で商談している場合じゃないでしょ。早くキャリッジ冒険団を拉致して来なさい。少しぐらいなら怪我を負わせても不問とするわ。早く! 急いで!」


 キャリッジ冒険団を拉致? 怪我は不問? だれこれ?

 イーサン事務長を見てみると細かく左右に首を振り続けている。視線も時折【御者】に向けたりもしている。オレ達がキャリッジ冒険団だと何とか知らせようとしてるんだろうな。


「はじめまして、キャリッジ冒険団のリーダーです。こっちはメンバーのセン。よろしく」

 拉致や怪我など言ってる奴だけど、イーサン事務長も知ってる女みたいだし、先制攻撃のつもりで自己紹介をしてやった。


「え? え?」と戸惑う女。あちゃーと右手で顔を覆って俯くイーサン事務長。


「イーサン事務長、さっきの話は無かった事にしましょう」

「い、いや。それは困ります! この女の非礼はお詫びいたしますので何卒お許しください。ほら、契約書もこの通りありますし」

 イーサン事務長が契約書を広げてこちらに見えるように出した。


「セン」

「はっ」

「やれ」

「はっ」


シュッ!      チン


 風切り音の後に納刀の鍔鳴りの音がした。

 イーサン事務長が持つ契約書が音も無く消えた。手で持っている部分だけは残っていた。

 紙吹雪も舞わないぐらい細かく刻まれた契約書は粉の様になって小さな山となってしまった。


【種火】!

ボッっと火が点くと細かい紙だから一瞬で何も無くなった。灰も残って無い。


「な! これは契約書ですから、強制的な破棄は、破棄した者に呪いがかかるのですよ!」


 そうなの? ちょっと早まっちゃった?

《人間の作る呪いの制約は馬車には関係ありません》

 そうなんだね。そりゃそうか、あー良かった? 人間じゃ無いのは大分自覚してきたけど、呪いからも人間否定されたんだね……涙。

 出ないけどね。どこが目かも分かんないし。


《それに、人間が作る呪いではレベルが低すぎてキャリッジ冒険団のメンバーでも効果がある者はいないでしょう》

 それを先に言ってくれよ、落ち込んじゃったじゃないか。

《馬車に効かないのは事実です》

 ……。

 綺麗ないい声なのにね、言う事はいつも残酷だね。


「残念だけど……本当に残念だけど、オレにはその呪いは効かないみたいだよ」

 本当に残念だ。


「そ、そんなはずは……」

 信じられないと目を見開いて驚くイーサン事務長だが、【御者】に何も変化が無いと気付くと次の行動に出た。


 椅子から立ち上がると、すぐ横の少し広い所で両膝をつき、両手も付いて頭を床に押し付けるようにして頼んで来た。

 所謂DOGEZAだった。

 見惚れてしまう程の流れる様な一連の動作、その洗練されたDOGEZAは師範代クラスと言っても過言ではないだろう。

 ま、いつもやらされてるんだろうね。慣れてらっしゃるよ。


「申し訳ございません! この女の発言でのお怒りはご尤もでございます。しかし、そこを曲げて何とか再度契約を交わして頂けないでしょうか。お願いします!」

 平謝りに謝り倒すイーサン事務長。


「ちょっと! さっきからこの女この女って、何を偉そうに言ってんのよ!」

 空気の読めない女がイーサン事務長に凄む。


 ギラリッ!

 イーサン事務長が見上げるように女を睨む。その気迫にたじろぐ女。

「なによ」

「誰のせいでこうなってると思ってるんですか! もうシャンプーとリンスを納品頂いて契約も終わった所をあなたの発言で白紙に戻ってしまったのですよ! いや、白紙どころではありません。もう契約をして頂けない可能性だってあるんです。さぁイザベラさん、あなたもさっきの発言の撤回と謝罪をしてください。そうしないと、もうシャンプーとリンスは手に入りませんよ!」

 こいつがさっきから名前が出て来るイザベラさんだったのね。出会いの印象は最悪だね。


「シャンプーとリンス? ……はっ!」

 やっと気付いたイザベラは、【御者】に対して素早く土下座をした。

「申し訳ありませんでした。先程のキャリッジ冒険団に対する発言は失言でした。撤回しますので、お許しください」


 ズワ――――――!


 イザベラが土下座をすると冒険者ギルドの職員も一斉に集まり【御者】に向かって土下座した。皆オレ達の話に聞き耳を立ててたみたいだ。

 いきなりなんだ! とギルド内にいた冒険者達が驚いて呆気に取られている。

 イザベラの後ろでは、なぜかベタ団も土下座していた。なんで? ノリか?


「先程の発言は確かに有り得ない発言でした」「申し訳ありません」「イザベラさんも少し調子に乗り過ぎただけです、許してください」「どうかご容赦を」「申し訳ござ……

 との謝罪は男性職員。


「シャンプーが破談になるなんてありえません、考え直してください」「リンスリンスー」「イザベラさんは差し上げますので、リンスの契約をお願いします」「イザベラさんを逆さ吊りにしますので、どうかリンスを」「リンス100本とイザベラさんを交換でお願いします」「リンスとイザベラさんのトレードではどうでしょう」「イザベラさんに金貨十枚付けます、リンスをお願いします」「イザベラさんを……

 とは女性職員。イザベラって嫌われてんの?


「どうか、許して頂けないでしょうか」

 代表してイーサン事務長が聞いてきた。

 ここまでされて断ったら後が大変だよな。オレは逃げれてもセンもいるしな。

「わかりました、今回だけという事で再契約しましょう」


 ドッ! っと歓喜の声が上がる。イーサン事務長もホッと胸を撫で下ろしている。

 その横では当然! っという感じで胸を張るイザベラ。なんか残念な女だな、うちだったら下っ端の刑だけどな。


「一つ条件を付ける」

「なんでしょうか」

 恐る恐る尋ねるイーサン事務長。

「このイザベラって女だけど、この女にはシャンプーとリンスを一か月使用禁止にしてほしい」


「なーんだ、そんな事なら」と一瞬緊張した女性職員達が安堵の表情を浮かべる。

 男性職員も「オッケー」と親指を立てる者までいた。

 ホント嫌われてるよね。


「そ、そんなのダメよ! もうシャンプーとリンスの無い生活なんて考えられないんだから。なんとかしてよイーサン」

 イーサン事務長が憐れむような顔でイザベラを見た後、【御者】に対して申し訳なさそうに

「どうにかなりませんか?」と小声で哀願してきた。


「じゃあ、シルビアとミランダリィさんの有益な情報と、オレ達への協力を惜しまずしてくれるという条件でどうでしょうか」

 イーサン事務長の顔がパッと明るくなった。

「それは元々のお約束ですから問題ありません。ありがとうございます、ご配慮感謝いたします」


「お館様は偶に黒いでござる」


 ギクッ!


 センの一言にドキッとした。

いや、でも、オレが悪いんじゃないよな。向こうから(けしか)けてきたんだからオレは悪くないよ。だって、キャリッジ冒険団を拉致とか言ってたんじゃないか。しかもオレの目の前でさぁ、これは当然だろ? うん、オレは悪くない。



 契約書にも改めてサインをして、イーサン事務長もひと安心だ。

 ここからようやく本題だ、恩も売ったから進んで協力してくれるだろ。


 まずミランダリィさんだけど、屋敷から出してもらえなかったそうだ。今朝、イザベラが行ってきたらしいので、確かな情報だろう。何かに巻き込まれてた訳じゃ無いみたいだから一安心だ。ミランダリィさんは放置でいいだろう。


 シルビアの件は、どうにも予想がつかないらしい。

 シルビアは元々エイベーン王国に住んでいるから、このキュジャリング王国には罪もないのに拘束する権限は無いはずだという事なんだ。

 ただ、今はまだ魔人が全員討伐された訳では無いので、保護という名の軟禁がある恐れがあるんだとか。

 四人の勇者の内、シルビアの父マクヴェルだけがエイベーン王国に行ったのは何か理由があるんだろうし、シルビアも8歳までとはいえエイベーン王国で育っている。

 税金も恐らく父親の財産から支払われているんだろう。こっちはこっちで冒険者ギルドの報酬の中から引かれてるという事ではあったが。


 何日か様子を見た方がいいという事だった。

 その間は外の依頼を受けてもシルビアは王都から出してもらえないだろう。それならダンジョンにでも籠っていた方がいいのではないかと提案された。


 また分けるのか? ボルトは嫌がるだろうからダンジョンは辞めた方がいいと思うんだよね。オレも嫌だし。そうなると、ボルト、ハヤテ、オレが外組で、ダンジョンにはシスターズの三人だけだとオレが不安になるから、センとパルとキューちゃんについて行ってもらうって事になるのかな?

 ここのダンジョンのレベルはどれぐらいなんだろ。東の森のダンジョンより上って事はないだろうから、そのメンバーでいいかな。もう何度かそのメンバーでクリアしてるしね。できればパルは森の探索が得意だから、こっちに付いて欲しいんだけどね。


「ダンジョンの依頼って出て来てからでもいいんだよね」

「はい、この王都のダンジョンは100階層からなって……あ、忘れていました。キャリッジ冒険団と言えば転送魔法陣を西の森のダンジョンに設置した方がいらっしゃいますね。その依頼をしなければと思っていたのです」


 そうだよね、オレもそれは思ってたんだよ。なんで先にシャンプーとリンスの話になったんだ?

「シルビアの事がどうなるか分かるまでは王都にいるので、全階層って事でなければ受けてもいいんじゃないかな。やるのはオレじゃないんで今晩にでも確認しておきます」

 オレもできるんだけど、ルシエルに任そうっと。


 粗方イーサン事務長との話が終わり、収納バッグの販売の話でもしようと思ってたら、さっきのイザベラが現れた。


「リーダーさん、先程は申し訳ございませんでした。頭に血が上ってたとはいえ、大変失礼な言動でした。改めてお詫び申し上げます」

 お? 登場の時とまるで別人のような話し方になってるぞ。


「いえ、あのマリーブラさんも同じようになってましたからね。取り乱す気持ちも分からないでもないです」

「そう言ってくださると助かります。それで今のお話しですが、ダンジョンに設置する転送魔法陣の事でしたね。ここ王都のダンジョンは100階層ですから、時間が無いという事でしたら浅い階層か深い階層のどちらかに絞った方がいいと思います。うちとしましては浅い階層を希望致します」


 どうしたんだ? 本当に別人だぞ。まさか双子とか言わないだろうな。

 ポーカーフェイスの【御者】だけど、驚いて声も出ないのを察してくれたイーサン事務長がフォローしてくれた。


「うちのギルマスは普段はこうなんです。ただ、偶にさっきのように入れあげてしまう時があって……」

「ギルマス?」

「はい、うちのギルマスのイザベラさんです。この国の第17王位継承者でもあります」

「継承者? ……王女?」

「はい、王女様と言っても現王の四番目の弟の第三子ですので、王位継承権には無縁と思って頂いた方がいいですね。イザベラ様って呼ぶと怒られますからね」ハハハ

 イーサン事務長は機嫌良さそうに笑いながら説明してくれた。


「ここの職員にも慕われてるんですよ、さっきのを見ればわかるでしょ? 皆、気兼ねなく接しられるイザベラさんが好きなんです」

 さっきのオレに対する職員たちの言葉は嫌いって事じゃなく、気を許してるから言える言葉だったんだな。普通、ギルマスに対してあんな事言わないもんな。


「イザベラさん、後は私が説明しますのでお部屋に戻って結構ですよ」

「そうは行きません。倉庫も確認して来ましたが、こちらの希望を最高の形で叶えてくださいました。先程の無礼もあります。私も最優先でキャリッジ冒険団の協力をさせて頂きます」

 ギャップがキツイ、同一人物とは絶対思えないよ。さっきの黒いオレを無かった事にしてほしい。


 その後も話は続き、数日滞在しシルビアの件の動向を確認した上で対応して行こうという事になった。

 最悪の事態になっても、冒険者ギルドとしてはキャリッジ冒険団に付いてくれると約束してくれた。最悪の事態とはシルビアが監禁または軟禁状態になる事だ。


 最後にオレの造れるもので売れそうなものも聞いてみた。

 収納バッグ、武器・防具、地図、紙、料理。

 売れるとすれば紙と料理だけだろうと言われた。どれも質が高すぎて売り物にできないそうだ。


 収納バッグと武器・防具は国宝級だから高すぎて買い手が付かないだろうと言われ、地図はこれだけ精巧ならダンジョン地図(マップ)なら高値で売れるが、周辺地図は周辺国家との戦争の火種になり兼ねないから出さない方がいいとアドバイスされた。

 紙は一枚銀貨一枚で買い取ってくれるって言うから10万枚出しておいた。シルビア達が学校に行き始めてから毎日大量に出しては収納を繰り返してたから山ほど収納の中に入ってる。

 そんなに使う事は無いと分かってたんだけど、紙は造る事もできるけどレベルアップボーナスで得た力で出す事も出来たからね。モノづくりの作業と並行して出してたからいくらでもあるんだよ。


 明日、シルビア達を連れて報告に来ると言って冒険者ギルドを後にした。



前話の分も名前を変更しています。

クラリス⇒イザベラ

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